第23話 魔王城
「じゃあ頑張ってね~」
私たちはミルガウスに見送られて家を出た。いよいよ魔王城周辺になってくると、摩天楼のような高い塔や、窓が一つもない真四角の建物、様々な生物の髑髏で装飾がこらされた悪趣味な家など様々な建造物が並んでいる。
「魔物は個体によって生態も趣味も様々だから人間の街みたいに同じような建物が並ぶ感じにはならないんだよ」
「みたいだね」
「ちなみに、魔王城近くにいる魔物は大体お互いの力関係を知っているから無闇に襲われることは減ると思う」
「それは良かった……」
不意を打たれてもセラが対処してくれていたとはいえ、食事中に襲われて食べ物を落としたり、寝ているところを起こされたりと気苦労は絶えなかった。
魔王城は人間が作る城のイメージとは少し違った。でかい建造物が建っているというよりは、でかい山がありその山肌にびっしりと黒い石造の建物が並んでいて要塞のようなイメージだ。そのため、遠くから見ると黒いでこぼこした山にも見える。そしてその麓にある城門の周辺には黒い鎧を着たゴブリンたちがひしめいていた。
「さすがに壮観だね」
「でもこんな要塞もあなたなら一発で」
セラが声をひそめつつも物騒なことを言う。一応気になったので城門に近づく前に私は確認しておく。
「ちなみに私はどういう立場という体で城に入るの?」
「私の奴隷の振りというのはどうかしら」
そう言えばどこかに潜入するときに誰かの奴隷の振りをするシチュエーションってよく見るよね。弁慶の勧進帳以来の伝統なのかな。あれは奴隷まではいかないけど。
が、私はセラが無言で取り出した奴隷のものと思われる首輪を見て嫌な予感がした。
「それは嫌だ」
「……この首輪をつけてもらえればあなたは私の命令に逆らえなくなるのに」
不器用なセラなりの冗談であったことを祈るばかりだ。私が断るとセラはすぐに首輪をしまったのでやはりそうだったのだろう……と信じたい。
「まあいいわ。そんなことしなくても私の客人で通ると思う。基本的に個人対個人であれば魔物の方が有利である以上、暗殺はそんなに警戒してないから」
「え、じゃあ何のための門と警備兵なの?」
「それは魔王の威容を示すためじゃない? いくら暗殺の警戒をしてないからといって掘っ立て小屋に住んでいたら恰好がつかないでしょう」
「それはそうだけど」
魔物領は思った以上にオープンなところらしかった。ここまでオープンだと、もし魔王より強い魔物が現れたらすぐに魔王にとって代わるのだろう。
そんな訳で私はセラと一緒に城まで歩いていった。城門で誰何されたもののセラが名乗るとすぐに門は開けられた。ちなみに私は「知り合いの魔術師」と言われた。名前すら聞かれなかった。
城門をくぐると中は迷路のようになっていた。建物はびっしりと建てられているものの、一応等高線のように連なって建っている。そのため、どこからなら上に上がれるのか、訳が分からなくなりそうだった。
「それで宝物庫は?」
「大丈夫よ、地図があるから」
そう言ってセラが一枚の紙を取り出す。地図にはこの複雑な魔王城の図が描かれており、中腹の一点に印がついている。
「それでどうやってここまで行くの?」
残念ながら地図には場所は書いてあってもそこまでの行き方は書いていなかった。
「面倒だし、このくらいの距離は飛ぶわ。はい」
そう言ってセラが手を差し出す。
「う、うん」
私はセラの土壇場での計画性のなさに嫌な予感がしたが、魔王城の事前調査などは難しいだろうと思って納得してしまう。そして私はセラの手を掴んだ。
「ホバリング」
セラが唱えると足元からゆったりと空気が吹き上げて私たちの体が浮き上がる。
そして。私は知ることになる。魔王が威容を見せつけるためにわざわざ迷路のように作った城の中で簡単に飛んだりさせてくれるはずがないことに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。