第二章 バトルロワイヤル
第七話 vsドラゴン
≪
目を開くと、そこは再び廃墟だった。
遠くに見える大きなビルの形などは変わらず、同じ街の廃墟と言うことは分かる。しかし、その角度が違う。つまり、同じ街だが位置は変わっているということだ。
また、天気も変わっていた。前回は曇っていたが、今回は清々しいほどの晴天だ。
『くっく。来たなクソガキ。昨日はよく生き残ったと言ってやろう』
「お前、ルシフェル」
ムカつく声と、チャラついた紫の前髪ですぐに分かる。
「お前のルール説明全然たりなかったぞ。 南さんの金髪の天使はものすごい沢山説明してたんだが!」
『あーあーあー聞こえねぇなぁ。だいたいよう、クソガキ。教えてもらいたかったらもっとしおらしくしてみろ。俺が不親切なんじゃなくて、お前の誠意がたりてないんじゃねーか?』
「……このクソ厨二病野郎」
『……あ゛? もっぺん言ってみろクソガキ!』
「このイカレ厨二病ヘンテコ紫V系カンチガイ厨二病野郎!」
『厨二病って二回言ってんぞ!クソガキ! はん。いいか、お前。あのな、俺が今日もこうしてここにいるのは、お前のためにルールを追加で説明してやろうと思ったからだ。初回から≪太陽≫との契約、≪審判≫の撃破、正直異例だよ。だがなぁ、お前の態度を見てやっぱり気分が変わった! 帰る! バ――カ!』
「はっ、ちょおい!」
白い粒子に包まれて消えるルシフェル。
ルシフェルのいたところに石ころでも投げつけてやりたい気持ちで、僕はポケットからメモを取り出して見た。
・何も持ち帰ることはできず、持ち込めるのは身に付けているもののみ。
・ゲーム開始位置はランダムだが、前日のゲームで触れあっていた者同士は近くで開始する。
なるほど、紙のメモくらいなら持ち込めるんだな。
そして、南さんから聞いたこれが確かなら、近くにいるはずだ。
と、
「お~い! 新士く~ん! 片見新士くんいますか~!」
ええ。そんな大声で普通に呼んじゃうんだ……。もう少しやっとけばよかったな、作戦会議。
「い、いまーす……」
「あ!新士くんみっけ!」
ぴょこ、っとガレキの影から出てくる南さん。
「テンション高いね」
「うん! なんか、昨日まであんなに怖かったのに、なんか今夜は友達と夏祭り行く夜みたいにわくわくしちゃって」
例えがリア充っぽいな、くそう。
まぁ。南さん可愛いし、いるのかな。彼氏みたいなのとか……。
ゴゴゴゴゴ。
ひょこっとガレキの影から出てきた南さんの、そのまた後ろからひょこっと出てきたのは、竜――ドラゴンだった。
「きゃ!」
「南さん僕の後ろ隠れて!」
『昨日振りじゃのう、お主。早速わらわの出番かの?』
「アマちゃん!」
僕の左指のリングに宿る≪太陽≫の≪アルカナ≫、アマちゃんからの心強い声が聞こえる。
「行くよ、変身!」
リングを天にかかげて拳を握る。
僕の全身が炎に包まれる。
力と自信が溢れてくる。
「≪
『いいのう、お主が
「な、なにいってんのアマちゃん」
竜の咆哮が僕たちに向けられる。
黄緑色の鱗に、大きな翼と角。まさにイメージ通りのドラゴンだ。
「新士くんがんばれー! やっちゃえー!」
なんか緊張感ないなぁ。
「っと!」
ドラゴンが尻尾を振りまわして、僕にうちつけた。
腕をクロスして受ける。
強い衝撃で吹き飛ばされ、3枚ほど廃墟の壁を貫いたところで止まった。
「でも、痛くない」
『当然じゃ! 良いか、あの竜は≪世界≫の≪アルカナ≫じゃ。ま、≪契約者≫としてはちとやっかいな能力じゃが、未契約の状態ではただの脳筋じゃのう』
「じゃあまたドライバーキックで……」
『わらわのコードを勝手な名で呼ぶ出ない。あれには≪
「じゃ、じゃあ≪
『いや、待つのじゃ。前に本来の用途と異なると言ったのを覚えておるかのう? そのコードは、蹴り技のためではなくお主を流星よりも速く動かすことが本来の用途なのじゃ。あの≪審判≫は無駄にコードを使いおって脆くなっていたうえ防御適性も低かったようじゃがの、あの≪世界≫の皮膚は存外硬い』
「じゃどうすれば……」
『これ! わらわに聞いて楽をしようとするでない! 前と同じじゃ。お主がしたいようにするのじゃ。このプリチーなわらわの力を、お主が男らしく好き勝手に使いこなして激しく暴れるのが最も強力なわらわたちのファイトスタイルになるのじゃ!』
竜は吹き飛んだ僕を見つけると、炎を吹きかけてきた。
これは避けなきゃまずい!
