第4話
その日は雨が土砂降りになったこともあって神戸のビジネスホテルで泊まることにした。
汚れた服をランドリーで回して乾燥機に乾かすと洗濯物を持って部屋に戻った。
おい・・・!!
松本がベッドの上で下着姿のまま座禅を組んでいた。
「ちょっと‼!驚くやろ。いきなりそんなことをしてちゃ」
声に反応して松本が目を見開く。
「いや、先程の事を静かに整理しようと思いましてね。座禅を組んでました」
「禅の心得でもあんの?」
「ま、少々」
そう言って松本がベッドに足を伸ばす。
「でもあのイノシシ・・、異常でしたね」
僕は頷いた。
「本当に怪物でした。まるでファンタジーゲームに出てくるような・・・。現実なだけにゲームなんかよりリアル感半端なかったですが」
「そっすね」
あの後、通りかかった警察官にいくつか質問を受けた。
回答はごくシンプルに
――イノシシに追われて雑居ビルに逃げ込んだところ、あいつらが追いかけてきて、イノシシの突撃を無我夢中で交わしたら窓ガラスを割って路上へ飛び出して逃げた。
その後は見ていない。勿論、街の人が見たという竜巻も見なかったし、知らない。
「・・あ、これ、洗濯もん」
そう言って松本に投げる。
「ありがとさん!!」
受け取るとシャツから頭にかぶりズボンを履く。
僕もホテルの部屋着からシャツとズボンに着替える。着替え終わると時計を見た。午後十時を過ぎている。
リモコンのスイッチを押して、チャンネルをニュース番組に合わせる。
キャスターの声が流れる。
―――現在、台風サッサニーは強大な雨雲を伴い太平洋上を北上しています。中心気圧は910ヘクトパスカル。明後日には台湾の東にあってゆっくり北上してくる模様です。
「台風・・近づいて来てますね。ゆっくり進んでいるのが幸いです」
松本の呟きに僕も頷く。
「さて明日には大体の場所を検討つけたいですがね・・」
「あのさ・・」
松本に聞く。
「実はさ、もう少しこの魔術書の事で聞きたいんだけどさ」
ベッドに置かれた魔術書を見る。僕等はさっきこいつの力で助かったんだ。
「ほい。何ですやろ?」
「この魔術書の原本ってさ・・今は無くてエジンバラで改訂されたんだよね。それで13冊の複写ができた」
「まー、厳密にいえば・・・原本の内容をそれぞれ十三冊に分けて書いたんです」
「ああ・・そうなんだ。それでさ・・目の前にあるこれだけなの?そのミレニアムロックの事が書かれているのは?他の十二冊には書かれていない訳??」
松本がふぅ~ん、と顎をなぞる。
「つまりさ。他の魔術書にも書いてあれば、まだ解放されてないものがあるのかなと」
松本が首を横に振る。
「ミレニアムロックはこの魔術書のみ、ギルドでは「十三の書」と言われているこの魔術書のみ書かれています。他の十二冊には残念ながら書かれていません。それはギルド全体で確認がされていることですから間違いありません。それとこのミレニアムロック、いくつの異常気象が封印されているか・・・実はそれもわかりません。一つなのか二つなのか、はたまた百個なのか」
「百ぅ??」
「あ、いえこれはあくまで・・ですよ。だって今まで誰もこのミレニアムロックの解除そのものについては知る人物はいなかったのですから・・当然それにどれだけの封印があるのかは知る由もないのです」
なるほど・・
「ちなみにどうしてこの魔術書が日本にある訳?」
うん、と言って松本が腕を組む。
「鉄砲伝来って知ってますか?」
「歴史で勉強はしたことある」
「その頃、世界は大航海時代だったんです。ポルトガルをはじめとした多くに国々がこぞって巨大な帆船を建造して世界の海原を巡っていた。それは中国、マカオを経てやがて島国日本へとやって来た。キリスト教の宣教師たちと一緒に・・」
「宣教師?あのフランシスコザビエルとかと」
ええ、松本が言う。
「彼らと共にこの本は日本へやって来た。それはちゃんとした目的があって」
「目的?」
「そうです。キリスト教布教の為です。魔術という・・いわば神の奇跡というものを見せることで当時未開の東アジアでのキリスト教の宗教的位置を確立させ、布教を着実に広めたいという目的です」
「へぇーーーー・・・」
感心して頷く。
歴史に裏アリだな・・
「そしてもう一つ」
松本が指を立てる。
「もう一つ?」
「ええ、他の十二冊はそれ以上神の言葉であるルーン言語を書き加えられないのですが、これだけが今も尚、新しいルーン言語を書き加えられることができる」
「それは・・つまり?」
「この魔術書だけが東方アジアの言語などあらゆる言語を記載できる機能があるのです。つまりこの魔術書はその当時のヨーロッパ言語以外の言葉を魔術書に書き加えることができる、それこそが布教にはもってこいだった。だってそうでしょう?その地域の言語でその言葉の持つ奇跡を起こすことができれば、これ以上素晴らしいことは無い筈ですから」
「確かに・・」
そうか、
つまり
こいつは奥深い魔術書なんだ・・
特別仕様ってやつなんだな・・
「最後にもう一つ」僕が聞く。
「はいな」
「なんでさ。図書館でラテン語の分類シールが貼っていたのか分からなくて・・」
「あ、そうなんですか・・・それは分かりませんね」
「何でさ?」
驚いて言う。
「あんたが寄贈したんだろ?」
眉間に松本が皺を寄せる。
「えーーそんなことしてないですよ。僕はただあの奥の本棚に置いただけですから?」
おいおいおい!!
じゃぁこの背表紙の分類シールは何なんだ?
「あ、本当だ。何でしょうね、これ。あそこの図書館の職員が勝手に貼ったん違いますかね?」
「マジかよ?これあんたのだろう?管理ルーズすぎるだろっ。見て見ろよ、本の裏に寄贈:エジンバラ、タイトル:[The millennium of grimoire , it,s told .1502 ]
」って書いてあるじゃん!!」
僕が指さす方をしげしげとみて、言った。
「ほんまですねぇ~。これ誰でしょう?書いたの」
僕の頭でカーンと鐘が鳴った。
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