第23話
方丈の壁を叩く雨音が強くなる。
激しい雨が降っている。
たが、僕等の居るこの空間は強い緊張感で静かな精神の強い鋼線が張り巡らされているよう。
もし、その精神の鋼線が何かのはずみで切れたら・・
「さて、こだま君」
僕は猪熊に顔を向ける。
「魔術書の歴史については大体松本さんから聞いてますか?」
記憶を探る様に頷く。
確か、ドルイドがエジンバラで作成して、大航海時代に日本に来て・・とかだったよな。
「はぁ・・まぁ大体、ドルイドが作ったとか・・。でも魔術を発動させたのは別の集団がやったとか」
「ですね」
猪熊が眼鏡をかける。
「魔術書はドルイドが作成した。しかしドルイドは魔術の発動の仕方を知らなかった。しかしそれを教えた集団が後からエジンバラに来たんです。その集団については?」
「知らないっす」
うん、猪熊が頷いた。
「その集団は漂泊の旅人達です」
「漂泊の旅人?」
「ええ・・まぁ簡単に言えば世界を漂白する人々、ジプシー、道々の人々、言い方はその地方でも色々代わるのですがそれらは広くユーラシア大陸に広がる一団で・・奇術や曲芸などを生業とした生活していた集団です」
「それってさ、イメージで言うと今でいう旅芸人とか、サーカス団ということ?」
「まぁ分かり易く言えば、そんな感じの集団です。だた彼らはそれだけでなく遊牧民独自の広い情報ネットワークを有していて、ヨーロッパに居てもアジアの中国、朝鮮、日本の事も把握していた恐るべき情報集団でした。彼らが現代にも与えた影響として神話や民話や伝承が世界的に多くの類型を持つのも彼等の存在があったからともいわれていますから」
ふむ。
ふむ。
なんか知的な話だ・・
「それでその集団がエジンバラにやって来て、ドルイド達と交わり始めた。ドルイド達は遥かエジンバラの森にやって来た彼らを歓迎した。広く世界に通じる情報は閉鎖的なドルイドにとってとても刺激的だった。そう、特にその中で一番彼らを刺激したのが・・」
何だろう。
息を呑む。
「鉱山を掘って生きる集団、彼らはその集団の事をーーー坑道を行き来できる背が低い者と言って『ドワーフ』と言っていたのですが、そんな彼らが口をそろえて言う謎の鉱石の事でした。それはユーラシア大陸の様々な坑道で見つかっている・・そう、それこそがルーン鉱石。その鉱石にある特定の言葉を指でなぞると反応して暗い坑道を照らすということでした」
つまりあの緑が混じった蛍光色のことか
「そうです、ドルイド達は気付いたのです。反応するその言葉とは神の言葉なのではないかと。つまりその鉱石は神の言葉を見つけることができるものではないかと。そこでドルイド達はエジンバラの森にドワーフを呼び、森をくまなく探してついにルーン鉱石を見つけたのです」
「文字をなぞれば・・それは言う通りだったということ?」
猪熊が頷いた。
「そうです。それからドルイド達は森に点在するルーン鉱石に様々言葉をえがいては、光り輝く言葉を彼等に紙に書き示すよう指示したのです。何故なら彼等はユーラシア大陸の様々な言語に精通していましたからね。それでそれら輝く言葉をルーン言語として定め、その纏められた物が魔術書ですよ」
で、ありますか・・・
「ドルイドは神の言葉を魔術書にした後、ローマ人の侵略と共に多くが殺害され、神の言案である魔術は彼等に渡り、秘密裏に保護されていった。でもここに至ってもまだ『魔』の発動の仕組みは分かってはいませんでした」
言ってから猪熊が僕を見る。
「さっきこだま君、イメージで言うと今でいう旅芸人とか、サーカス団といましたよね」
うん、言った。
「彼らは自分たち独自の奇術、曲芸を生業としていますよね。それってどこか魔術に似ていませんか?」
まぁ・・確かに。
「もともと彼らはそうしたことに慣れている集団なんですよ。そんな彼らのもとに本物の魔術があれば、いずれそれが解かれるのは時間の問題みたいなものです。そう、そんな彼らがいつしか遊ぶようにルーン言語を唱えて仕事に臨んだところ、ある異常が起きることに気付いた。
―――そう、それは今でいう手品や呪術、総称してマジックというべき現象だったんです。それこそが『魔』の発動だった」
「えっ声で反応したの?」
「そうです。声で反応したんです。ですがそれらはごく微量な『魔』の発動で手品や奇術、呪術などのごく簡単な見世物を手助けできる程度で何も世界に強い影響を与えるものではありませんでした」
つまり手品とかの類・・
たしかに旅芸人とかはそうしたマジックを使っているようなものだよな・・現代でも。
「そう、彼らは『魔』の発動について様々なネットワークを駆使して調べていきました。そこで、ほら・・・海を割る預言者モーゼを知っていますか?彼らは思ったんですよ。それはひょっとするとあれは嘘なんかじゃなく本物の強烈な『魔』の発動ではないかと考えたのです。それでレンブラントの絵画でモーゼが石板みたいなのを掲げているのを見たことありません?そのモーゼの掲げる板にルーン鉱石が重なって、同じようにルーン言語を鉱石に書いて掲げたところ、凄い『魔』が発動したんです」
「それって??」
「海が割れたんです」
「マジ?」
コクリと猪熊が頷く。
「そう、やっぱモーゼはほんまに海割ったんや、マジなんやって」
なんで
いきなり関西弁に・・
しかも
発動についても
イメージ先行何て遊びやんか、完全に・・
適当・・
「すごい発明は何でも遊びから生まれるもんですよ」
松本が頷く。
それを見て猪熊も頷く。
僕は思った。
意外と二人とも適当なんじゃないかと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます