第25話 魔石
少し奥へ進んでいくと、壁に突き当たり、再び扉があった。大きさは大したことないが、厳重に警備されていることを示すかのように鎖がぐるぐると巻かれている。
「ディストラクション」
セラが唱えるが、しんとして扉には何の変化もない。先ほどの天井のように硬くて打ち破れないというのとはまた違いそうだ。
「うーん、魔法耐性がついてるわ。暴力で壊せるかは分からないけど、私たちにそれはないし。うーん、私は脱出用にも魔力を温存したいし、頼んでもいい?」
セラは私を見る。私もちょうどどこかでミルガウスの魔導書を試してみたかったので異存はなかった。
扉を見ると、確かに扉に魔法を作用させるのは難しいと直感的に分かった。しかし、扉周辺の空間ごと消してしまえばそんなものは関係ないような気がした。闇属性魔術師って結構訳の分からない思考回路してるんだな、と思いつつ私は意識を整える。
「我らの行く手を阻む扉よ、永劫の闇に抱かれて眠れ」
瞬間、魔導書から凄まじい魔力が放出されるのを感じた。ストーブの上で蜃気楼が見えるように魔導書周辺の空気が歪んで見えた。魔導書から放出された魔力が私の体内を駆け巡り、私の体を介して扉に向けて放出される。放出された魔力は永遠の闇となって扉とその周りの空間を包み込む。やがて闇が晴れたときには目の前にはぽっかりとした虚無の空間が広がっていた。
「こうしてみると闇属性魔法って反則ね」
「そうだね……あ」
私はふと手元の魔導書に黒い染みのようなものが広がっているのを見つけてしまった。落として汚れたとかそんなことはないから、さっき魔法を使ったときに変質したのだろう。
「あなたの魔法が強すぎて耐え切れなかったのかもしれないわね」
「ええ」
せっかくノーコストで魔法が撃てるようになったと思ったのに。
「まあでも、あの魔石を手に入れれば帰る訳だし、いいんじゃない?」
セラが指さす先にはキラキラしたサッカーボールぐらいの宝石があった。見る角度によって違う色に光り輝くその石からは確かに膨大な魔力が感じられた。私はセラに手を引かれて虚無となった空間を跳び越える。魔石は重要なアイテムの割には無造作に棚に置かれていた。
「他に強そうな剣とかいっぱいあるけど」
「馬鹿。魔石を持っていくのは魔術師を強制送還するためで言い訳が立つけど、余計なものをあんまり持っていくとさすがに許されないわ」
ここまで派手に宝物庫を破っておいて言い訳が立つのだろうか。魔王の考えはよく分からない。というか余計なもの、ていうけど私が持ってった宝石は大丈夫だろうか。とはいえ、私はもう帰るので関係ないだろう。誰が盗ったかなんて分からないだろうし。
「ふふふ、これでついに世界間移動の魔術が使えるわ」
セラの目に怪しい光が宿り、魔石に手を伸ばす。あの扉以外に特に何か罠などがある訳でもなく、魔石は素直にセラの手の中に収まる。セラはそれをいとおしそうに布でくるんで背負う。
「さて、後は人気のないところに移動するだけよ」
「うん」
いざ帰るとなると急に魔法の使用が物足りなく私がいた。せっかくならもう少し魔法を使いたい。魔導書も黒ずんでるけどあと一発ぐらいなら使えるかもしれないし。
そんなことを考えつつ私はセラに手を引かれて宝物庫を出る。このまま何事もなく元の世界に帰れる、そんな風におもったときだった。
「おっとっと」
突然セラが私の腕を引っ張って宝物庫の中へと連れ戻す。何かと思う間もなく、目の前の地面に氷の槍のようなものが五本ほど突き刺さっている。一瞬にして私の緊張感が限界まで高まった。
「おいおい、それは俺がクリスティア本教会を氷に閉ざすための石だ。持っていかれると困るんだよな」
「お前は……七人衆の一人、“氷雪のガルーザ”」
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