第102話 カラガ砦の街。

 もともとログハウスのある島は魔物の山のエリアだ。のんびり景色を楽しみながら数分も飛行すると、大陸側に到達した。おそらく結界守の村の結界よりも北側を飛んでいるはずなので、ここはまさに魔物の山のはずだ。上空から見えるのは鬱蒼とした木々のなかで動くものの存在は目視では確認できない。


 しかし少し集中して魔石探知をしてみるだけでも、魔物がうようよ居るのを感知できる。大きさなどはほとんど把握できてはいないけれど、かなりの数だ。まあ、僕の居た島程の密度はないけれども、これだけいて魔物たちは食糧とかどうしているのだろうか。


 徐々に高度を落として、スマホを片手に地上に近づいてみる。魔物たちを目視できる範囲まで近づいて、撮った写真と魔物図鑑と照合する。暇な時間に作った照合システムがどれだけうまく作動するかは分からないけれど、まあ作動実験も兼ねてだからダメもとである。


 さすがにドラゴンやワイバーンなどの大型飛行系の魔物はいないようだ。というか、地球で言う伝説系の魔物は結構レアなのだろうか。地球でも見かける鳥や哺乳動物系の魔物は目視できる。大きさは以前見たモンスターボア程の大きさはなく、地球の動物園で見かけた動物より一回りか二回りほどおおきいくらいか。


 図鑑に書かれている魔物のほとんどは雑食で、木の実でも、野草でも動物でも魔物でも食べるようだ。しかしこの魔物密度の濃い中でも魔物同士が大規模に争っているという感じはない。どんな生態系になっているのだろうか。


 鳩、兎、たぬき?キツネ?鹿・・・?狼?犬・・・?だいたい動物園なんかで見たことのある種類っぽいのがほとんどだ。図鑑での名称もモンスター+英名な感じで少し興ざめしている。なんというか、インベントリの中のドラゴンのように、伝説系というか、ミノタウロスとかいないのかな。人のエリアにはゴブリンとかオークとかいるというのに、この異世界はファンタジー要素が薄いのか・・・。


 少し高度を上げて魔物というか魔石探知の対象を絞ってみる。対象の大きさを徐々に大きくしていくのだ。ピンポン玉くらいの大きさ以上にするだけでも、ほとんどの魔物が探索範囲外になる。山には虫系の魔物が多いのだろうな。でもこの程度なら結界を張って国を守るというほどではない気がするんだけども・・・。昔の方々はどんな魔物から国を守ろうとしたのだろうか。


 そういったことは、自分でこうして魔物を見ているよりも、同じように魔物の山に接していてかつ結界が無いかもしれない、サムワ王国に行った方が分かりやすいかもしれない。ゆっくりと西に飛行しながらそう考える。


 そもそも今現在僕が移動しながら適当に魔物探知している範囲はいいといころ半径1km。それに実際に探知できても目視しているわけでもないから、どんな魔物かもわからない。こういうのは実際に対峙している街の冒険者ギルドなんかで聞いてみた方が早いかもしれないなぁ。この辺りの魔物の山の生態系も考えて、インベントリの中の魔物開放についても再びペンディングとした。


 木々ばかり見ていても飽きるので、転移で以前魔物の山パトロールのときに近所まで来た昔の砦を利用した街の近くまで一気に来た。ここから5km先に関所があるわけで、冒険者兼旅人として国境越えを体験しておくべきだろう。


 この街の門にはそんなに人は並んでいない。貿易の街でもあるので、もっと多くの商人が行き来しているというイメージがあったのだけど、そうでもないのだろうか。すぐに僕の順番が来たので、冒険者のギルドカードを提示し、身分証とする。


「うむ、通ってよし。よし次・・・」


 持ち物検査も何もなく、すぐに通された。通行税も特に無いようだ。ここはトスタ辺境伯とカラガ伯爵どちらの領地だったっけ。よくよく聞いてみると、この東側の門は国内商人や冒険者の行き来がほとんどで、西側門のほうでは、サムワ王国の商人や旅人も多くて混んでいるらしい。それでも既に関所を越えて来た方々なので、門での検査はさほど厳しくはないという。検問ではけっこう厳しいのだろうか?


 街の名前にカラガの名が冠してあるので、ここはカラガ伯爵の領地のようだ。まあ、隣国との国境のある地であるとはいえ、貿易などで潤うわけで、どう見ても辺境という感じではないもんな。あまりファガ王国の地図きちんと見てなかったので、カラガ伯爵領とかトスタ辺境伯の範囲は覚えていない。まあ詳しくなる必要もないよね。


 ちなみにまだ昼にもなっていない。僕は東門から西門方面にまっ直ぐ街を散歩するように歩く。もちろん透明化コンデジは必須だ。ビデオカメラはまだ用意していない。ここ数日中に、ウェアブルタイプのアクションカメラを導入するつもりだ。いちいちカメラを取りだすのが面倒なので、バッグとか服に取り付けておきたい。


 4K対応カメラなら、あとで編集時にHDとかSD画質になるようトリミングも可能なので、光学ズームもそんなにいらない。そういう用途のビデオカメラはまた別途用意するつもりだ。あ、以前購入したドローンで自動追尾撮影とかも面白いかもしれない。


 アイデアはいろいろ浮かぶが、目下は街のお姉さん・・・いや街並みなどに集中するべきだろう。でなければ何のためにひとりで旅に出たのかわからなくなってしまう。まずはこの街の冒険者会館を目指してみよう。


