第四話 あのキック
僕は、変身ポーズをキメて言った。
「≪
ちょっと恥ずかしいかもしれないが、いつかこの時が来たらこうするって決めてたんだ。
「ふざけてんのか……? めんどくさいが、まーいいかぁ。いたぶってやるからさー、来いよ」
……と、言われてもどうやって戦ったらいいんだ?
今まで見た中では、灰色の天使や、この青い騎士は何か技名を口にして力を使っていた。
しかし、技名なんて知らない。適当に言って使えるものなのか?
「なんだ、 来ないのかー? じゃ悪いがやらせてもらう。≪
青い炎が迫る。
炎はこれまでで一番速く、そして距離も近い。今度は避けられない。
僕は両手をクロスして炎を受けた。そんなことをしても焼け死ぬだけ。そのはずだ。なのに、何故かこれでいいという自信があった。迷いがなかった。
激しい衝撃と熱。
だが、僕は立っている。
効かない。これならあと数発食らってもいける。
「なっ……。チッ。硬いタイプと契約しやがったか」
すると、青い騎士はふたたび指輪を掲げる。
「硬いやつなら魔法じゃダメだなー。ふん、≪
青い騎士の手に光る粒子から剣が造り出される。
それを上段に構えて、騎士が駆け寄ってくる!
「くらえー!」
しかし、今の僕にとって、その剣を躱すことはとても容易かった。
頭を傾け、片膝を曲げて重心をずらす。それだけで剣は空を切った。
見える。動く。
この身体からもっとできるという活力が湧いてくる。
僕は、剣を空振って姿勢を崩した騎士の脇腹に、拳を打ち込んだ。
あのいじめっ子の顔面を殴った時以来、十五ヶ月ぶりに人を殴った。
あの時は、相手はびくともせず、事態が悪化するばかりだった。
今回は違う。
「か、はっ……」
騎士の身体が一瞬浮いた。
騎士は剣を取り落とし、後ろによろけた。
凄まじい手応え。
「お、お前ー、ずるいぞ。なんだその≪アルカナ≫……。感覚神経と筋力がめちゃくちゃ強化されている上に、硬い装甲……。それだけじゃねえ。契約してすぐの戦闘でその落ち着き……精神効果もプラスのタイプか……。くそー、くそ、くそっ! おい≪審判≫! 俺にももっと力を寄越せー!負けたらお前も一からやり直しだぞ!」
騎士はその鎧の高貴さからは想像もつかないほど取り乱し、わめき散らしたと。
と、ふと何かに驚いたように動きを止め、笑い始めた。
「ふ、ふっふっふっふっふっふ。なんだー、あるじゃないか≪審判≫。はじめから寄越せよなー、ふっふ。行くぞお前、後悔しろ」
三度、騎士は指輪を掲げて声を張り上げた。
「≪
騎士が頭上に掲げた両手の間から、空に向かって光が伸びる。
そして次の瞬間、空から大量の青い炎が降り注ぐ!
いずれの炎も、僕を狙って落ちてくる。
炎は地面に触れたものから順に爆発する。
走り回り、ガレキを盾にしながら何とか逃げ回る。
いつまでこの炎の雨は続くのか。逃げ切れるのか?
わからない、でも、逃げ続けるしか――
『攻めるのじゃ。勝てるぞよ。お主の思うようにやってみるのじゃ』
頭のなかに声が響く。アマちゃんだ。
「アマちゃん?」
『いかにも。わらわは≪太陽≫ことアマちゃんでありそして、今はお主自身でもある。よいか、お主のやりたいようにやるのじゃ。ただし、逃げることは考えるでないぞ。攻めるために、勝つためにお主ができることを自由にやるのじゃ』
攻めるために。勝つために。
僕は今こうしてスーツを着ていて、目の前には敵がいる。
ピンチを覆し敵にトドメを刺す。
そんな理想的な技に、僕は心当たりがあった。
『ふむ、良いのう。本来の用途とは異なれど、この業が適任じゃろ。では、お主に新たな力を授けよう。その名も――』
僕は、指輪を掲げて、その名を叫んだ!
「≪
その瞬間、指輪がまばゆく耀く。
まるで小さな太陽があるかのように。
指輪から溢れた光が、僕の脚に集束してゆく。
両足が炎に包まれる。
「チィ、もうスキルまで! どんだけひいきだ、あいつの≪アルカナ≫!」
降り注ぐ青い爆撃避けるためにまた一歩、僕は踏み出す。
と――。
「どわあ!?」
ぶっ飛んだ。
一歩だ。たった一歩踏み出しただけで、僕はガレキをいくつかぶち破って突っ込んだ。
『あっはっ! 愉快じゃのう! どうじゃ? なかなかに爽快じゃろう?』
「アマちゃん……説明してから使わせて」
『何を申すか! 時にはのう、歩く前に跳ぶ必要があるのじゃぞ。今ので感覚は掴んだじゃろ? それ、お主の思い描くままにやってみるのじゃ。強いつよーい憧憬を、わらわはさっきからずーっと感じているのじゃ』
憧憬。
そうだ、僕はあれをやろうとしている。
「やってみる」
僕が今突き破ったガレキの先には、≪審判≫の男がいる。
思いっきり突っ込んだおかげで、進路上に障害物はない。
助走にはちょうどいい滑走路だ。
イメージする。
加速して、三歩で跳ぶ。
空中で一回転。
脚を突きだし、やつの胸を打つ。
『そうじゃ、それでよい』
行くぞ!
まずは助走。さっきの激突を踏まえて、かなりちからを抜いて走る。
よし、できる!
そして一、二の、三!跳ぶ!
「おわ!」
空中で一回転、難しすぎる!!
当たり前だ、素人が出来ることじゃないだろ!
『あっはっ! 心意気に免じて、サービスじゃ♡』
≪
みるみる姿勢が整う。
ありがとう、アマちゃん。
そして今、完全にドライバーキックの姿勢をとった。
『「いっけえええええええええ!!!」』
アマちゃんと重なる声。
脚が吹く陽炎で僕たちは加速する。
周りを青い火の雨が掠める。そんなものは、僕たちの前には火の粉にも及ばない。
僕たちは今、まさに小さな太陽だった。
「な、なああああああ!!?」
騎士の胸を、太陽が貫いた。
凄まじい衝撃と、爆炎。
騎士を貫き、地面を吹き飛ばした脚が痺れる。
振り返ると、騎士の胸には大穴が空いている。
血は流れていないが、黒い粒子が大量に溢れ出る。
「この、やろう」
そして、男の全身が黒い粒子になって霧散した。
指輪だけが残り、地面に落ちて割れた。
消えたのか……? あの男の人。
まさか死んだわけじゃない、よな?
『見事じゃ! 気分爽快であろ?』
「あのさ、アマちゃん。あの人死んでないよね?」
だって、そしたら僕は、人殺しじゃないか。
大丈夫、大丈夫だ。ここは幻想の世界で、夢で。
『死んではおらんよ。ただ、あやつの願いは二度と叶わん。それだけじゃ。ともあれ――』
願いが、叶わない?
それがこのゲームに参加する代償ってことか?
そんなこと、聞いてない。あの紫前髪やろ……あれ。
ふっ、と。アマちゃんが遠ざかるように感じた。
いや、違うか。遠ざかっているのは僕の意識だ。
くらくらする。貧血みたいだ。
視界がチカチカする。酸欠みたいだ。
『限界じゃの。初めてわらわを纏ったにしてはよくやった』
意識を失う直前。僕たちが隠れていたビルからあの女の子が駆け寄ってくるのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます