第36話 研究所

「おい、セシルは!? セシルは!?」

 私は肩をガンガン揺さぶられて目を覚ます。見ると目の前には鬼気迫る表情で私の肩を揺さぶる男の姿があった。そんな彼に真実を告げるのは気が重い。私はやむなく首を横に振った。その瞬間、男は目をカッと開く。

「お前、まさか失敗したって言うんじゃねえだろうな!?」

「……」


「貴様あああああああああ!」


 男が剣に手をかけようとしたときだった。男はものも言わずにその場に倒れる後ろには拳を構えるシアと頭を抱えているディクセルの姿があった。

「悪いね、彼は妄執にとりつかれているようだ」

 ディクセルは肩をすくめてみせる。さすがに死者を使役しているだけあって反魂が容易ではないということは分かっているらしい。

「とはいえ、魔石も失ってしまったしなあ。仕方ない、死者を生き返らせるとかは諦めて普通にアンデッドの使役を極めるとするか」

 それはそれでどうなんだ? と思うけどどうしようもない。一応シアは目で「こいつやりますか」と聞いてくるが恐ろしい。そんな殺し屋みたいな生き物にはならないで欲しい。


「そう言えば一応食べ物とかって持ってます?」

 本来の目的がそれだったので聞いてみる。

「ああ。アンデッドは食べないけど俺は食べるからね。多少なら分けてあげよう」

「ありがとう」

 何かこいつがすごくいいやつのように思えてきたが、おそらくシアと私の魔力に恐れをなしただけだろう。シアはディクセルに殴り掛かりたそうな顔をしていたが気づかない振りをして、私は食糧を分けてもらうと急ぎ死者の村を後にしたのだった。


 そんなことがあってから数日後。いよいよ魔王領も辺境になってきたためか、特に大した魔物と出会うこともなく私たちは目的の山脈にやってきた。魔王領の果てと言うだけあって黒部アルプスのように巨大な山々が目の前にはそびえている。


「そう言えば今まであんまり山とかなかったな」

「そうですね。むしろ山に囲まれた広大な盆地の中で人間と魔物が覇を競っていたと言えなくもないです」

「じゃあ山の向こうには何かあるの?」

「さあ……私が聞いたのは荒れ果てた大地が広がっているという話ですが」

「ちなみにこの山の中は?」

「あまりこの山の中の魔物が外に出てくることはないので、恐ろしい者が住んでいるとも何もいないとも」

「何もいないといいけど」

「恐ろしい魔物が住んでいるといいですね!」

 目をキラキラさせて言うシア。もうだいぶ慣れてきたけどさ。


「それで、特にどのあたりにいるとかは分からないわけだ」

「まあ、そもそも実在するのかどうかもよく分からないですしね」

 私たちが探している異世界に詳しいという魔術師だが、こんな恐ろしい魔物が住んでいるかもしれないとかいう大ざっぱな噂が出るような山々だから、それも噂程度の存在な気がしてきた。


 ともあれ、私たちは普通に山の中へ足を踏み入れる。当然道のようなものはないのでシアが持っている方位磁石のようなもので何となく奥の方、上の方へ向かってうっそうと茂る木立の間を歩いていくだけである。その辺に生えている木も平地の方の木とは違い、葉っぱが紫色をしている。日の光が当たりにくいからあんまり光合成しないためだろうか。まあ、この世界の木々が光合成しているのかは知らないけど。ちなみに私たちの周りはシアがナチュラルに発光しているので明るい。……うん、もう何でもありだね。


「でもこんなところのどこかに小屋とか作って住んでたら近くを通っても見逃しちゃいそうだよね」

「そうですね。せっかくこんな誰もいない山奥で研究しているんならどーんと大きい研究所ぐらい構えていて欲しいですね。例えばほら、あんな風に……え」

 そう言ってシアは上の方にある謎の建造物を指さして固まる。

 木立に遮られてあまり見えないが、森の上まで突き出している金属っぽい建造物の一部が見える。吸盤のような浅いドーム型の中央から何か棒のようなものが突き出しており、その開いた先が空に向いている。電磁波とか出しそうな感じだ。

「……あれじゃないですか?」

「そうだよね、むしろ噂の人と違ってももうここにいる人でいいやってぐらいあれだよね」

 こうして私とシアは謎の建造物の方へと向かうのであった。

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