第7話 疑念

「大丈夫ですか、幸乃さん!? 幸乃さん!?」


 ショックのあまりしばらく意識を失っていたのだろうか。私はエリアの声でふと我に帰った。そう言えばそもそもエリアが村を助けるために戦いを始めたのが発端だったっけ。

「ああ、エリア……」

 私はよろよろと声の方を振り向く。そこには息を切らして駆け寄ってくるエリアの姿があった。幸い、特に外傷らしい外傷は見受けられない。

「あんな巨大なサイクロプスを瞬殺するなんてすごいです。でも大丈夫ですか? 魔力の使い過ぎでしょうか?」

 私がよほど憔悴して見えるのか、エリアは心配そうに肩に手をかけて揺さぶってくる。こんな風にすぐボディタッチできるところも陽の者っぽいな、と私は場違いなことを思う。

「エリア、やっぱり私魔王とは戦えない」

「え、そうですか? 分かりました」

 一瞬エリアの顔に「そんなに強いのに?」という思考がよぎったような気がしたが、私を見てその思考を飲み込んだようだった。今のサイクロプスが魔物の中でどれくらい強い方なのかは分からないが、少なくとも魔王はもっと強いだろう。そんな存在との戦いに強力な魔力を持つ自分が参加しないことに少し心が痛んだが、エリアの言う通り元々これは私に何の関係もない戦いだ。


「大丈夫です、大司教様も戦うのが嫌だと言っている方に魔王と戦うことを強制なんてしないですよ。あたしからも話してみます」

「ありがとう」

 エリアは異世界人である私を巻き込むのが不本意だと言うだけあって優しかった。

「とりあえず今日はもう休みましょう。幸い、宿は無事です」

「あ、ありがとう」

 私はエリアに手を引かれて宿に連れ込まれる。辺鄙な村の宿で本当なら部屋が汚いとか虫が出そうとか色々気になるところだったけど、私は何も考えずにベッドに身を横たえる。魔法一発でこれだけ辛いのに魔王と戦うなんて。私は戦いが終わるまでゆったりしていて後で帰してもらおう。


 そこでふと私の中に疑念が芽生えた。エリアは当たり前のように、魔王が倒されたら私は帰してもらえると言っていたけどそれは本当なのだろうか。エリアも言っていたように異世界から人を呼んだり帰したりするのはかなり大変な魔法らしい。だとしたら戦いが終わったからといってその大変な魔法を使ってもらえるのか? それに、そもそも異世界から召喚された者が素直に言うことを聞く保証はない。特に闇属性魔法使いは性格に問題があるという伝承があるらしいぐらいだから向こうも私の人格に過度の期待はしていないのではないか。だとすれば私を戦わせるために何か担保のようなものを用意しているはずだ。そしてそれにうってつけなのが元の世界への帰還だ。私が魔王と戦えば元の世界に帰す。逆に戦わなければ帰さない。そのくらいの考えを相手が持っていても不思議ではない。


 一度そう思い始めると私の心の中に出来た疑念は大きくなる一方だった。

 もし帰してもらえそうになければ私はどうする。素直に魔王と戦うか。それとも。そこまで考えたところでようやく疲れが脳に勝利したらしく、私は意識を失った。

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