第101話 旅立ち。
僕の異世界周遊の話は滞りまくりながらも終わり、これで心置きなく周遊に出かけることができる。ちなみに滞ったのは異世界周遊自体の話ではなくて、魔物の山パトロールの件。ようするにみんなまた空の旅がしたいとゴネたわけだ。一応不定期ではあるけれどそれぞれ連れて行くことを約束してなんとか納得していただいた。サシャさんも乗っかってきたのには驚いたけれども・・・。
その後お茶会グループと合流して、総勢11名のお茶会となったけれど、この国の為政者はこんなことをしていても良いのだろうか。学校の見学は国の教育省のような部署の方がそれぞれの学校を案内してくれることになった。なぜか茜さん同伴で。むしろ僕は行かなくてもいいようだ。こういうのは女性グループに任せよう。
そして茜さん、なぜ異世界に馴染んでいる・・・。サシャさんやユリアさんもなぜ地球ファッションの茜さんを普通に受け入れているんだ。なんかユリアさんと茜さんは服の交換の約束とかしているし、サシャさんも茜さんから聞く地球ファッションに興味津々のようだ。茜さん・・・そういう文化破壊のようなことは良くないと思うよ。と思っただけなのに、女性3人にものすごい顔で睨まれた。女性って魔法でも実現不可能な思考を読む魔法でも使えるのか・・・。
まあいいよ。僕はどうせ異世界周遊の旅に出るんだから、残る方々がそれぞれ自由にしていただければ構わないかな。開き直るほうが精神的に楽だ。
ログハウスでのお茶会は1時間ほどで散会となったが、すぐにログハウスの1階の倉庫にしか使っていない部屋、要するにモデルハウスだったときにバックヤードだった倉庫のような場所と、王宮の国王様の私室およびアート様の執務室、サシャさんの家の書斎をそれぞれ空間魔法で繋ぎに行ったり、茜さんの要望で日本の僕の家やサルハの街の家への接続扉もその倉庫のような部屋に集約させ、もう全面扉という変な部屋になってしまった。エレナはスベトラと扉に表札を付けている。
もちろん日本側の家の扉も結局茜さんの部屋ではなく、僕の事務所スペースに戻った。どこにあっても僕が通過許可しないと通れないからそんなこと気にしないでいいのになぁ。あ、はい。通過許可付与用の魔道具を作れと・・・。わかりましたよ。あ、茜さん内線番号の教え合いしてる・・・。
何となくイメージしながら魔力チャージ一体式の魔道具をペンダントに仕立てて茜さんと国王様、サシャさんそしてアート様にお渡しした。何かあったら責任は国王様がとってくれるというし、しょうがないね。ちなみにこの魔法の拡散はしないようにと、何度も念は押したから。アート様一家は子供たちがものすごく嬉しそうにしているし、まあ子供たちが喜ぶなら良いだろう。良いよね?
さて、もうすることはしたし、旅の準備でもしよう。とはいっても何も用意するものないけど。あ、ビデオカメラだよ、ビデオカメラ。4k画質のやつとか、360度撮れるやつとかいろいろ試さないとなぁ。ん?必要な時に電気街に買いに行けばいいのか・・・。ほんと準備何もないな。
結局計2時間程でそれぞれが居るべきところに帰って行った。アート様一家を除いて・・・。二人しか帰ってないのですか・・・。
茜さんは雑談のなかでいろいろとこの国の事やこの世界のことをユリアさんから聞き出している。何故にあのふたりは既に旧知の仲のように話せるんだろうか。いやユリアさんだけではないな。エレナもスベトラももうすでに僕よりも茜さんに懐いている気がする。自然にエベリーナちゃんとその兄弟も懐いているよね。
なんだかちょっと納得できない感はあるけれども、面倒事は茜さんという方程式が出来上がりそうなので、納得しておこう。
結局さらに2時間、アート様一家がご帰宅するまでに計4時間を要した。いや別にお客様がいらっしゃるのが嫌なわけではないよ。僕が世話したわけではないし。でも今朝までプライベートスペースだったところがいきなりパブリックスペースみたいになったら、混乱するでしょ。
残ったいつものメンバー、現タカムーラファミリーってことだけども、その了承をもって僕は地球での海外拠点と自宅間の空間接続扉設置のあと、旅立つこととなった。それまでの3日間でサルハの街での用事はすべて済ましてしまうつもりだ。
そして地球の自宅の夕食の席にはなぜかエレナとスベトラも居る。もちろん茜さんが誘ったわけだけども、車でスーパーへ買い出しに行った時は目立ちまくった。老人しかいない村の小さなスーパーに外国人っぽいお嬢さん二人と、まあ僕が見てもそこそこ美しい妙齢の女性が現れたらそうなるよね。僕は少し距離を開けてショッピングカートを押していただけ。
スーパーでの買い物の内容は正直わかってない。僕は単なる荷物持ちだったので。しかし食卓には僕が料理の名称さえ知らない普段目にしたことのないような食事が並んではいる。美味そうではある・・・いや美味い。茜さんがエレナとスベトラを従えて料理していたのを僕はただぼーっとして待っていただけだもんね。ほんと今日は1日中、茜さん無双だわ。
名義は新会社に変わったけど、僕のすることは全く変わらない。システムの管理とアタール名義で投稿した記事というか写真のチェック。それに今は動画サイトのチェックが加わったくらい。多数寄せられたコメントへの反応は今はもうしていない。今後旅に出たらアタール投稿はさらに増えるだろうから、いちいち反応していては時間がそれだけあっても足りないのだ。まあ、もともとまともな返信はしてないけど。
