第10話

 揺られている。

 薄暗いひょうたんの中で。

 それはもう在り得ないシチュエーション。 しかしながら間違いのない現実で、事実、揺られながらひょうたんの中を転げ回っている。

 自分の知恵の浅はかさを今もって後悔する。 


 くっそー・・・


 しかもこいつ「あんたらここで死ぬんだから」なんて言いやがった。

 在り得るんか?

 お前ぇ日本やぞ!!ここ。

 サミットやG20にも参加する超先進国。そんな国家でこんな摩訶不思議な状況で「死」=つまり殺人何て・・そんな理不尽なことが平気で行われる訳がない!!


 だが・・

 だが・・・・

 この状況はどうだ?

 僕は確かにひょうたんの中で転がっている。転がる度にリュックの中の魔術書が動いて背中を当たる。

 夢じゃなくて超現実なんだと意識は理解している。

 それが・・

 何故か悔しい。

 心から悔しいんだ!!


「あのさ、お二人さん。ちょっと悪いんだけどさ・・死に方変更するわ。最初、仁王像にさぁ、踏みつけてもらおうかなぁと思ったんだけど・・」


 はぁ???

 踏みつけだと?


 お前、

 あんなでかいやつに踏みつけられたらゾウに踏まれる蟻じゃねぇか!!


「うん、蟻みたいに痛みもなく一瞬で死んじゃってしまうと何か・・面白みがないから拷問系に代えるね」


 え・・拷問系?


「ちょっと・・高田さーん!!」


 誰だよ?高田って。そんな奴居たか?


「あー、すんません、遅れちゃって。下で土砂崩れが起きてここまで回り道しちゃいました」

 男の声。

「うん、いいよ」

 答える斜め野郎。

「案外早く決着つきましたね」

 男の声。

「そうそう、案外おバカコンビだったわ」

 答える斜め野郎。

「そりゃよかった」

 男の声。

「それでさ。ここにそのおバカ二人が入っているから、裏のさぁ~炭を焼く窯があるでしょう?あそこにこれを放り込んで火を焚いてくんない?」

 答える斜め野郎。

「良いんすかね?あそこで」

 男の声

「大丈夫よ。前もあそこでイノシシとか鹿とか害獣駆除の為に焼いたから、肉も良く焼けるよ。それに焼き終わった後に骨になっても、害獣達の骨とかと交じってマジ分かんないし~」

 何だと!!斜め野郎!!

「了解っす!!さっすが頭いいいっすね。じゃぁ後はやっときます。あ、違うわ・・『っときます』ですね(笑)」

 お前、普通に笑うな!!男の声。

「雨も少し小降りになったから今からJRに乗って大阪に帰るわ。悪いけど駅まで車借りるね。鍵はどうする?」

 帰る・・だと??斜め野郎。

「あっ、じゃ・・猪熊さんに渡して下さい。明日大阪に取りに行きますわ。仕事で淀川のワンド整備があるんで」

 猪熊??男の声。

「そうじゃぁ、後は頼むね。あ、そうそう、あの仁王像、高田さんのスマホにゴーレムアプリ入れといたから、この仕事終わったら停止しといてくれる。それで元の場所に戻って仏像になるから」

 アプリ・・なの・・

 ゴーレム動かすのに。

 斜め野郎・・


「あーーーそうだ。最後にもう一つ追加でお願い。この魔界閉じといてもらってもいいかな。何から何まで申し訳ないんだけど」

 斜め野郎。


 はぁ・・魔界?!


「了解っす。魔界ジオラマってどこにあります?」

 男の声。

「本堂の祭壇に置いてあるから。最後に電源切っといて」

 斜め野郎の声。


 ――はーい


 以上、その声を最後に沈黙が訪れた。

 不気味なほど、何も聞こえないひょうたんの中で僕は何回も転がりまわった。

 だがどこかに運ばれているのは分かった。

 ごろごろ

 ごろごろ

 唯、唯

 今できることは唯ひょうたんの中で転がるだけだ。

 それが、

 不意に止まった。

 暫くすると何かが焼ける臭いがした。

(これは何かに火を点けてるんだ・・)


 おいおい!!


(マジ・・生きたまま火葬する気か?!)


 鼻歌が聞こえて来た。

 相手がかなりリラックスしている。

「さてと・・」

 長い沈黙を破る男の声が聞こえた。

「お二人さん、火が強くなるまで後十分ぐらいですから、せめてそのひょうたんの中で極楽浄土か天国かどこにでも行けるよう念仏でもお祈りでもしといてください」

 男の笑い声が聞こえた。


 心臓がバクバクして来た。

 この現実に耐えられないのだ。

 しかし、一体僕にどんな理由があるというのだろう。

 こいつらに殺されるという理由。

 ただ図書館で偶然魔術書を見つけたという、それだけのことだ。

 魔術書の事は後から現れた松本が色々教えてくれた。

 だが・・

 ミレニアムロック?

 それを偶然にも僕が解除した。

 その責任が僕にある??

 だがそれが本当に、僕が起こした事なのだろうか?

 ハンドル何て言うのも本当はでっち上げのデマに過ぎないんだ。

 そんなの妄想の・・

 浮世離れした空想なんだ。

 正直に言う!!

 今でも頭の片隅ではすべてフィクションじゃないかと思っている。

 夢なんだと。


 でも・・

 事実は・・・

 今この状況なのだ。

 間違いない



 何なんだ

 ふざけるな!

 ふざけるな!!

 ゲームじゃないんだ!!

 簡単に命を捨てれるか!!

 ふざけんな

 この殺人野郎

 変態野郎

 生きて、お前らを絶対叩きのめしてやる!!


 LINEが鳴る。

 見れば松本だ。

 僕はメッセージを見る。


 #こだま君、大丈夫ですか?


 続けてメッセージが届く。


 #そろそろ形成逆転と行きましょう


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