第19話アシュピラン

本庁へ戻っていた古林は、第一特殊捜査室の会議に出ていた。


神隠しの少女となった多治見村の、山梨咲良の体内から検出された薬物について、特殊捜査室の面々が顔を揃え、議論を開始していた。


すでに、他殺と断定していた警視庁では、古林を中心にした捜査本部が設置され、それとは別に今回見つかった薬物についても捜査を行うということになり、多治見村には極秘に設置されたチームを派遣することとなった。


「古林君。今回の事件はくれぐれも外部によらさぬよう、垣花君との連携を重視して進めてくれたまえ」


「わかってます、大倉部長。私の部下達にも内密に進めて行きますので」


「ああ、まさかあの村からアシュピランが出てくるとはね。特に、夏川君にはあれを知られないようにした方がいい。過剰に反応してしまうだろうし」


「はい。遼には…。夏川には少女の事件の方を集中させますので。今、そちらの方を好きにやらせていますので」


大倉は、特殊捜査部長室の椅子に座りながら

くるりとまわり、入り口のドアの側に立つ古林に背を向けて、窓のバインダーを指で開けて外を見ながら言った。



「古林君。君を地方勤務から本庁に招き入れとのは、私だと言うことを忘れないでくれたまえよ」


「はい、承知しております」



ー多治見村、山梨家前ー


「ここか」


「おい遼。ええんか?ここのママさん、あれからずっと引きこもってるらしいで」


夕刻、村長宅に帰る前に、遼と一は山梨家に寄って少しでも情報を集めようとしていた。


「まあ、本当は聞かへん方がええかもしれへんけど、様子も伺ってみたいしな」


「遼、伺うもなにもないで、娘さん亡くなってんやからな。俺やったら正気や居られへんで」

そんな話しをしている二人に向かって、隣近所に住む人らしい70代くらいの女性が、

何か言いたそうに歩いて近寄ってきた。



「刑事さんかい?」


「あ、はい」

遼はお辞儀をし、一はポケットから名刺を取り出した。

「僕は刑事ではなく、ルポライターです」


「はあ?ルぶらっしゃー?」


「あ、いえ。物書きです。フリーの」


「はあ、物置き。ブリーフの」


もはや、わざとなのかなんなのか、ホントに聞こえずらいんだろうか、このおばあさんは、と言った二人だが、

話のついでに、今回のことを聞いてみることにした。








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