花に嫌われている

雨音

第1話 始まり

花に嫌われる


春の季節。

その季節には何の花が咲く、桜、梅、アセビ、ジンチョウゲ、木蓮、コブシ、その他にも沢山の花が咲く、夏も秋も冬も咲き乱れ花には色んな意味を込められている物がある、怖い話も良い話も単なる説かどうか本当かはわからない、でもそれを知るのは楽しいと思える。

幽霊を信じる人なら理解はできるかもしれない。

でも俺は幽霊が見えるわけでも特別何かができるわけでもない、だけど、これで気味悪がられようが嫌われようが仕方がない。


『ちあち、ちあち』


花壇咲いた花の前に俺の名前を手招きして呼ぶ綺麗な人がいた、何故か俺の名前を知っているのだろう、昔は全くわからなかった、沢山の花を頭に乗せ微笑んでいる、でもそれは人じゃない……それだけは何故かすぐにわかった、どうやら俺には花が別の物に見えるらしい。

なんと言えばいいのかわからないだけど、簡単に言えば花が女の人に見える、いやきっと明確な性別は無いのだろう、でも俺にはそう見えどれも美しい人達だった。

それは何でかはわからない、物心ついた頃からずっとだ、始めは家の側の花壇、そこに咲くパンジーのビオラの花が始めだ。

その花壇に座る一人の女性、雨風すら気にせずそこに座り続け母に訪ねてみる、だが母は俺がふざけているとだと思い全く相手にしてはくれなかった。

父も友人も皆、信じてはくれなかった。

その人は花が枯れる季節になると、いつの間にか消えている、蕾が出れば彼女に似た少女が現れまた同じ女性へと成長する、そんな事をもう何年も続けていた。

いつしかそれは見えなくなる、心霊物の類いはそう分類されていると思っていたのに、俺は今この年なってもずっと見続けている。

高校に入って二年目、この年でも尚俺はずっとこの可笑しな物を見続け、しかもそれは年を重ねる事に増している。

始めは話しかけられることもなかったのに、今は喋り掛けられるだけでなくその範囲のみだが付きまわれるようになった。

もう、いっそこれに対し深い意味なんて必要ない、俺にはどうしてそう見えるのかこの十数年間ずっと考えてきた、それでも未だに答えなど出やしない。

学校などはまさに格好の餌食だ、花瓶に入っている花には誰もいないだけど木や花壇地面に咲くものは人がいる、教室の窓から覗けばその人達は見えない事を良いことに好き放題にしている。

ある女子生徒の背にしがみついていたり、側にいる先生の真似事をしたりと随分と楽しげに遊んでいる、それだけならいい、俺だけが見える事を知るとやけに話しかけたり何処かに連れていこうとする。

人になるべく関わりたくはない、バレたくもないし、だからと言って暗いと周りに浮くのも嫌だ。

高校入学してから髪を染めた、誰も来やしないと思ったが案外皆見た目なんて気にしないようだ、いくら口が悪かろうが皆良い人過ぎてつい流されてしまう。

その影響か花に対しても人に対しても頼まれ事が多く俺の周りにはいつも花びらが舞うようになり、事が終わると教室の至る所に花が咲くようになった。

そして……今日も俺の机や周りに花が咲いていた。

今回は、フリージアの花だ、学校の近くの木の下に咲くその花を囲う雑草を少し抜いてやっただけなのに対し毎度の事凄いお礼の仕方だ。

近くにいた誰もが驚いた、外から窓を叩く音が聞こえる、そこに視線を向けると黄色の髪を持つ小さな少女が無邪気に微笑んだ、相手は誰も悪気があってやっているのでない、それを知っているからこそ俺も笑うしかない。

友人の一人が声をかける、彼も笑って窓辺に咲く花々を摘んでいく皆最初は俺を避けていたのに、そのうち慣れたのか花を摘むのを楽しんでいるように見えた。

俺は人に恵まれている、こんな現象が起きようと普通接してくれるのだから……幼い頃は散々だったが年を取り良いことも増えた、相変わらず花は消えない。


『いや、にしても花が似合うな~』

『うっせ、似合わねぇよ、こんなの』


クラスの人達は皆笑っていた。

その中でも一番背の小さい女子が声をかけてきた、花が好きらしくよく俺の机の周りの花を持ち帰ってくれる。


『ねぇ、ねぇ夜桜(よざくら)君このお花貰ってもいい?』

『あぁ勿論』


今日も1日そんな花にまみれた生活がまた誰かの掛け声で始まるんだ、皆とまた笑って過ごすんだ。


『夜桜君の周りにはいつもお花が咲いているよね。』

『あはは……そうだな』


先程花を摘み取ってくれたクラスの女子【早川恵(はやかわめぐみ)】はいつもそうやって俺に声をかける、肩より少し長めで色素の薄い茶髪とクラス一身長の小ささが特徴的な女の子だ。

花好きの仲間とでも思われているのだろう、まぁ嫌いではないがまた違うような何処か複雑な気持ちだった。


『やっぱり、夜桜君って何かしてるの?』

『何って、なにもしてないぞ』

『えー、いつもこんなにお花が咲くなんて、まるでお礼でもされてるみたいなんだもん!』

『お礼……ね』

『お花の気持ちでもわかるの?』

『……、さぁな』


何かふわっとした質問に、戸惑いが隠せない、こいつと話すといつも答えに苦しむ、なんと答えて良いかわからないし、微妙に彼女の的確な質問に驚く……。


でもこれがいつもの話だった……

笑って過ごす、俺達にはよくある光景1日の一つだ、皆そうだ、1日1日を何気なく過ごす。

摘まれた花を教室の何処かに飾りただ笑っていた。

それすらもきっと花から見ればつまらない、嫌味に近い事なのだろう。


今年の花は一番美しい。

花は美しいどれを取ってもそうだ、枯れるときは何処か切ない、一瞬の一時……その短い命をずっと尽きることなく繰り返す、春の花は春だけの命、冬は冬の時だけ、俺達人間は春夏秋冬それを見てられる、花からすれば少し長い命他から見れば短い命、俺はずっと自分が何故これが見えるのかわからなかった、いやわかることは無いだろう、でも俺はこうして花に愛されるような人間ではない事を知った。

どう考えても俺は……俺達人間は……


【花に嫌われている】


そう、花達は皆一瞬の命、そして俺達は長い……

だって、そうだろう……もしも好かれているならこんな……こんな思いするわけがないんだ。


花は美しい、だけとこんな悲しく胸を引き裂かれるような想いをするなんて俺は思いもしなかった。

涙が止まらない、枯れてしまいそうな程に流れる涙、一つ一つ溢れ落ちていく、誰もそれを気づかないまま……


それは、春の事薄紅に染まる花びらが宙に舞い空に色を乗せる、その地面には誰がいるだろう、周りには咲く春の喜びを花達はそれをどう見ているだろう。


これから俺の長い一年が始まる。


ずっと考えてきたその意味は一体何だろう、感情的になればいいのか花呑まれ自身を溶かしてしまえばいいのか。

淡く染まる、花を咲かせるのを待ち望む人々、その木の下には毛先や頬を赤く染めフワリとした優しい香りを漂わせる一人の少女が俺を待っていた。


窓の越しに俺はその様子をただ今は見ている事しかできなかった。



ーendー

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