第34話
――激しい衝突音
これは腹部をミノタウロスの角が貫通した痛み。
僕は貫通した腹部を見ることなくその場に蹲った。
「こだま君!!」
僕を呼ぶ松本の声。
僕は蹲りながら自分の膝を濡らすだろう血潮を見るのを嫌がった。
何故ならそれは自分の確実な「死」を意味するからだ。
ただ激しい痛みがそうした精神の緊張を許さない。苦悶の表情で僕は自分の手を濡らす血を見た。
――筈だった。
・・・???
掌を見ながら僕は予期せぬことに驚いた。腹部を貫通した際に吹き出るはずの血潮がそこには全くなかったからだ。
あったのはゆっくり動いて空を掴もうと動く僕の驚きだった。
血が・・溢れていない。
僕は腹部を触った。
ゴロン・・
どさっ・・
それは音を立てて泥土の中に転がり落ちた。
(こ、これは・・)
それは太い木の枝だった。
それが僕の腹部にいつの間にか現れ、ミノタウロスの角が腹部を貫くのを阻止したんだと分かった。
僕はそれをゆっくり拾い上げた。
いつ、こんなものが・・
僕の腹部に現れたんだろう。
すると雨を切り裂くような音が僕に、いや、側に立つミノタウロスに向かって来た。
その音をミノタウロスが腕を振るい、地面に叩き落とした。
見れば同じような太い木の枝だった。
(これは??)
僕は顔を上げた。降り注ぐ雨の向こうからゆっくりと大きな影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
(な、なんだ!!アレは?)
僕は目を凝らす。
するとそこに大きな木が見えた。
(あれは、木じゃないか・・それも・・)
僕はふらつきながら立ち上がる。
(そうだ、あれは・・)
僕は今はっきりと分かった。分かって松本を見た。
松本も驚いた表情でこちらに向かってきているその正体を見た。
(太閤腰掛石の側に在った桜の木だった。それが足を、いや・・・、木の根を足のように動かしながらこちらにやって来ているんだ)
僕等だけじゃない。ここにいるミノタウロスも、猪熊も河童もそれを見ていた。
――突然現れた招かざる客。
誰もがそう思って見ている。
だが次に声が響いた時、僕はそれが思わぬ人物だと知って、再び驚いた。
それはこう言ったんだ。
「三対二なんて、アンフェアじゃない?私、も参戦させてもらうわよ」
そう、その声こそあの斜め野郎、三上麗奈の声だった。
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