第39話
「さて、河童に連れられたこだま君を追わず残った我々はどうすべきか?」
猪熊が松本と三上を見る。
二対一になっても余裕がある。やはりラスボスらしい風格が備わって居る。
「まぁいずれ、決着が着いて戻って来るだろうが・・」
猪熊が和傘を差す。
「傘を差して余裕ね」
三上が言った。
「そうだな。残された君達だけならこのミノタウロスで十分だ」
「そう?じゃ、私達もこのエントだけで十分だから、相手させてもらうわ。じゃ、お相手宜しくね?ハナちゃん」
三上が松本を振り返る。
「大丈夫ですか?」
彼女がエントをポンポンと叩く。
「大丈夫よ」
言うとミノタウロスがエントに向かって突進してきた。
ドッしぃーーーーぃいいいいいん!!
激しい衝突音が響く。それで猪熊が差す和傘が僅かに揺れた。
松本も思わず面前を手で覆う。衝突した衝撃で泥が跳ねた。
ただ、彼女だけは冷静に見つめている。そればかりではない。歩きながら猪熊の和傘の中に入った。
「入れてもらっても?濡れるのは嫌だからね」
猪熊も中々のラスボス感だったが、三上も相当なものだった。
「別に良いですよ。一人よりも、二人の方がなんでもそうだ。特に見るのは楽しい」
遠くから見れば美男美女の組み合わせ、しかしそれは敵と味方。
そんな組み合わせなんて、こんな瞬間にしかありえないことだろう。
ばきっ!!
空気を裂く激しい音。
エントの腕?いや、枝というべきか、それがミノタウロスにはぎ取られて折られた。
だがエントはそれにひるむことなく、ミノタウロスに身体ごと圧力をかける。
ふたりの戦いは筋骨隆々のプロレスラーと重量級の相撲取りががぶり寄って戦っているように見えた。
ぐるおぁああああああああ
叫ぶ、ミノタウロス。
ドドドドドドドドドドドド
唸る、エント。
「さぁ力比べね。どちらが勝つかしら?」
三上の言葉に互いの力が入る。
ぐるおぁああああああああllllっぁああああ!!
叫ぶ、ミノタウロス。
ドドドドドドドドドドドドーーーーーーーっっっっ!!
唸る、エント。
ぶつかり合う物の熱気が雨粒を蒸発させていえう。ぶつかり合う互いのパワーの肉体の力点から水蒸気が上がっている。そこで見えない互いのモーターが超催促回転で動いているのだ。
それはしゅうしゅうと音を立て、水蒸気となって見える。
三上がポロリと言った。
「動物と植物の生命に対する在り方が勝負を決めるのよ」
猪熊がちらりと三上を見る。
「パワーじゃないだと?」
猪熊も松本も三上の表情を見ている。
「どういうことだ?」
猪熊が言った時、激しく割れる音が響いた。
バキっ!!バキバキバキ!!
音が続く!!
バキっ!!バキっ!!バキっ!!
バキバキ!!バキバキ!!バキバキ!!!
ミノタウロスのパワーがエントの身体である幹を真っ二つに割いたのだ。見事にそれは綺麗に裂け、向こうに居る松本の姿が見えた。
割れた幹に跨るように勝利の咆哮をミノタウロスが上げた。
ぐるぁあああああああああ!!!
「終わったな。三上、君のエントは真っ二つ。ジエンドだな」
彼女は目を細めて言った。
「言ったでしょう?勝負は生命の在り方だと」
ウェーブのかかる髪をゆっくりとかきあげて、三上はスマホを出した。
「何だそれは?」
「あ、これね。まぁアプリよ。今回はゴーレムアプリじゃない、精霊アプリを使っているのよ。ちょっと操作するわ。おたくのように、眼鏡のフレームでモンスターを操作できるようにこっちは高精度に出来ていないのよ」
言うと、アプリを操作する。
「よく、僕の眼鏡でミノタウロスを動かしてると分かったな」
アプリに打ち込みながら三上が言う。
「そうじゃない。あなたが手にしてるもので相手を操作できそうなものは、時計かその眼鏡ぐらい。そんなのスパイぐらいだけど・・でも。、アップルだって次世代腕時計は凄いの作ってんだし、そうかんがえるとあとは腕時計もしてないあなたなら、眼鏡しかないじゃん」
できたわ、三上が言うとエントに言った。
「さぁ、生命を再生させるのよ」
三上の言葉に反応してエントが輝く。
――すると次の瞬間、
割れた木々のあらゆるところから無数の小さな枝が伸びてきた。それが割れた幹に跨るミノタウロスの身体をツタのように這いながら巻き付いてゆっく。
それはミノタウロスの身体を一瞬ぐるぐる巻きにした。
それから割れた幹が夫々互いに伸びた小さな枝で引き寄せ始めた。
次第にそれはミノタウロスの身体を挟みながら万力のようにじりじりと圧力をかけていく・・
ぎゃぁあああああ
感じた事の無い恐怖に怪物が叫ぶ。
しかし、割れた幹の戻る速さは変わらない。割れたとはいえ、重量級の相撲取りの圧力がミノタウロスにのしかかってきている。
ボキッ!!
何かが折れた音がした。
ミノタウロスが叫ぶ。
ボキっ、ボキボキボキボキ!!
見ている猪熊が言った。
「三上・・・君は最初からミノタウロスが幹を真っ二つに裂くように仕向けたんだな?」
それには答えず彼女は髪をかきあげる。
「割れた幹の再生する力。つまり植物が持つ再生能力、元に戻ろうとする再生力を君は最大限利用とした。そこに『魔』を注入したんだな」
松本がエントに近づいて無数の小枝を見た。
驚いて声を出す。
「これは枝じゃない。根だ。木の根が、裂けた幹の至る所から伸びてきてるんだ。それがすごい速さで繋がろうと、つまり再生しようとしているんだ」
あっ、と松本が叫んだ。
ひとつの木の根がいきな小さな木になると蕾を生み出し、そこで花が咲いた。
それは桜の花だった。
一つだけではなかった。
一斉に無数の木の根が小枝になり、蕾を持つと一斉に桜の花を咲かせた。
おそろしい速さでこの桜の木は再生を果たしたのだ。
雨の中で咲き誇る桜の花。
それはつまり割れた桜の木の再生が完了したことを意味した。
割れた幹はミノタウロスの肉体をその幹の中に封じ込め、ミノタウロスの最後の声すら出させぬ程の死を与えたのだった。
満開の桜の一片が、松本の頬に落ちた。
濡れた桜の花弁をそっと指に取ると、それを見て、松本は涙を浮かべて言った。
「官兵衛・・また儂を助けてくれたなぁ・・」
握った桜の花弁をぐっと握りしめて、三上を見た。
松本が頭を下げる。
「そうね・・つまり。命のありかたね。私達動物は再生する力は持たない。でも植物は再生する力を持っている。それは同じ地球に居てその在り様が異なる種なのよ。私はそれを長い再生の年月で知ったってことよ。地球はあなたの信じるクゥトゥルフの為にあって欲しくない。この世界を生きる全ての種にあるべきものなのよ」
三上はそれを言うを和傘を出て、満開に割く桜の下に言った。
「これだけ桜が咲けば、傘も不要ね」
確かに彼女が立つ場所は満開の桜に遮られて雨が届かなかった。
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