第99話 下準備?

 なんだかもうすぐお昼なんだけど、エレナとスベトラは冒険者活動しなくてもいいんだろうか。疑問には思うが、声はかけていない。あれからずっと茜さんを中心に女子グループは雑談を続けている。


 女子の話の盗み聞きはおそらく僕の精神衛生上よろしくないのでやっていない。何もしていないかというとそうではない。僕が今何をしているかというと魔石一体型魔道具の製作だ。


 僕が居ない間にみんなにケガしてもらっては困るので、結界用をいくつか。一応国王様とかアート様、サシャさん用も作っている。まあひとつ作ったらあとは複製して、設定だけ個別にする感じなので、そんなに労力は必要ない。ただ簡易型なので衝撃吸収のみ付与している。足底と手のひらは除く。初回設定は両手で魔石を包んで『ガードセッティング』と呟けば、利用者設定になる。結界張るには『ボディガード』、解除は『ガードリセット』と呟けばいい簡単なものなので、誰でも使えると思う。僕が使うわけではないから呪文付きだ。もう少し恥ずかしい感じの呪文がいいだろうか。


 次にトランスレートの魔道具。魔道具の仕組みというのを正直まだ把握していないけれど、魔法が使えるエレナとスベトラは魔法をかけた後おそらく自分の魔力を消費しながら機能を維持していると思う。魔力チャージの魔石無しで<インベントリ>を付与した袋みたいな感じかな。


 茜さんの場合、魔力を扱えるかどうか分からないので、念のために維持用の魔力チャージの魔石と魔石一体型<トランスレート>魔道具としての魔石を用意した。どちらか片方で良いかもしれないけれど、ダメかもしれないからね。そこいらは慎重派なのだ。


 あとはこないだ日本で買ったバッグではなく、王都でエレナが購入して<インベントリ>を付与バッグをお借りして、複製。色はそれぞれ魔法で変え、茜さんとスベトラにも渡そうと思う。あと茜さんの異世界用の服は適当にエレナに大きめのものを買ってきてもらってサイズ合わせだけすればいいだろう。小さ目はちょっとヤバそうだからね。


 言われなくてもこいう細かいところに気づく僕はけっこうイケてるとおもう。あとは水とかお湯とか出せればどこでもシャワー浴びることができるので女性受けするだろう。異世界周遊で出会うはずの可愛いお姉さんたちへのお土産なんかも水とかお湯が出せる魔石一体型魔道具があれば、自然といい関係になれるであろう。


「ねえねえ、あたるくん。ここってお買い物とても不便よね。どこか大きな街とか首都圏に会社の支店開いて、そこにあの扉を設置できないかしら。」


 それは僕も以前考えたけど維持管理が面倒だし、普段誰も出入りしていない部屋から人が出てくるとか不自然すぎると思って止めた案件だ。その説明をすると残念そうな顔をしながらも納得してくれた、よし。ならば僕から提案だ。


「茜さん、いっそのこと海外とかでもいいんじゃないかな。怪しまれたら撤退すればいいし。アリバイは日本国内にあるから、少々疑われても問題ないと思う。あとエレナやスベトラはどう見ても日本人には見えないから、海外の方が違和感ないと思いますよ。」


「確かにそうね。今後の会社の事もあるし、いっそのこと『elf-village inc,』の本社借りましょうか。面倒はキャサリンさんが見てくれるだろうし。ちょっと買い物行くくらいならいちいちパスポート確認されることもないし、田舎とはいえ、中心地は日本の田舎の都市よりも大きくて巨大なモールも商業地区もあるわ。人種も雑多だから目立たないわね。」


 それは良いかもしれないな。正式に行ったとしても向こうでホテルに泊まったりするより自社物件のほうがいろいろ融通効くし。うちの近くにはないハンバーガー屋もコンビニもたくさんあった。言葉は<トランスレート>でどうにでもなるしな。僕がいないときの読み書きは・・・茜さんに任せよう。


