第14話 セラ Ⅱ

「でも、クリスティア教会は私を送り返す余力がなさそうなのに魔王軍は私を送り返してくれるの? 単に私が人間側だから?」

 私は素朴な疑問をぶつける。まさか魔王軍が圧倒的優勢で余裕だから、とかではあって欲しくない。

 が、セラの口から返ってきた答えは予想の斜め上をいくものだった。


「一言で言うと私の個人的な欲求かな。やっぱり世界と世界を移動する魔法を使うのは魔法使いの憧れだから」

「は?」

 私は開いた口が塞がらない。大丈夫か魔王軍。それともこいつは簡単にそういう魔法が仕えるレベルの魔法使いなのだろうか。

 私の疑問に答えるようにセラは続ける。

「人間側は基本的にクリスティア教会を頂点に組織的に戦ってるでしょう? 魔王軍は魔王が圧倒的なカリスマを持っていると思われがちだけど、人間以上にフリーダムな組織だわ」

「はあ」

「世界間転移魔術レベルの魔法を使うには膨大な量の魔力が必要になる。ただ、魔王様は大規模魔術の行使に使える魔石を保有しているわ」

 魔石というのは魔力の結晶を指すらしい。エリアからこの世界の魔法について話を聞いたときにちらっと出てきたものだ。当然魔石にも大小があり、大きいものほど稀少である。世界間転移に使うレベルの魔石は当然かなり稀少なものだろう。


「それを私に使ってくれるの?」

「いやいや、そんなの勝手に使うに決まってるでしょう」

「ほえ?」

 相変わらず魔王軍内部の事情は意味不明だ。そんなことが本当に出来るのなら苦労しないが。

「現在、魔王軍七人衆のもう一人がその魔石を『本協会にメテオストライクを撃つのに使いたい』と主張しているわ。でも、私メテオストライクみたいに威力だけは高いけど美しくない魔法って好きじゃないの。でも、さすがにその辺の犬とかを異世界に送ったら殺されるし、第一美しくないわ。やはり送る対象も相応の人物じゃないと」

 セラは自分に酔っているのか、分かるような分からないような論理をとうとうと語り続ける。確かに、いくら大司教がクソ野郎とはいえ、あそこにメテオストライクを落とされれば魔法の名前的に街全体に被害が及ぶだろう。それはさすがに嫌だった。だったら私が送り返されることはこの世界の人間のためにもなるということである。

「なるほど。でも勝手に使うとか出来るの?」

「そこは頑張るしかないわ。でも私に加えてあなたの魔法があれば大体どうにかなるはずよ」


 そこで私はふと嫌な予感がする。いや、予感というか八割ぐらい確信と言っていいだろう。セラの誘いに乗るからにはてっきり円満に帰れるのかと思っていたが、どうも魔石を手に入れるためには頑張らないといけないらしい。

「ちなみに、魔石は今どこにあるの?」

「そりゃ魔王城宝物庫よ」

 セラは当然のように答えるが私は嫌な気持ちになる。

「それって入るの大変だよね?」

「まあ。でも魔王城には顔パスで入れるし、大丈夫じゃないかしら。魔王様だって城にいないときはいないし」

 大丈夫なのか? 私は不安しかない。

「それにあなた魔王を倒すために召喚された魔法使いでしょう? そんなにびびることないんじゃない?」

 いやいやいや。そんなにうまくいくならさっさと魔王倒して帰るわ。

 が、とりあえずセラには「魔王? そんなの余裕ですが?」という雰囲気を出しつつ答える。

「ま、まあね。でも勝手にそんな大事なもの使って怒られない?」

「あの威力馬鹿は怒るかもしれないけど、異世界の魔法使いを送り返したって言ったら魔王様は許してくれると思うわ。私はあなたが魔王を暗殺する気満々で城に来たところをだまし討ちで送り返したことにするし」

「そ、そう」

 相変わらず発想がぶっ飛んでいてついていけない。

「でもまあ、そのときには私は帰ってるし心配しなくていいか」

「そう、それよ。最悪許されなくても世界間転移魔術に成功してから死ぬならまあいいわ」

「うん……死なないといいね」


 一瞬でも魔王陣営を良い人たちだと思った私が間違っていた。単にこいつらは私たち一般の人間の価値観を超えているだけだ。私たちとは全く価値観が違うから私たちから見れば良く見えることも悪く見えることも平気でするのだろう。こいつはあえて人間に当てはめれば芸術家気質みたいな感じで、魔法に対してそういうこだわりがあるのに違いない。

 確かにそういうタイプの人間は人間社会ではやっていきづらいのだろう。まあ、魔王軍でやっていけるのは驚きだけど。実力があれば何でもいいのだろうか。とはいえ、これを逃せばもう帰る方法は見つからないかもしれない。

「分かった、あなたの提案に乗ることにする」

「ありがとう。あ、そうそう、さっき殺しとけば良かったとか言ったけれどそういうのはしないから大丈夫よ。私にとってあなたを無力化することは理由に過ぎないから。私の目的は世界間移動魔術を使うこと。だから万一あなたの命を狙う人間がいても守ってあげるわ」

「それはどうも」

 どうやら、私はセラにとっての作品の一部に過ぎないようだった。同じラノベを書くのでもその辺の人のイラストよりは神絵師にイラストをつけてもらう方がいいのと同じだろう、と私は思うことにした。

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