第33話

 もうぅうううううううううぅううう


 もうぅうううううううううぅううう


 ゔもうぅうううううううううぅううう


 ゔっヴおっぉおおおおーーーーー!!


 牛の叫びが段々動物離れしてゆき、ついに怪物の叫びなった。

 筋肉が隆起し、眦があがり、指が生えている。

 この異常さは・・それはあの神戸で僕等を襲った赤い目に黄色の瞳孔を輝かせたイノシシと同じだった。

 ギラリとして危険さをはらんだ獣の眼差し。

 この異常に輝く瞳を見た時、あのイノシシたちに起きた異常は猪熊が起こした魔術によるものだと確信した。

 あのラーメン屋で斜め野郎が言ったんだ。

 猪熊が最高のモンスターを用意してるかもよ、と。

 それはもう十分すぎるほど分かった。

「ここから少しばかり行くと牛舎があるんですよ。そこのところから乳牛一頭をお借りしましてね。いま『魔』を注入したところです。いやはや、もはやこれほどの完璧なモンスターが生まれるとは驚きでした」

 猪熊が感心したように頷いて、河童に頷く。

「始めますか?」

 河童の言葉に猪熊が頷く。

「秀吉、こだま君。それでは最終ラウンド、始めましょうか」

 猪熊が指をパチンと鳴らした。

 河童が数歩下がる。

 それに合わせてミノタウロスが大きく手を突き上げた。


 ――いや・・突き上げたと見えた瞬間、

 僕は真後ろに突き飛ばされ、雨の降る泥土の中を転がっていた。

 直ぐに肩に熱い痛みが走る。


「っ、痛ぇ・・・!!」

 

 言いながら肩を押さえ、先程まで僕が立っていた場所を見た。

 そこには角を突き出して叫ぶ、ミノタウロスが立っていた。


 なんて俊敏性なんだ!!


 全く見えちゃいなかったぞ!!


 ミノタウロスは太い腕を松本へ振り回す。それをぎりぎり身体を逸らして避ける松本。

 奴も雨の泥土の中を転がる。

 松本に武術の心得が無ければ、一瞬で僕のように吹き飛ばされていただろう。


 何という・・怪物なんだ

 ミノタウロスって


 僕は荒い息をつきながら片膝をつきながら怪物を見る。


「思ったより早くケリがつきそうですね」

 河童がけっけっけと嗤う。

「かもな」

 猪熊が満足そうに頷く。

「じわりじわり、行きますか?」

 河童の声に寸断なく答える。

「いや、直ぐだ。直ぐ決着させる。あの三上みたいにだらだらなんかしない。奴等に反撃の習慣を与えない」

「了解」

 河童が指を咥え、指笛を吹いた。


 ぴゅーぅうーー


 僕等の耳に指笛が聞こえる。

「おい、ハナちゃん。もうとどめを刺せ!!」

 それに大きく怪物が咆哮を上げた。


 怪物・・


 ハナちゃん、と言うんかい!!


 心で突っ込みながら身構えた。

 視線の先にはっきりとミノタウロスの巨大が見え、それが瞬時に消え、


 ――僕は腹部に突き刺さる痛みを感じた。

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