第3話キアラの呪い2
あれは50年前…
私がまだ18歳の頃でした。
この村は吉野の山から伏流水によって
畑の土壌は潤い、農作物は豊富に育っておりました。
だが、その反面その農作物を食い荒らしに来る、山からの小動物や主にネズミなどが住み着いてしまい、村に甚大な被害を及ぼしました。なんと言いましょうか、合成の誤謬 とでも言いましょうか、潤えばそれに影を落とす事が起きるという、世の習わしのようなものですかな。
農作物の被害の上に、ネズミがもたらす流行り病にかかるものまで出て来て、村はさらに深刻な状況におちいるようになり、早急に対策を行いましたが、あの頃の日本の時代の田舎村です。対策と言っても煙で炙り出すか、鍬や箒で追っ払うくらいのものでして、対して効果はありませんでした。
その時でした。村人全員が途方に暮れているなか、一人の外国人がこの村に訪れました。
黒いキャソック姿のその男は、オランダ人で
日本に布教活動をするために来たと、村人達に説明していて、
その男の格好からして、神父なのだと誰もが疑いを持たず認識してしまい、
なぜこの男が一人でこんな田舎村に布教活動をしに来たか。
という事に疑問を持てないでいました。
あの時、直ぐに気づくべきだったのですが、
私たちは、この村の現在の深刻な状況に飲まれていて、冷静な判断を失っていたのでしょう。
無論、今現在この村は布教活動どころの事態じゃないと説明し、一度は断ったのですが、
村の状況を知った男は、村人達に「その問題は私が起こす奇跡の力で解決してみせましょう」と言い出し
藁にもすがる思いの私達は、その男に任せてみることにしたのです。
明日、その男は村を一望できる高台のような所に連れていってほしい。と言ってきたので
私がその高台に案内いたしました。
現在、神社が建っているあの辺りです。
そして男は、公言通り奇跡を起こしたのです。
男は胸の首飾りの十字架に手をやった後、
ポケットから何やらオカリナの様なものを取り出し、それを口に咥え両手をゆっくり天高く上げました。
その直後でした。私の仰天させる光景が目の前に起こったのです。
森の木々という木々がうねり騒ぐような音を上げ、地鳴りが村中に響き渡り砂煙を上げ、
その中で、鳥達は山の遥か向こうへ飛び立ち
ネズミや小動物等は隊列を組んだように一斉に山の奥へと走り出しました。
ネズミが逃げていく様を目の前で見ていた村人達は、ネズミ達は一様に三白眼で目を見開いて狂っているようだったと。
村は、一気に平和になり、その男はその日から村人達に神のように崇められる存在になりました。
…ここまでは、お伽噺話しのようの神業の美談なのですが、と山部はまた一口お茶をすすった。
村長や村人達は、すっかりその男のことを信じ、後日布教活動の許しと共に、この男のために村に神社を建てる事にしたのです。
そう、それが今、村にある「神守神社」になります。
村人達は、その神社を設立した日を、神事を行う記念の日として、「神落ちの儀」という
雨乞いの儀式を、村を上げてやるようになりました。
その雨乞いの儀式というのも、昔からこの奈良県の地域ではよく行っていて、今では祭事として行ったり、能の舞台などでも使われております。
できたばかりの神社の境内で、その雨乞いの儀式が神落ちの儀と称して行われようと準備が進められいて、その神事の行いには、昔から伝わる決めごとに従って、村の十代の生娘が二人で舞うとい「二人静か」という舞が起用され、当日はその通りに行いました。
そして、それを見たオランダ人神父は、その行事をたいそう気に入って、村長にこう申し出をして来たのです。
「ここは教会ではなく、日本の習わしに従った神社にしましょう。私も神父ではなく神主として活動いたします。したがって、この神社に住み込みで巫女として常時できる子供を男女問わずで何人か欲しい」と。
神のごとき奇跡を起こし、村を救ったまさに天の使いが如しのこの男の言うことに、村人達は、それならと皆で話し合い、自分達の子供を20人ほど神社に預けることに。
村人の中には、神様に使える名誉な事だと言う者もいれば、子だくさんでちょうど口ベラしになるというものまでいたようです。
そんな中で、その神社で共同生活をするようになった村の子供達。
村長は、その神社の名前をオランダ人の名前にしようと言ったが、そのオランダ人は
ここは、教会ではなく神社なので日本名にしたほうが良いでしょう。と言ったので、村長は、神が村を守ってくれた。として「神守神社」と名付けた。
だが、せめてものとその男の名を刻んだ十字の木を神社内に飾ろうと、村の職人に作らせ本堂の中に飾った。
そこに刻まれたその男の名は、
「ジュゼッペ-キアラ」
その名が山部の口から出た瞬間、外では雷が鳴り出し、雨がよりいっそう強く地面を叩きつけるように降りだした。
古林も遼も、一切の動作はなしで、山部の話しを聞き入っていた。
遼にいたっては、ペンを走らせてるのを途中から完全に止めていた。
こうして、外国人でありながらこの村の初代神主となったキアラは、神の奇跡の人物として、この村に居着き住むこととなった。
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