第26話 氷雪のガルーザ
「久しぶりだな、セラ」
そう言って降りてきたのは雪で出来ていると思われる翼をはためかせている人型の魔物だった。普通の魔術師風の青いローブを羽織り、宝石がついた杖を持っており、一見すると普通の人間だが額に第三の目(?)がついておりこいつが魔物であることを示していた。
よく見ると先ほど私たちがやり過ごしたトロールたちが氷漬けになって転がっており、こいつがかなりの実力者であることをうかがわせる。
「何しに来たのかしら」
「俺たち魔法使いがここに来る理由なんて一つしかないだろう? あの扉が破れなくて困っていたんだが破ってくれてたすかったよ、たまには役に立つんだな」
そう言ってガルーザは嘲笑する。
「は? この魔石はあなたみたいな野蛮な威力だけの魔法に使うほどありふれたものじゃないの。これを使うにはそれ相応の魔法である必要があるわ」
「何を言う。人一人を異世界に移動させるなんて大したことないだろ。それよりもクリスティア教会さえ何とかすれば人間陣営は終わりだ。そうすれば俺たちの勝利は確実」
やはり私の行動は回り回ってこの世界の人々を救うのに役立っている。
「何言ってるの? この人は異界の闇属性魔術師様よ。もし彼女が我らに敵対すればクリスティア教会なんて目じゃないわ」
「え、じゃあ味方にすればいいだろ。ほら、俺たちは人間よりもすごい魔法使えるんだ。すごいだろ、一緒に魔法を極めようぜ」
そう言ってガルーザは無意味に氷の槍を大量に発生させて虚空に撃つ。確かにすごいけどこいつは仲間になりたくないオーラがある。
「いや、私元の世界に帰りたいんだけど」
「は? お前魔術師の癖に魔法より大事なことがあるのかよ。失望した、今回の魔術師は器が小さいな」
ガルーザは挑発なのか素なのか、露骨に落胆してみせる。そんな魔術師としての尺度で私を計られても困る。
「気にすることないわ。奴は魔法の威力でしか人を評価出来ない単細胞。あなたの魔法は十分奥深いわ」
「別にそこは気にしてないんだけどね」
「ちなみに、あなたが助けた女の子が目覚めたドルヴァルゴアの信仰だけど、こいつもだから」
「それは何か嫌だな」
確かにこいつはドルヴァルゴアとの親和性は高そうだけども。あの子がこうなるのは嫌だなあ。まあ、もう会うこともないだろうからいいけど。
「まあでも、帰るのはいいがその石を使われるのは困るんだよな。つまり、お前をここで殺せば帰る必要はなくなるし石も使わなくていいってことだ」
ガルーザはそう言って私を指さす。
「へえ? あなたごときに私と幸乃二人を相手に出来ると?」
セラも挑発的な笑みを浮かべる。……つまり、一人だと厳しいのは否定しないんだ。
「おいおい、同じ七人衆とか呼ばれて俺と同格のつもりかもしれないが、お前のみみっちい魔法と俺の魔法、どっちが強いかはお前もよく分かってるよなあ?」
まあ、薄々分かってたけどセラは戦闘メインの魔法使いではないよね。
「幸乃、私が適当にこいつをあしらっておくからあなたは自分のタイミングでこいつに一発入れて」
「分かった」
ちょうど私もあと一回ぐらい強敵相手に魔法を使ってみたいと思っていたところだ。ちなみに魔族の価値観に卑怯とか正々堂々とかはないのだろう、二対一であることは相手も指摘してこなかった。
「行くぜ。まずは小手調べだ」
ガルーザが杖を振ると大量の氷の槍が今度はこちらに飛んでくる。
「ディストーション」
セラが手をかざすと氷の槍はそれぞれ微妙に軌道を変えてあらぬ方向に飛んでいく。そしてそのうちの一発がガルーザの方へ飛んでいく。が、ガルーザはそちらを見もしない。氷の槍はガルーザに命中する寸前で見えない壁にでも当たったかのように落下する。よく見るとガルーザの周辺には彼を護るように氷の壁が張られていた。
「その程度で俺と戦う気か? 次だ、ブリザード」
突然空が暗くなり、周囲に吹雪が吹き荒れる。が、私の周りにはセラが張ってくれたのか結界のようなものがあり、雪や氷が私に命中することはない。
「とはいえ守りに入ると分が悪いわ、ディストラクション」
セラが唱えるとガルーザの周りの氷の壁にひびが入る。ガルーザは慌てて吹雪から離れる。ブリザードは氷の壁がなければガルーザ本人にも有害らしい。ガルーザが離れるとブリザードの威力も弱まる。
「サンダーブレイク」
ガルーザの上から稲妻が降り注ぐが、ガルーザは氷の盾を作ると危なげなく受け止める。そして無造作にそれを放り投げた。
「っ」
セラは首をひねってそれを避けるが間一髪だった。後ろにあった宝物庫の壁に盾が突き刺さる。一応互角に戦っているが、全体的にセラが劣勢だ。となればここはやはり私が決めなくては。
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