動画チャンネルの登録とPVはうなぎ上りに上がってはいるが、それでも世界的に見ればまだまだだ。まあ5分の動画2本だし。このサイトのコメントもとんでもない数になってており、世界中の言語で書きこまれているんだよね。
こちらへの反応は茜さんやそれこそキャサリンさんに相談してから対応を決めよう。そういえば嬉しいことに、再生数やチャンネル登録数等の条件を満たしたため、早速広告収入対象になっている。本来会計関係担当の茜さんはさらに忙しくなりそうだな。仕事を任せることのできる従業員ができて本当に良かった。明日も頑張ろう。
朝から早速サルハの街に転移。商業ギルドに寄って、店舗開設の相談をしたらすんなり許可が下りた。職員さんのひそひそ話からすると、どうやら王都での僕の噂によるものが大きいようだ。いわゆる貴族待遇・・・。いや面倒な手続きがいらないのは嬉しくはあるけれど、なんか違う気がするけど、サクッと許可を貰う。
そのあとダフネさんのお店に寄り、相談と旅立ちのご挨拶をする。商売の事は商売人に協力を仰ぐべきだよね。ダフネさんは快諾してくれて、あとの打ち合わせはエフゲニーさんに丸投げ。もうすでに二人は何度もやり取りしているので、その方がスムーズだ。これで商店の開店とスベトラの仲間やスベトーラ地区の子供たちの小遣い稼ぎも問題なくなるね。
翌日には代官様とか冒険者会館などなど、その他の挨拶もサクッと済ませる。とにかく長話になるとあれこれ聞かれるのが面倒だし。あと残るは、海外拠点と自宅の接続のみ。
パスポートも入国許可もないけれども、僕は茜さんを伴ってキャサリンさんの事務所を訪問。アパートの鍵を受け取るだけなんだけども、先日の失礼に対してのお詫びも含めて今回は僕からキャサリンさんを昼食に誘った。まあ、セッティングは茜さんなんだけど。一応ビジネスパートナーでもあるので、キャサリンさんには『エルフ村』のことや動画サイトのことも明かしてある。大きなビジネスになると期待しているようで、ものすごく事務所での対応がいい。茜さんどういう風にうちの会社を売り込んだのだろうか。彼女既にビジネスジェットとか持っているようなお金持ちさんなんだよね。僕にはまだまだ先の事は想像できない。
始終良い雰囲気で食事を終え、今回は送り迎えは一身上の都合でご辞退し、家の鍵を受け取る。今回の拠点設置の目的は買い物のため・・・というのは流石に明かせないので、街をゆっくり散歩しながらお店の確認をしたかったからだ。とはいっても茜さんがだけど。
メインは服飾とインテリアらしく、各種ブランドのお店は揃っていたから問題なさそう。正直僕には服の価値や美的感覚はわからないけれど、茜さんが良ければそれでいい。食材系のお店なんかもチェックしていたから、エレナやスベトラの食生活も向上することだろう。
さて、これで目下の用事はすべて終わった。心置きなく異世界周遊に出かける条件が整ったわけだ。明日の朝僕は旅立つよ。茜さんありがとう。ファガ王国のみんな、変な人ばかりだったけど、みんな良い人ばかりだった。イワンを除いて。
数日ぶりに泊まったログハウスで目を覚ますと、ドアがノックされる。
「アタールさん、朝ごはんできましたよ。」
朝食ではなく朝ごはんと来たか。だいぶエレナは茜さんに感化されてきているようだ。日本風の表現になってるもんな。
「わかった~。すぐ行きます~。」
洗顔と着替えを終えてダイニングに向かうと、茜さんをはじめとしてスベトラも既に食卓に着いていた。もうこのメンバーは確定なのね。そしてみんななぜか日本の服を着ている。いつも僕が着ているスエット上下、いわゆる部屋着というやつだけど、エレナの尻尾はどうしたんだろうか・・・。でもさすがに聞けない。
「今日はフレンチトーストとミルク、そして野菜のサラダ。本当はご飯とお味噌汁にしようと思ったのだけど、それはまたのお楽しみということでゴメンね。」
いや、茜さん全然問題ないし、ひとりの時ならクッキータイプの完全栄養食と飲み物しか摂ってなかったので、普通の食事というか、オシャレな食事でとてもありがたいです。美味しいし。
「それじゃぁ、食事が終わったら、僕は旅に出ますので、あとはよろしくお願いします。何かあったら電話か、茜さんの場合はメッセージ打ってくれれば、連絡とれますのでよろしくお願いします。」
「そうね。あとお盆に帰省するときは連絡するわね。あたるくん忘れてると思うから。」
なんか軽い。僕今から未知の世界の旅に出るんですよね。でも全員いつもの笑顔で僕を見ている。あの普段放任主義の両親さえ首都圏の大学に僕を送り出すときには、もう少ししんみりしていたというのに・・・。なぜこんなに普段通りなのだろうか。
「それじゃ行ってきます。くれぐれも何かあったらすぐ連絡くださいね。一応すぐ駆け付けますから。」
「わかっているわよ。エレナちゃんもスベトラちゃんもしっかりしているから大丈夫よ。」
そ、そうなのかな。お金は・・・エレナ大金持ちだったか・・・。結界は・・・もう魔道具渡したか・・・。
「「「行ってらっしゃい~。」」」
3人がめちゃくちゃ明るく見送ってくれたので、僕はそのまま魔法で空高く舞い上がった。最初の目的地、そう、魔物の山へ。
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