「≪
大きく横っ飛びし、なんとか躱す。
竜、竜を倒す。
そのことに考えを巡らせる。
「ふふ……」
まさか、僕がこんなに怖い状況の中で笑うことがあるなんて。
アマちゃんを着ている間って、やっぱりものの考え方も変わっている気がする。
≪審判≫の契約者が、「精神効果もプラスのタイプか」と言っていたのを思い出す。
僕は、アマちゃんから受け取るこの情熱に任せたままでいいんだろうか。
だが――。
冒険に憧れる少年が、竜の首をうちとって英雄になるための武器に、迷うことなんてないだろ!
『そうじゃ、それじゃ! 竜を打ち取って英雄となれ!! その名も――』
「≪
≪太陽≫のリングから溢れた光が右手に集まる。
形成されていくのは、剣!
刀身に炎の意匠が浮かぶ、真っ赤な諸刃の直剣。
片手で扱うには≪太陽≫の腕力をもってしても重く、僕は両手でそれを上段に構えた。
動きを止めた僕を、竜は喰い殺すこといしたらしい。
大きな口を開けて、僕の方へ一直線に突っ込んできた。
『好都合じゃな!やったるのじゃあああ!』
「はああああああああああああああああ!」
突撃に合わせて、剣を、振り下ろす!
「ぐ、おおおおお!」
竜の口に剣が触れ、凄まじい重みが両腕を襲う。
だが、僕の左右を流れる光景は、竜の胃袋ではなく、黒い粒子と炎の饗宴だった。
僕の剣が炎を吹きながら、巨大な竜を両断している。
と、剣が軽くなった。
竜が、尻尾の先まで真っ二つになったのだ。
『ふぅ、惚れ惚れするのう』
炎に包まれた竜の左右半身は、黒い粒子に包まれて消えた。
「あの≪世界≫の≪アルカナ≫は、死んだのか?」
『いんや、わらわたち≪アルカナ≫は、≪アルカナ≫として死のうが契約した≪契約者≫が死のうが、翌日のゲームでリセットじゃ。だからあやつも、また明日にはどこかで契約相手を探すことになるじゃろうなぁ』
「お~い! 新士くん!」
「南さん」
「かっこよかったあ!」
駆け寄ってくる南さん。
いい笑顔だなぁ。勝利の実感が込み上げてくる。
「あれ、ていうか、南さんの未契約の指輪であの竜に触れば良かったんじゃないの?」
『ギク……。気付きおったか』
「もしかして、自分が戦いたかっただけ?!」
『お主にとってもよい慣らしになったであろう!』
次からはそういうことはちゃんと言ってくれ、とアマちゃんに言おうとしたところで、パチ、パチ、パチ、と。
拍手の音が聞こえた。
「あ~ら見事。強いじゃない、≪太陽≫くん?」
その挑発的な女の声は、昨日僕たちを取り囲んだひとり。
≪
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