第20話
激しく降り出す雨。
アクセルのスロットル部分に水が溜まる。対向車はほとんどない。
ヘッドライトが松本の原チャリのナンバープレートを照らしては消したりを繰り返している。
もう遠くはない距離。
松本が右手で標識を指す。
正慶寺まで一・八キロメートル。
もう距離がほとんどない。
あとはそこに在るハンドルを見つけるのみ。
ここまでくれば不思議と色々思い出す。
初めて松本におちょくられて魔術をかけられたこと
疑心暗鬼になりながらも魔術を体験して学んできたこと
幾つかの戦いに勝ってきたこと。
悪魔やゴーレム、魔女とかに会ったこと。
そう・・横を見ればカッパがいること。
うん、
え??
カッパ??
もう一度横を見る。
「のわぁああああ!!!」
思わずヘルメットの中で絶叫!!
#どうしました?
松本からのLINEに慌てて返事する。
#カッパ!!
河童が横におる!!
見ればロードバイクを僕のバイクと同じ速度で漕ぎながら横について来ている。
長い髪が揺らめき色白い顔、それに赤い唇で舌をビローンと出ている。
全身ずぶ濡れ。
おおおおーーー伝説のカッパだ!!
マジ見た、リアルに今!!
松本が旋回するようにして停車する。
僕もブレーキをかけて後輪をスライドするように停車。
カッパはというとブレーキをかけたが、そのまま前のめりになって、激しく転倒した。
「見て!!カッパだ!!」
僕が指差す。
松本がバイザーを上げて指さす方を見る。カッパはしばらく蹲っていたがゆっくりと立ち上がるとこちらの方にふらりふらりと歩いてきた。
全身から怪しい妖気が漂っている。
あとゴールまで少しなのに・・
何てことだ。
「いや、カッパじゃないですね。これ人間ですよ」
え?
良く見れば全身ずぶぬれだがTシャツにジーンズを着ている。
足元が便所サンダルなのが異常だが、ロン毛と唇が赤いということで目もあるし、人間の顔をしている。
あ・・・こいつ
さっき、ラーメン屋の大将が言っていた人物じゃねぇか???
もう一度まじまじと見れば、大将が言っていた容姿とほぼ同じことに気付く。
「なんだぁ。カッパじゃないのか?」
僕は思わず声に出した。
それに反応するかのように男の顔がくわっとして怒声を発する。
「何がカッパじゃないじゃ・・それも簡単にカタカナでなれなれしく言うな!!俺はれっきとしたこの川に棲む河童じゃ!!水の眷属だぞ!!」
自分をカッパだと宣言する人間・・
こりゃー
痛いタイプだな・・・
思わず松本を見る。
同じ考えなのか、視線を僕に返す。
精神が異常か
なんせこんな雨の日に便所サンダルでロードバイクぶちかましてるんだから。
去ろ・・ここを早く。
そう思ってアクセルを吹かす。
「お、おおい。ちょっと待ちやがれ!!聞きたいことがある」
なんだぁ?
じろりと目を向ける。
#聞いてやりましょう。ここは相手の気を落ち着かせましょう
松本の声にしぶしぶ頷く。
「何だ?あんた?聞きたいことがあるのか?」
おう、小さく言って僕の側に立つ。
面前に来れば本当に河童か人間か分からない。
「おまえだ。お前の全身からあの女の臭いがする」
「あの女?」
誰だ、そりゃ?
「おうとも。あの女だ。派手なサングラスをした女だ。あの女、川で俺が泳いでいる姿を見やがった。俺達河童はその存在を見られちゃいけねぇし、知られてもいけねぇ。もしそれが知られると清流に色んな奴らが押し寄せて来て汚されちまうからだ。現にこの前のテレビ局のやつらが来てから河童の住む川って看板が立って、この川をひっくり返すように観光客が来て汚していきやがった」
河童の真剣な申し立てに耳を傾けた。
派手なサングラスの女??
何か河童とそれが記憶にあるが思い出せない。
「聞け!!いいかそうなると河童のルールでは川を汚した悪い奴ってことになって水神に思いっきりおこられ、その川を追い立てられるんだ!!」
ほうほう、だから?
「そうなると方法は一つ。あのサングラスの女の肝をとらなきゃならねぇんだ!!そいつを喰らって殺すしかない」
遠くで松本の原チャのエンジンがブンブン鳴っている。
「だがどこにいるのかもわからねぇ・・・と気持ちが悔しくて沈んでいたところに、まさかその女の臭いがしたヤツがいるじゃねぇか」
すこし、アクセルを吹かす。
「それがお前だ!!」
くわっと目を見開いて襲いかかろうとしてきた。
だが、それよりも早く僕は全速力で河童の目の前を過ぎ去って行く。
もう全速力!!
アクセルが吹かす限り!!
――ま、待て~!!
こ、こらぁ・・!!
背に河童の振り絞る様な絶叫が聞こえたような気がする。しかし不意を突かれた奴には僕等の瞬時の速度にはついて来れなかったようだ。
やがて背には雨の音だけが聞こえて来た。
あーいやだいやだ
こちらはすごろくで言えばもう上りが目前なんだ。
目の前の細事には付き合いたくないんだよ。
何が派手なサングラスの女だ
そんな女、イズルしか知らねぇよ
そう、イズルしか・・・
ん・・?
あ、なんか思い出した気がする。
でも・・ま、いっか。
それは大事の前の細事だ。
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