第三十九話 溢れる力、止まらぬ享楽

「お前、?」


 ≪塔≫だけが、感じ取っていた。


 アマちゃんの感情を代償に得た、この力を。


 姿が変わり、力が増し、そして悲しみを纏った≪太陽≫の姿で、僕は指輪を掲げる。


「≪炎熱剣ソード・コード≫」


 指輪が熱くなる。

 赤く発光する粒子が溢れる。

 僕の眼前に、≪炎熱剣≫が生成される。


 それの外見もまた、変化していた。

 鎧と同じく黄金の装飾が施され、そして刀身が伸びている。

 刀身に刻まれていた炎の紋様が、さらに苛烈に燃え上っている。


 僕はそれを、掴む。

 慣れ始めていたその剣の重さは、これまでの百倍を超えるほどになっている。

 質量が、密度が、比べ物にならないほど増している。

 しかし、今の僕にはそれですら軽く感じる。 

 これが、遥か遠い未来の僕が手にする力。


「強いのは、最高だぜェ……。見せてみろォ! 赤いのォ!」


 ≪塔≫は、僕の力をおそらくかなり正確に感じ取ったうえで、立ち向かってきた。

 それこそが、彼の在り方なのだろう。

 この男は自分の願いに忠実だ。

 強い相手と、戦いたい。

 それがすべて。


 その意味で、この男を倒すことは、人ひとりの願いを殺してしまうことに変わりない。

 

 だけど。

 守るためになら闘える。

 そのためにこの力を得たのだから。

 大切な友達という、大きすぎる犠牲をはらってまで。


「≪韋駄天脚アクセル・コード≫」


 次の瞬間には、僕は≪塔≫の背後を取っている。

 ≪死≫の使っていた瞬間移動スキル、≪死の足音リープ・コード≫よりもずっと速い。


 ≪塔≫は超人的な反応で察知し、振り返ろうとする。


 それでも、遅い。遅すぎる。

 僕は、片手て≪炎熱剣≫を振るう。

 刀身から炎が溢れだす。


 ≪塔≫は応戦することを諦め、横へ跳んで回避を試みる。


 斬撃は直撃には至らなかった。

 この力を、僕がまだ完全に制御できていないせいだ。


 しかしそれでも、≪塔≫の肩の装甲を大きく削ぎ落した。

 剣を振ったその余波で、地面に深い斬痕が残る。

 この≪炎熱剣≫の切っ先は、今までの≪灼熱刀≫よりもさらに熱い。


「ぐおおおッ」


 それだけでは、終わらない。

 ≪塔≫の暗い紺色の装甲が、≪炎熱剣≫の炎に触れて赤熱する。

 直線的なラインの装甲は、炎の熱で醜く歪んだ。


「まだだ、もっと楽しませろォ!」


 ≪塔≫はそれでも立ち向かってくる。

 

 僕は、≪炎熱剣≫を振るい炎の斬撃を飛ばす。

 濃密な炎の塊が、≪塔≫へと迫る。


 しかし、≪塔≫は辺りのガレキを盾に使いそれを凌ぐ。

 ≪塔≫の代わりに炎を受けたガレキは、周囲の地形を吹き飛ばしながら、消え失せた。


 今、僕の周りでたくさんの仲間が倒れている状況でこの力を使うのは、やめた方がいいかもしれない。

 力を抑えようにも、それだけの制御力が今の僕にはない。


 僕がそれ以上炎を放たないと分かると、≪塔≫は喜々として接近してきた。

 近くのガレキを足場に跳躍し、頭上から踵落しを叩きこもうとしてくる。


「せええええッ!」


 僕はそれを左腕で受ける。

 轟音と、風圧を撒き散らしながら≪塔≫の踵が激突する。


 しかし、今の≪太陽≫には傷一つ付くことはない。


「まだまだァ!」


 ≪塔≫はその場で拳を突き出す。

 ボクシングスタイルでの素早い牽制。

 僕はそれらを、全て左腕一本で反らしきった。


 次に≪塔≫は、一撃の威力を追求した正拳突きを繰り出してくる。

 僕は、左の掌で受け止めた。


 そして、そのまま≪炎熱剣≫で≪塔≫の右腕を切り落とした。


 歪んだ装甲に覆われたその腕は、何の抵抗もなく綺麗に切り落とすことができた。


「やるなァ!」


 ≪塔≫が、痛みに喘ぐことはない。

 未だ、この戦いを楽しんでいる。


 ≪炎熱剣≫を構え、もう一度≪塔≫に向けて一閃する。

 今度はもう、躱させない。腕を切るだけでもない。

 確実に命中させ、今この戦いを追わらせる。


 そう、覚悟して、男を両断するように振り下ろした一撃だった。


「これなら俺も、本気を出せるぜッ……! 」


 ≪炎熱剣≫に触れる直前、≪塔≫がそのスキルを高らかに叫んだ。


「≪野生解放パージ・コード≫ォ!」

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