第18話

 思わぬ展開に僕は松本と顔を見合わせる。

 

 それって簡単に分かっていいものなの?


「いいんじゃない。それにさ、正直言うけど、あんたらがミレニアムロックの事をさも大事に秘匿しているようだけど、残念ながらこっちも十分長い間勉強してるわけさ。だからそれなりの事はこちらも準備しているのよ」

 松本が頭を掻く。

「さすがもとはドルイドと言うことですか」

「もとはね。まーいまはその言い方よりも魔女って言い方がいいわね」

「ですか」

 まぁね、と相槌を打つ。

「でも昔は中世ヨーロッパではかなり魔女狩りとかあってあんまりいい感じはしなかったけどね」

「魔女狩り?昔?」

 僕は聞く。

「じゃぁあんたさ。やっぱり転生とかすんの?」

 その言葉に松本と彼女が少しだけ視線を合わせた様に見えた。

 すこしやれやれといった感じで僕を見る。そこで何か言いだそうとするのを松本が制する。

「まぁ、そこはそれぐらいで。それよりもハンドルの場所がどこか聞きましょう、こだま君」

 

 いきなり話題の方向を変えられた気がするが、そちらの方が愁眉の課題であるのは間違いない。


「三上さん、聞きますが。そのハンドルはどこにあるんです」

 

 質問にどう答えるのか?


「このまま川沿いに行くと正慶寺というお寺があるんだけどね。そこに大きな桜があるのよ。その下に・・昔、太閤が桜を見ながら腰掛けた腰石があってね。それがハンドルのある場所」

「たいこ??」

 

 知らんぞ。なんだ・それは


「え、それ。打楽器?」

 思わず口に出すと、彼女が大笑いした。

「いやいや、あなた何も知らないのね。太鼓じゃないよ。太閤たいこうっていえば、秀吉じゃん。太閤秀吉。まさかそんな歴史的な知識がなくて、よく魔術師の弟子なんかに慣れたわね!!」

 それには僕は赤面した。


 ああ・・


 うん、知ってる。

 

 ただ、度忘れしただけさ。


 ド忘れ。


 うふ


 松本が神妙な顔つきをしている。

「何か心当たりあるの?」

 聞くと少し視線を外して言う。

「いえ・・別に。そうなのかと思っただけです」

 その表情を見て、彼女が言う。

「松本さん・・あなたも大変ね、色々と」

 その言葉に松本が苦笑いする。

 そこまで言うと一気にどんぶりの残り汁を飲み干した。

「いやー!!美味しかった。満腹、満腹。これで大阪までドライブして帰れるわ」

 言ってから立ち上がり座敷から降りた。

「そうそう」

 スニーカーを履きながら僕等を振りかえる。

「見事な戦いぶり、完敗ってとこね」

 話しながら束ねた髪を解く。その時、何とも言えない香りが鼻孔に漂った。

「まぁこだま君にはまた地元で会えるから、まただね」

 

 確かに。

 またあの図書館に行けば。


「唯さ、忠告」

 僕等は彼女を見ている。

「うちのボス・・それなりにやるからね。気をつけて。ちなみに三宮で襲ったイノシシは彼の手はずだから。もしかしたらすっごいモンスター用意してるかもよ」

 

 ――笑い声がして、店を出て行く。


 残された僕等は彼女の意味を噛みしめるように店の壁にもたれた。


 とりあえず、目的地は分かった。

 

 正慶寺


 聞いたことがない寺だけど、そこの太閤の腰掛け石


 そこを目指すしかない。



 そう決意した時、大将が顔を出した。

「あっ、さっきの方。お代はこちらと一緒と聞いてましたんで、頂戴していいですかね。もう店終いなんで」



 えっ!!!


 松本と顔を見合わす。


 大将がすまなさそうに伝票を出した。

「三人でラーメン三つに、唐揚げと炒飯しめて二千八白円になります。すんませんね」


 

 ごーーーん


 食い逃げや。


 ある意味流石というか


 見事にやられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る