第19話
店を出ればまた雨が本降りになった。雲が低くなり夕暮れに向かうこの時間、段々と暗くなってきた。
LINEが鳴る。
見ればイズルだ。
それも電話。
手にして、もしもしという。
㋑こだま?どうそっちは?
㋙雨本降り、天気悪いで
㋑そうなん、こっちもな。大分天気悪くなってきたわ。
㋙だろ
㋑そうそう、だからさ、今から避難すんねん。なんか丈夫な建物の所に。
㋙その方がいいやろ。マジで
㋑何でも台風、台湾でもえらい被害らしいで。それにさ、電柱とか屋根とかさ、竜巻で持ってかれて、空から降って来たらしいで。
㋙マジかよ!!すげぇーなっ。やっぱ・・
㋑やろ。となると私も竜巻に持ち上げられたら、空飛べるな。それで大阪帰って来るわ。
㋙・・・・せやな。
㋑そしたら、落ちてくるときちゃんと捕まえてな。頼むで。
㋙おう、了解やわ!!
㋑ほな、こだま。またねー
電話が切れる。
ついにあちら方面も台風の暴風域に突入しかかってるんだな。
「こだま君、良いっすか?行きますよ」
松本の声に縦に頷く。
よし!!
もう少しだ。
店を出る前にネットで地図を見た。ここからそんなに離れちゃいない。
僕はヘルメットのバイザーを下ろす。
川向うに緑の稲穂が見える。秋になればこの辺り一帯は黄金色の田園になるのだな。
消えゆく間際の仁王像の言葉が浮かんだ。
――ここは美しい山野であった
確かにそう思う。
もし、この冒険が無事に終わればイズルを連れて来たいかも。
輝く海を、美しい山野を、イズルを背中に乗せて走るんだ。
思うと心がどこか温かくなる。
人生って意外と悪くないな。
感傷的な気持ち。
それを振り切る様に、僕はアクセルを回して降りしきる雨の中へと進んで行った。
この冒険を終わらせるために。
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