第41話
背を向けてどうだ!!
まるで時代劇にあるシーンじゃないか?
しかし背中に刺青として掘られている。若干その文字がテカっているのは・・石油?なのか?そんなの肌に直接できるのか?
「できませんよ」
松本が言う。
「あれは石油を薄く調合した液で濡らしているだけ。それでも十分効果があるのでしょう。もしかしたらルーン鉱石の成分を上手く調合しているのかもかもしれないですがね」
そっか・・
何故か一瞬でも敵の事を心配した自分が恥ずかしい。
上半身の肌を見せながら猪熊が僕を見る。
「さて、こだま君。もう一度、君に先程の魔術を起こしましょうか」
おいおい!!
僕はお前の事を今心配したんだぜ!!
「待て、利休!!」
松本が僕の前に立つ。
「おみゃーの相手は儂がやる」
ほほう、と猪熊が笑う。
「秀吉、お前が私の相手をするだと?それでも役不足だとおもうがな?」
「そうか?」
「そうだ」
猪熊の手が動く。
「ほうれ!!」
その瞬間、松本の身体が浮かんだ。
「それ!!」
手の動きに合わせて松本の身体が動く。
「次はこうだ」
猪熊がゆっくりと手を上に挙げる。それに合わせるように松本の身体が浮かぶ。
お、おい
それは高さ十メールぐらいのところまで上がったかと思うと、ピタリと止まった。
「秀吉。見たか、私はこれらを直ぐに行うことができる。お前達みたいに神の言葉をルーン鉱石にかくなんて必要はない。全てが身体に掘られた文字が私の意志をダイレクトに伝えてくれるのだ。こんな神の言葉の力を持つ神こそが、新世紀、そうミレニアムの神に相応しいと思わないか?」
その言葉が終わるや、松本の身体が一直線に地面へと落ちて行った。
「松本さん!!」
僕は叫びながら走り出す。
しかし、痛む足では松本の落下地点には間に合わない。
松本は激しく地面に叩きつけられた。
お、おい!!
マジか?・
松本はその場でピクリとも動かなかった。僕は急いで駆けつける。
松本は首を横にして血を流して倒れていた。
僅かだが身体が痙攣している。
「お、おい!!、松本さん!!あんた大丈夫か?」
声をかけるが身体が反応していない。
「おい!!マジかよ?!!おいおい!!」
僕は声をかける。
それに僅かに反応して唇が動いた。僕は急いで耳をつける。
松本の唇がゆっくりと動いていく。
僕は耳をすます。
{こだま君・・逃げなさい・・ここは危険だ・・はやく・・}
そこで息が止まる。
おい!しっかりしろ。
{私のルーン鉱石の石板をうまく・・使えば・・魔術でにげられます・・上手く・・三上さんと・・逃げてください・・}
はぁはぁ
松本の息が荒くなってきた。
{おい‼!松本さん!!}
松本の目が動いて僕を見る。
{あの・・電話の女の子を守ってあげてください}
言葉の最後で三上が近づいてきた。
「こだま君、逃げるのよ。ちょっと力の差がありすぎるわ。さぁいくよ」
彼女が僕の腕を引っ張る。僕は松本のポケットからルーン鉱石の石板を取り出した。
「こだま君、行くよ!!さぁ早く」
僕は促されるように立ち上がった。立ち上がる先に猪熊の姿が見えた。
余裕で僕達を見ている。
見ている猪熊の手が横に広がった。
それで僕の腕を掴む力が消えた。
――一瞬でそれは僕から引き離し、満開に割く桜の木に激しくぶつかった。
僕は桜の木を振り返る。
「三上さん!!」
彼女の長い髪がゆっくりと揺れながら地面に落ちた。
落ちた彼女はあまりの衝撃の強さの為か、意識が無くそのまま地面にだらりと落ちた。
僕は雨が冷たく自分の肩を濡らすのを感じた。
それは自分の意志を濡らして、やがて涙になった。
いま自分は何をすべきか?
僕は手にルーン鉱石の石板を強く握りしめた。
そう、分かっている。
僕は猪熊には一人じゃ勝てない。
良く分からないが、
彼はクトゥルフとリンクしているんだ。
そんなラスボスを僕だけでは勝てない。
そう、神の力が必要だ。
そして僕が知ってる神は唯一つ。
僕は石板に言葉を書いた。
悪魔王バエルと。
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