第4話ハーメルンの笛吹者

村の奇跡の出来事から数ヶ月。


畑を荒らす害獣などはいなくなり、農作物等の被害もすっかりなくなって、村は徐々に元通りの作物が育つ状態にもどり、あとは、流行り病にかかった者の対処はどうするかと言う話になっておりました。しばらくすると、あの方は村人達にこう言ってきたのです。


「神社の裏手に砂地の広い部分があるので、そこへその病者達を全員集めなさい」


それを聞いて村人達は、早速病者達を運ぶ段取りをし始めて、病者達全員をあの方の言っていた場所に連れていったのです。

村への蔓延を防ぐためにと、今思えば仕方ないと言えば仕方なかったと思うしかありません。


山部は苦しそうな顔を浮かべ、両の太腿の上においていた手を握りしめ、体をうち震えさせ、また話しを始めた。


山部のその様子を見て二人は、そこで凄惨な事が起きたのであろうと、容易に想像できた。


…病にかかり治る見込みのないものは、肌に黒い斑点のようなものができ、今で言うペストと同じ症状がかずおおく見られました。




そこで、そういう末期的な症状がでた者を、1ヶ所に集めてキアラの指示で処分するという話になったのです。


ただ、安楽死と言うのはこの時代のこんな田舎村では存在すらなく、感染した村人は、末期の状態とはいえ、生きながらまるで収穫後の稲藁でも焼くように焼かれていったのです。

いくら他に方法がないとはいえ…

あまりにも凄惨な光景で、青年団の何人かは嗚咽し、何日も食事が喉を通らなかった者が続出しました。


当時、その時の様子を私も見ていたのですが、一瞬目をそらしてしまい、片目を少し開け覗くように見ていましたが、その時、私はとても信じられない光景を見て驚きました。


不思議な事に、焼かれている病者達はなぜか、焼かれていくなかで一様に皆笑っているように見えたのです。

そんな事があるはずはないと、必死で目を擦り

何度も見返しましたが、やはり、焼け苦しんでるというよりも、笑っていたように見えました。


やがて、骨がむき出しになっていき、村人は皆は布やタオル等で顔を覆っていたのですが、嗅ぎなれない人の焼いた匂いが辺りにたちこめ、皆後退りしながら見ていたのですが、キアラ氏だけはずっと近くで見ていて、

少し笑みを浮かべていたように思えます。


焼かれている病者達が笑っている…


これも、神の奇跡なのかと当時その場にいたもの達は、皆そう思い込んでおりました。


ただ、火をつける準備をしていたときに村人の何人かが、キアラ氏が

病者達一人一人に妙な液体の様なものを飲ませていたのを見た。と言っていたのです。


彼は、「君たちはこれで天国に行ける」と、病者達一人一人に声をかけ、

その謎の液体を飲ませた直後、病者達の目の瞳孔は開いたように見え、全員小刻みに震えだしていたと言います。


古林と遼は、お茶をごくりと鳴らせて一口飲み、こんなお伽噺の話が50年前本当に…

と一言呟いていた。


「その液体と言うのは、お酒のようなものだったんですか?」

古林は、さも興味深い顔をして山部に聞いた。


「いや、当時酒を造っている蔵は1つしかなく、神社に持ち込んだことは一度もなかったはずです。それに、あの方はお酒の類いのものは、祝いの席ですら一口も口にしたことは見たことありません。」


「ではいったい、麻酔薬のようなものやったんですかね?」遼は訝しんだ顔で言った。


「いや、当時の村にはそのような物はありませんでしたので…」


…それから何日か経ち、村で妙な噂を耳にするようになりまして。




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