第5話

 昨晩から降り出した雨は、朝には小雨になっていた。

 僕達はコンビニでレインコートを買うとそれを着こんで、それぞれバイクと原チャに跨った。

 昨晩の寝る前の打ち合わせで明石方面へ向かうことを決めていた。

 互いにLINEを繋ぐと、その事を確認すると路上へ出た。

 車線の広い国道を西へと向かう。暫く道なりに行くと、途中で海が見えた。

 瀬戸内海だ。

 小雨の中で白い煙がかかった海が雨粒に打たれているのが見える。

 握るグリップに水滴が溜まる度、腕を振っては払う。


 おっ!


 瀬戸大橋が見える。下から見る光景に思わず声を出した。


 ケイタに会うにはこの橋を渡らないとな


 橋の下を過ぎるとベンチの有る雨宿りができる場所で松本が停車した。原チャを降りてレインコート脱ぐ。

 僕も停車して同じようにレインコートを脱いだ。

 バッサバッサ音を立てながらレインコートははたいて雨水を落とす。

「小雨とは言え、大分濡れましたねぇ~」

 レインコートを原チャに掛けてベンチに座る。

「さてと・・」

 松本がコンパスを取り出す。

 僕もレインコートをバイクに掛けると横に座った。

「ほうほう・・」

 松本が呟く。

 コンパスを覗き込む。


 針がほぼ北を向いている。


 松本を見る。

 タブレットを手元に置いて、地図を画面に表示させる。

「どうなんすか?」

 僕の問いかけに答える様に、松本の指が北へと動いていく。

「おそらくこの線上でしょうね・・・きっと。姫路まで行くと・・・行き過ぎて少しコンパスが東を向くと思います」


 この線上に・・ハンドルがあるのか?


 僕はタブレットを覗き込む。

 

 三木、小野、加東・・

 

 関西に居てもあまり馴染みのない地名が見える。

「じゃあ・・この地名の何処かにあると?」

「ですかね」

 松本が頭を掻く。

「あのさ・・」

 咳払いする。

「聞くけど。いままで誰もミレニアムロック、解除とかしたことなければさ。勿論それを封じるハンドルなんて誰も探したことなんて無い訳じゃん?本当にこのコンパスを信じていい訳なん?」

 松本が困った顔をして僕を見る。

「だってしょうがないじゃないですかぁ~、そりゃぁ、行き当たりばったり感ありありですが、魔術書に記載がありますからね。仕方ないですよ」

「仕方ない・・・」

「そうです。もう信じるしかない。コンパスと魔術書に記載がある事をね。後はね・・」

「後は?」

「ノリっす。ノリしかないですぅ~」

 語尾を伸ばして僕に言う。

 

 あー・・なんか

 やっぱ頭に来るわー

 こいつの語尾・・


 はぁlとため息をついて、僕は空を見上げた。

 まだ雨は止みそうもない。

 瀬戸内を流れる雲が北へ向かって流れて行く。


 僕達はこれからこの雲を追うように北上するんだ。


 松本がタブレットをバッグに仕舞うと僕に声をかけた。

「じゃ。行きましょう。まだ小雨の内に」

「ちょ、ちょっと」

 慌てて手を上げる。

「何です?」

「あのさ。検討はついてるの?だってこのまま北上したら瀬戸内海から日本海まで行くことになるじゃん」

「あー・・そうですね」

 ヘルメットを被りながら僕に答える。

「ん・・とですね。多分ですが・・」

「うん。多分?」

 何か考えていたのか少し間を置いて言った。

「西脇・・・じゃないかと?」

「西脇?」

 全く地理に疎い僕は、それが全く分からない表情で松本に言う。

「西脇?なんでそう思うの?」

「あー。なんでか?ですか?」

「そう、そう。そうだよ」

 顎紐をかけて松本が言う。

「明石は東経135度子午線付近で、西脇もその近くにあります。ちなみに子午線というのは知ってます?」

 

 いや・・何だったっけ??


「えっとね。子午線は古代中国の方位や時刻を十二支で表わしてた事を踏まえてそれぞれ方位を、真北を「子(ね)」、真南を「午(うま)」と呼び、「子」と「午」の方角、つまり真北と真南を結んだ任意の地点を通る南北線のことを子午線と言います。それは地球上には無数にあるんです」


 ほー、それで?


 僕の表情が曇る。

「まぁハンドルがある場所としては・・子午線上は悪くないなと思いましてね。と言うのは大航海時代、広大な海の航海で自分の位置を知るのは最も重要で、だから緯度と経度はとても重要だった。何となく、イメージとしては悪くない」


 イメージって!!

 まるで

 それもノリじゃん!!。


「それに・・・」

「それに?」

 僕が松本に食い入る。

「まぁ・・僕も初めてコンパスが西北を指した時、地図でその方角を指さして言ったら・・子午線にぶつかるのが分かりましてね。まぁ・・その時はどうなんかなぁて思ってたんですが・・神戸に向かって今ここに立ってコンパスを見たら、まぁ・・予想通りでした」

「マジで?」

「はい、マジで」

「じゃぁ最初から西脇かも?って言ったらいいじゃんか!!」

 指で松本を指して怒鳴る。

「いや、予想が外れたら恥ずかしいですやん・・。それに西脇なら・・実はなるほどなぁと思う懐かしい人物の名前を思い出しまして?」

「はぁ?懐かしい人物の名前?誰?あんたの友達?」

 小さく咳をして松本が手を振る。

「いえ、いえ。まぁそれは良いでしょう」

 

 ふーん

 誰やねん?それは?


 じろりと松本を見る。

 その視線を松本が受け流す。


 よし!!

 それなら・・


「おい・・松本さん。僕達は旅の仲間だぜ。ロープレで言えば大事なパーティってやつだ。だろ~?だったらさ、隠し事は無しだ??ちゃう?」


 い、言ってやった・・

 な、なんか

 清々しい気分だ。


 ふっふ~ン♬


 これはボクシングで言うとストレートじゃなく相手の意外性を突いたフックだ。見事に決まった感がある。

 松本が参ったなという表情で僕を見る。

「じゃぁ・・言いますよ」

 

 見事決まったな、チンに!!

 

「その方は聡明な人物。以上っ!!」


 あ、ぁーーーん!!

 大きく口を開けて言った。

「何なん、それは!!」

 松本が笑う。

「以上です!!」

 そう言うと松本は原チャに乗った。

「マジかよ!!」

 僕もバイクに急いで跨る。

 跨ってヘルメットを被るとLINEで松本の声が聞こえた。


 #・・あとね。こだま君。西脇だと思った理由がもう一つあるんです


 #何?


 #西脇って日本のおへと言われてるんです。


 #だから、つまり??


 少ししてから松本の声が聞こえて来た。


 #なんかハンドルの有る場所としては中々良くないです。なんかやっぱ。ノリとしてはそのイメージ大事だし、最高でしょ!!


 僕達は連なりながらハンドルを探しに旅立っている。

 神戸では危険な目にも遭遇した。


 しかし、それがノリだったとしたら・・

 これは

 どんな二流ロープレよりも

 ひどい冒険かもしれない。



 そんなゲームで危険な目に遭いたくないなと思いませんか?

 僕は誰かに問いかけてアクセルを吹かした。


 あの巨大台風もノリでどっかに消えてくれへんかな。

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