 冒険者会館は人に聞かずともすぐに見つかった。この街の冒険者会館もサルハの街とは違い、建物の見た目で分かるようになっている。サルハの街の冒険者会館だけがやはり特殊なのだろうか。あそこの会館は外から見ると普通に官庁街の他の建物を変わらないもんな。


 そしてすでに混雑する時間帯ではないにもかかわらず、窓口の担当はお姉さんだよ。これですよ、冒険者ギルドはこうでなくては。


「すみません、サルハの街から来た冒険者のアタールと申します。ちょっと聞きしたいことがありまして。よろしいですか?」


 ギルドカードを提示しながら、窓口のお姉さんに声をかける。お姉さんはにこやかに『どうぞ、何でもお聞きくださいね。』と言ってくれたので早速質問する。


「サムワ王国側に行くつもりなのですけど、何か注意事項などありますかね?」


 あれ?今なんか『チッ』って舌打ちのような音が聞こえた気がするんだが・・・。お姉さんではないよね?


「えっとね、注意事項はこの紙に書いてあるわよ。」


 お姉さんはそう言いながら、注意事故の書いてある紙を僕の方に放り投げた。なんなのだろうか、このいきなりの対応の変化は・・・。


「あ、ありがとうございました。」


 僕は紙を受け取った後すごすごと窓口から撤退して、飲食エリアのテーブル席に着いた。いやいや、何なのこのギルド職員・・・。このクレームは誰に言えばいいのだろうか。


「おいおい兄ちゃん、このギルドでは見ない顔だが、新顔か?それとも旅の途中か?」


 うむ、ちょっといかつい感じのいかにも粗暴な冒険者という感じのお兄さんが僕に声をかけてきたのだが、これはテンプレとか言うやつ?絡まれるの?とりあえず返事だけしておこうか。


「ども、旅の途中です。」


 めっちゃ短い返事だけど、向こうは会話を続けるようだ。僕の座っている席の向かいに座って話し始めた。というかまだ僕、飲み物とか頼んでないんだけども・・・。


「お前、窓口で何聞いたんだ?このギルドじゃ窓口のオネーちゃんたちは、金にならない質問なんかする冒険者には邪険にしか対応しねえよ。」


 あ、この人は親切な人だ。なんか窓口のお姉さんのほうがよほど不親切のようだな。特にこちらが質問するまでもなく、いかつい冒険者の方はさらにご親切に教えてくれる。


「このギルドじゃ、窓口担当者は依頼斡旋や依頼達成の確認ごとに自分の手数料ボーナスになるってことで、依頼関係ならみんな優しいんだけどよ、金にもならん質問する冒険者は邪険にされるってわけだ。これが売れる情報についての質問なら喜んで丁寧に答えてくれるだけどな。だからこのギルドじゃ、情報交換は冒険者同士だけでするのが常識なんだよ。」


 そんな常識があるのかぁ、世の中広いよね。って、あまりにもギルド支部ごとで違い過ぎたら冒険者が困るんじゃないのかな。特にこの街だとファガ王国とサムワ王国両方の冒険者が身を寄せる可能性があるわけだしなぁ。


「情報ありがとうございます。僕はサルハの街の冒険者で、アタールと申します。何か飲みます?お礼に奢りますよ。」


「おお、ありがたいね。おれはカラガ砦の街の冒険者でグリヤンだ。剣士をしている。」


 ほほう、ここでは剣士とかそういうのも名乗るのか。まあ僕はサルハの街でも誰かと一緒に冒険者活動したことないので、こういう挨拶知らないんだけども。そしてこの街の名はカラガ"砦"の街っていうのか・・・。カラガの街ではないんだな。カラガ伯爵領なんだから、他にカラガの街っていうのもあるんだろか・・・まあ今は関係ないけども。僕は注文したお茶を飲みながらも返事を返す。


「あ、僕は魔法使いです。」


 一応同じように役割?を答えておく。


「魔法使い様かぁ、どうだ、おれたちと組まねえか?お~い、パベル、ミハエル!お前らもちょっとこっち来いよ。」


 ん?なんか誘われているけど、お兄ちゃんばかりのパーティーなんて御免被るよ。いや、お姉ちゃんばかりのパーティー以外は御免被りたい。でもまあそうは言えないので、


「あ、僕はまだ旅の途中でして、もう今からすぐにサムワ王国側に向かう予定なんですよ。」


 と、牽制しておく。牽制というよりも事実の告知なんだけどね。みんなのヘソを曲げないように、グリヤン、パベル、ミハエルの3人にはそれぞれ飲み物を奢っておく。この飲み物はおそらくビールのような飲み物だから、いわゆる『エール』ってやつだろか。僕は普通にお茶をお代わりして飲む。


「いろいろ気を遣ってくれてありがとうございます。これ飲んだら僕は出発しますので、またお会い出来たらよろしくお願いします。」


「「「おう、またな。」」」


 別れ際もある意味潔い。それよりも、お茶飲み過ぎでトイレ行きたい。夏場だからけっこう水分摂っても大丈夫だと思っていたのになぁ。急ぎギルドのトイレに駆け込んだのだけど、ダメだ。ここで用はたせない。汚いというか異世界のトイレ僕使ったことなかったわ・・・。


「あら、お帰りなさい。もう帰って来たの?」


 いや、茜さん帰って来たわけではないんです・・・。

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