第37話
僕が我に返った時、それは自分の履く靴が冷たい何かに触れた時だった。
夢中で河童を追った。
降りしきる雨粒が僕の頬に当たってもその冷たさも分からぬくらい、僕は頭に何も周りは映っていなかったと言うしかない。
だから僕は自分が居る場所に気付いた時、最悪の場所に居るのだと認識した。
――そう、その場所こそは
流れる川の中だった。
僕は冷たくなる足を見て、完全にしまったと思った。
冷静さを欠いた自分が招いたミスだった。
今までの戦いで自分が学んだことが霧散した。
河童の卑劣な策略に引っ掛かったんだ。それもあのパペットを見た為に冷静さを失って。
周りを見れば誰も居ない。
完全に自分一人だった。
流れる川は少しだけ雨で水量が増している。岩が所々見えていた。
か、河童はどこだ??
僕は首を大きく振る。
「こっこだよーー?」
突然、水中よりぬっと顔を出す。
「おっわぁああ!!」
叫びながらバランスを崩す。すると河童がいきなりの僕の後頭部を持って、川中へ押し込んだ。
「ぶぅわはぁあああ!!」
その手をもがきながら振りほどく。
僕は髪から滴る大きな水飛沫を払いながら、河童に向き直る。
「殺す気かっ!!?」
言ってから、どこか我ながら可笑しかった。
相手は勿論、
そのつもりだからだ。
相手もそれが分かっているのか、どこか冷めたような笑い声をあげた。
「お前・・本当に馬鹿だよな。河童相手に水の中、それも・・川の中で戦うって言うんだからな!!」
言うや、僕に向かって飛び上がる。
僕は近くにある石に足をかけると、河童を避ける様に飛び上がる。場所を入れ替わる様に河童が元居た場所に立つ。
僕はバランスを崩しながら川に着地すると急いで河岸へ駆け上がる。
「行かすか!!阿呆っ」
声と同時に鋭い痛みが膝をつく。
それで前のめりに倒れた。顔から落ちるのはバランスよくなんとか避けた。
しかし膝を見ると血が溢れている。何か鋭利な刃物で切られたような跡だった。
手で触るとべっとり血が付いた。
けっけっけと河童が嗤う。
「見たか。水を鋭利な刃物にして、そいつでお前の膝を切ったのさ。痛みがひどいだろう」
マジでそう思うぜ。
僕は膝を引きずるように歩く。
歩きながらスマホを取り出す。
「お?ここで魔術でもするつもりか?」
僕はかまいたちとスマホに書いて、河童に向けて言葉を投げ放つ。
びゅぅぅうううううううううう
小さな竜巻が川面に現れ、河童を目指して水面を滑るように進んで行く。
「いけっ!」
僕は怒声を放つ。
かまいたちは勢いを増して河童に当たった。
―やった!!
そう思った。
しかし、かまいたちはそのままその場所を何事もなく過ぎて、そのまま遠くに消えて行った。
(ど、どういう事だ??)
僕は目を凝らす。
かまいたちの風の中にも、近くにも河童の姿は見えなかった。
(え、ど、どこに)
「ここだよ。ここ」
声は僕の足元から聞こえた。
すると河童はいきなり僕の足を掴み、僕を逆さに吊り下げた。それからぐるぐる回転させると勢いよく僕を川の中へ放り込んだ。
激しい水音と共に、僕は川の中に落ちた。
ばっしゃーーん!!
頭から水を被った。スマホが水に濡れた。
僕は直ぐに立ち上がると河童を探した。奴は少し離れたところに居た。
(よし・・)
僕はスマホに文字を書いた。
火の鳥・・
それを勢いよく、河童に向かって投げ放つ。
しかし
「あ・・あれ・・?」
スマホが消えている。いや壊れているんだ。画面が反応していなかった。
「えっ、ちょっと待て。これは駄目ってこと??」
河童がせせら嗤う。
「お前。本当に馬鹿だなぁ。当たり前だろう、スマホが壊れちゃ、文字何て認識できねんだろうが。お前が魔術を使うにはあとは直接ルーン鉱石に書くしかねぇのさ!!」
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