第31話 混血の村 Ⅰ

 魔王城を離れて南方へ向かっていくと、魔王領の中でも辺境に分類される方面が広がっている。基本的に野心のある魔物は魔王城付近か、そこから東にいった人間領付近のどちらかに住む傾向がある。

 しかし辺境だからといって弱小魔物ばかりが住んでいるとは限らない。ミルガウスのように研究者気質だったり、その他魔物社会ですら異質な存在である者たちが住んでいることが多々ある。ただ、そういう魔物たちは近くを通りかかっただけでいきなり襲い掛かってくることはないため、私たちの旅はだんだん平和になっていった。もちろん、どこにでもゴブリンのような繁殖力の強い魔物は一定数いるけど。


「ねえ、あの村人間いない?」

 そんな旅を続けていると、ある日私は行く手に比較的人間社会に近い村があるのを見つけた。

「え? 道は間違っていないはずですが」

 シアが方位磁石を取り出したり太陽の位置を確認したりする。もちろん、知らぬ間に人間領に戻って来てしまっていたなんてことはない。

「でも本当ですね、あ、魔物もいます」

「確かに」

 村の中には人間がちらちら見えるが、同時に魔物も見える。とはいえ、人型で比較的人間に近い容姿の魔物だ。ちょっと体が大きかったり牙や角、翼が生えていたりする。


 私は久しぶりに人間社会に近い環境を目にして湧き上がる感情を抑えきれなかった。ベッドで寝たい、と。


「ねえシア、ちょっと寄ってみない?」

「いいですが……人型の魔物は強力な魔力を持つことが多いという統計もありますが」

 噂によると魔王も意外と人型だったりするらしい。

「ちょっと話してみるだけなら大丈夫でしょ」

「確かに逆に強力な魔力を持つ方がいるのはありですね!」

 シアから不穏な気配を感じたが気づかなかったことにする。


 私たちが村(?)の方へ歩いていくと、見張りらしき兵士がこちらにやってきた。人間のように見えて兜を突き抜けて角が生えている。遠目に見ると兜のデザインに見えなくもない構造だ。

「何者だ」

「ただの旅人だけど。ちょっと寄ってもいい?」

「む……」

 兵士の目が鋭くなる。そして私とシアを交互に見つめた。

「さすがに人間のスパイではないか。まあ、寄るだけならいいだろう」

 そうか、ここでは魔物より人間のスパイであることが疑われるのか。ただ、私の服装は現代日本の制服でシアは忌み子だから人間社会からスパイには見えないのだろう。

「ありがとう」


 そう言って私たちは村に入る。村の中には小さいながらも畑が広がっている。人間の村では村の周囲に畑があることが多いが、それだとここでは魔物に荒らされるのだろう。住民たちの涙ぐましい努力がうかがわれる。

「ねーねーお姉ちゃんたちも私たちの仲間になるの?」

 不意に私たちは幼女に声をかけられる。見た感じ普通の人間に見える。

「え、仲間?」

「うん。時々外からふらふら~って人がやってきて仲間になるの。村長さんところ行く?」

「じゃあ連れてってもらおうかな。私たちはただの旅人だけど」

「分かった」


 そう言って少女は私たちを村の中心へと案内する。村の中を歩いていると村人たちは私たちを警戒や好奇の視線で見つめてくる。まあ、魔王領にあるこの村に人間がやってくることは少ないもんね。

 私たちが案内されたのはまるで人間の家のような一軒の家だった。ここだけ魔王領とは思えない。

「おじいちゃーん、お客さん連れてきたよー! それじゃ!」

 そう言って少女は去っていき、代わりに白髪の老人が出てくる。この老人はどこからどう見ても人間だ。

「あなた方は?」

「訳あってこの辺りを旅してる者だけど、久しぶりに懐かしい村を見つけたから」

「そうかそうか。お二人はここが何の村か分かるか?」

「いや……」

 シアの方を見る。するとシアは遠慮がちに口を開く。

「もしや……忌み子の村ですか?」

「惜しいな。そうか、お前さんは忌み子なのか」

 老人は感慨深そうにシアを見て頷く。そして告げた。

「正解は魔物と人間の混血、そしてその家族の村だ」

「なるほど……」


 私たちは理解した。人間領にいればすぐに排除されてしまう存在。だが、魔王領であればある程度の自衛の力があれば生きていくこと自体は許される。逆に力を失ってしまえば淘汰されるだけだけど。

「わしは元々人間領の普通の村人であった。いや、普通ではないな。一応村一番の剣士と言われてはいた。しかしあるとき魔物の一団が奇襲をかけてきてな。何とか追い返したものの村は蹂躙され、わしの娘は魔物の子を孕まされた。堕ろすよう勧めたが娘は生むと言ってきかなくてな。それに娘の容態も悪く、堕ろそうにも娘の身体が持ちそうになくてな。そのまま隠れて生ませるはめになってしまった。それでも生まれるまでは何とか隠し通すことが出来た。しかし生まれてからはもうだめだった。すぐに噂が広まり隣街から兵士が来るという話が出た時、わしは逃亡を決意した。ちょうどそのとき、わしの村に来た魔物の一団が孕ませていった女が一斉に出産の時期を迎えていた。だからわしらは連れ立って魔王領に亡命した。人間たちからは気味悪がられたが、出ていくといったらさすがに殺されはしなかった」

「なるほど……でも食糧は? あの小さな畑だけじゃ賄えないでしょう?」

「……村を襲ってくる愚かな魔物は後を絶たないのでな」

 村長はそれ以上は語りたくないっという風に言った。


「ちなみにこの村はどうやって守っているの? あなたの剣技で? あの見張りもそういう人?」

 私は疑問に思ったことを尋ねてみる。

「犯罪などに手を染めて人間社会に住めなくなった兵士を雇っている。ただ、村を守っているのは仕掛けがあってな」

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