第24話 宝物庫

 セラのホバリングにより発生した空気の上昇に包まれた私たちは緩やかに高度を上げていく。そして間もなく目の前の黒い壁を超える高度になろうというとき。


ガツン!


「痛たたた……」

 唐突にセラが見えない何かに頭をぶつける。思わず手を伸ばしてみると確かに私たちの頭上に見えない天井のようなものがある。セラより背が低くて良かった。

「まあ、そんなに簡単に魔法で城壁を飛び越せる訳ないよね」

「簡単じゃないわ。ホバリング自体も制御が難しい魔法なのに二人同時になんて誰にでも出来ることじゃないわ」

「ちょっと、揺れてる揺れてる」

 動揺した瞬間気流が乱れたところを考えると、本当に制御が難しいのだろう。

「こほん、取り乱したわ。でもそっちがその気ならこっちだって考えがある」

 なぜか魔王城相手にやたら闘志を燃やすセラ。そして天井に向かって手を伸ばす。

「え、ちょっと、それやるなら私いったん地面に降りたいんだけど」

 が、私の言葉が聞き入れられることはなかった。

「バーストフレア」

 パン!という爆発音とともにセラの手から魔法の炎が飛び出す。が、見えない天井に阻まれて炎は広がるばかりで、反動で私たちの方が逆に飛ばされた。それを見てセラはちっと舌打ちするがこりずに次の魔法を唱える。

「ディストラクション!」

 キン!という金属音のような音とともに天井に何か亀裂のようなものが走った。

「ふう……傷がつくということはいつかは壊れるということね。ディストラクション!」

 その後セラはひたすらディストラクションを使い続け、魔王城の一角ではカンカンキンキンと甲高い音が響き渡ることになったのであった。

「はあ、はあ、はあ……これで……終わりよ」

 バキン!

 セラの執念とも言えるディストラクションによりついに天井は砕け散った。

「すごいな」

「そうよ、私は七人衆筆頭の魔法使いよ」

 セラは荒い息で答えるが、すごいと言ったのは主に執念のことである。そんなこんなで私たちは魔王城の上へ浮上した。上から大要塞を眺めるというのはなかなか壮観だった。問題はセラが目立ちまくったせいで魔物たちが続々と警戒のために集まっていることだけだろうか。

「大丈夫、奴らは私たちをただの愉快犯としか思っていないわ」

 セラは地図を広げると宝物庫へ向かって降りていく。地上に集まっていた有象無象の魔族たちは健気に私たちを迎え撃つべく向かってくるが、迷路のような城の中を移動するのは容易ではなく、私たちは彼らを振り切って宝物庫前に着地した。


 宝物庫は一つの大きな建物のように魔王城の一角に鎮座していた。それだけで小さな屋敷と言えるような造りである。当然そこには巨大な棍棒を持った二メートルほどの太った魔物が見張りに立っている。魔物のくせに重たい鎧に身を包んでおり、ぎょろりと光る巨大な目がこちらを睨みつけている。

「私今日得意な呪文が出来たわ……ディストラクション」

 セラが唱えるとともに宝物庫の壮麗な門がぼろぼろと崩れ落ちる。それを見てトロールは同時に棍棒を振り上げる。

「行くわよ」

 セラは私の腰に手を書けると何かの魔法を使ったのだろう、目にも止まらぬ速さで中へ入っていく。私たちの遥か後ろでトロールの棍棒が空を切るのが見えた。

「速い」

 言っている間にセラは宝物庫の中に飛び込む。

 宝物庫の中はその名の通り宝石や財貨で満ちていた。天井は魔物にも配慮されているのか私の二倍ほどもあり、広い部屋だが財宝を載せた棚が何列も立っているせいで全然そう感じない。しかしよく見ると、やはり魔物のためか通路もきちんととられている。床に宝石がぶちまけられていなければもっと広く感じただろう。宝石や金貨はおおざっぱに分類されて棚に押し込まれている。


 が、セラはそれらには目もくれずにずんずん奥へ歩いていく。私はセラに見られないようにこっそり手を伸ばしては宝石をポケットへ入れていく。……宝石なら現代でも換金できるかもしれないからね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る