第13話咲希と魚顔

「一、俺に何の相談もなく勝手に預けんじゃねーよ」

遼は一の胸にポンと手を当てた。


「わりいわりい。俺の勘なやけど、あのオカリナの秘密がなんだか解りそうなんや」


「わかりそう?」


「うん、せや」

不安げな顔をする遼に、一は自身ありげに話していた。

一がこう言った話し方をするときは、

必ず何かしら手応えがあったときだ。

軽はずみなはったりで言うやつではない。


遼は、オカリナは一に任せてみることにした。


「せやけど、役職もない若造のお前に、こんだけ勝手に動かせてくれるなんて、古林さんも太っ腹やな」

一が遼の肩をポンとした。


「ああ、まあな。そういう部署だしな」


二人は、少女の衣服が発見されたという

川沿いの現場に向かった。



「ここか」

吉野の山からの雪解け水が綺麗に流れる多治見川。

昔は、大阪や和歌山にも連なり、一級河川だったという。

川幅はそれほどないが、透き通るような渓流で、畔には小石や岩がすくなからずあるが、

バーベキューはできそうだ。


「遼、俺ちょっとそこの自販機で、茶でも買ってくるわ」


「わかった。先に下に降りとくよ」

遼は川辺に立ち、ちょうど腰を下ろせそうな平らな岩があったので、そこに座り

じっと川の流れを見つめていた。


こんな所になぜ少女の衣服が。

ここに捨てたのか、それとも、上流から流されてきたのか。

そして、その2日後に遺体が発見される…


遼は、いつものように顔を手で覆うようにして、思い悩むような姿勢で川を見つめていた。


と、その時、なんだか左横に気配がしたと感じて目をやると、一人の少女が座りながら

遼の考えるポーズを真似て川を同じように見ていた。


「ちょ、いつのまに⁉️え?か、花音ちゃん?」


「ん?あー、やっと気いついた?お兄さんなんかぶつぶつ言うて、誰と喋ってたん?」


どうやら独り言を言っていたらしい。

それをずっと見られていたと思い、

遼は恥ずかしそうな素振りを見せた。


「いや、花音ちゃん違うんやこれは。捜査の時の癖と言うか…」


「あれ?花音ちゃん?」

一がお茶を持ってこちらに来ていた。

なぜか、手にはお茶が3つあった。


「一。わりいな」

遼は、いそいそとした素振りで

一の元にお茶を取りに行った。


「良かった。3つ買っておいて。遼はコーヒー飲まへんし、なに飲むかと思って、紅茶と緑茶買ったんやけど」


と一が言うと、少女は立ち上がり遼より先に紅茶を手にした。


「私紅茶ー。お兄さんありがと」


「どういたしまして」


少女は紅茶を開けて、一口のんで二人に向かって言った。


「あ、私花音やないで。咲希やから。見てわからんかな?」


二人にとも「え?」と言った感じで

手を横にふり、わかるわけない。と言った顔を見せた。


「ホンマ失礼やわ。花音ちゃん花音ちゃんて。どんだけ花音のこと好きなん?うちで残念やって顔せんかった?そこの魚顔!」

と言って咲希は一を指指した。


見分けがつかない双子に、残念もクソもないが、それよりなにより、こんな年端もいかない娘をそんな目で見てません。と二人は焦りと呆れを入り雑じらせていた。


「いやいや、ホント花音ちゃ、いや咲希ちゃん。俺ら咲希ちゃんより一回り上の、一応大人な男子やから」

一は咲希を諭すように手振りを混ぜて言った。

「そうそう、そうだから」

遼も一に相づちした。


「わかってるわ。でも、最近ウチら位の年の子がええねんて言う、大人な男子がおるて聞いたから、ちょっと言ってみたかっただけ」


「まあね…」

年端もいかぬ娘に、二人は完敗といった顔をしていた。


「で、咲希ちゃんはなにしとったん?」


遼の質問に、咲希はまた紅茶を一口のみ

もといた岩に腰かけた。

「確認なんやけど、あなたが遼さん?」

と指を指され、遼は頷いた。


「で、そっちの魚顔が一ちゃん?」


「え、ちゃん?魚顔?」

なんで俺だけちゃん?

それより、今日2回目の魚顔と言われたことに、一はショックを受けていた。


「あ、うん。よくわかったね」


「昨日、家で花音に聞いてたから。髪おろしたイケメン風が遼さんで、魚顔が一だって」


いやもう、ちゃんすらなくなってる。

一は困惑していた。


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