「じゃぁそれでいいです。」


「わかったわ。早速キャサリンさんにメール打っておくわ。向こうは今夕方だから、時間があれば電話貰うようにお願いするわ。」


 うん、茜さんに任せた。扉の設置はいつでも言われればできる。扉自体は複製してインベントリに収納してあるからね。お、なんだか速攻で茜さんのスマホに電話が入った。キャサリンさんが個人で所有している空き物件をめちゃくちゃ格安の月額約3万円で貸してくれるそうだ。ほんとキャサリンさん良い方だ。先日はろくな対応ができずにすみませんでした。


 物件の賃貸契約書はオンライン署名でいいらしく、電話中に送られてきたメールの契約書署名欄にペンタブでサインして送り返して契約終了。1年分の家賃をデポジット入金しておいた。鍵は次回行った時にいただけるということで、数分で話が付いたわけだが、なんだこの茜さんチート・・・。


「それじゃぁ、あたるくんがその異世界周遊というのに出かける前に、向こうに扉の設置お願いね。えっと、早めに環境整えるために・・・そうね、3日後でいいかな。3日後に鍵を貰って、扉を設置してほしいかな。そうすればそれからは自由に行き来できるわ。行くのは一瞬よね?だからそれまでにあたるくんはあたるくんの用事を済ませてくれれば、こちらは私があとは何とかするわ。」


 うんうん。それでいい。もう日本というか地球の事は茜さんがいろいろやってくれて、異世界側のファガ王国の事はエレナが勉強して茜さんと協力していろいろやってくれれば、僕は自由だよね。スベトラはスベトーラ地区の事やってくれればいいし。エフゲニーさんにも早めに報告しないとな・・・。彼が実質的にはスベトーラ地区の管理者のようなもんだからな。あわれマキシマムさん・・・。


 ふぅ、まだお昼なのになぜかやり切った感があるな。僕自身はペンタブでサインしただけなんだけども。そして昼食後に気づいた。買い物とか通販でいいんじゃね?・・・。みんなには言えないけどさ。


 昼食を挟んで昼からは異世界側であいさつ回りをすることになった。まだエレナとスベトラの学校の件はペンディング中だけども、どうせ国王様やアート様にも相談するし、物はついでということで一気に行動する。まあ、茜さんの提案なんだけども。


 国王様、アート様、そしてサシャさんにそれぞれ電話して、人を連れて行くということをお伝えし、それぞれ時間の指定をしてもらう。話は一度で済むように、いつものように、アート様とサシャさんを迎えに行ってから、王宮の会議室のようなところへ転移する。アート様が車に乗りたいと電話で駄々をこねたが、今回は却下だ。


「はじめまして、アカネ・タカムーラです。この子はスベトラ・タカムーラです。」


「ス・・・スベトラです。」


「ご無沙汰しております、エレナです。」


 アート様ご一家の前でスベトラがものすごく緊張している。君スベトーラ地区の支配者なんだから、そんなに緊張しなくてもいいんじゃない?というか、みんなタカムーラ姓になってるし・・・。


「おう、エレナ嬢久しぶり・・・でもないぞ。ただユリアとは久しぶりではあるだろうな。」


 今回転移した先には、なぜかアート様ご一家が待ち構えていた。もちろんセバス・・・ではなくアンドレイさんも居る。ユリアさん、エベリーナちゃん、兄弟ほうの名前は忘れたけど・・・もう、茜さんとユリアさんを中心にエレナやスベトラと笑談している。なんだよそのコミュニケーション能力は・・・。横から聞いていると、名前は兄の方がイゴルで、弟がボリスだった。すまないね、覚えられなくて。


 でも転移魔法の秘密保持はどうなっているのか。と小声でアート様にお聞きすると、国王様やサシャさんとも協議の上、家族一同は良いことにしたそうだ。いやいや、当事者というか、秘密保持の守られる側の意見聞いてないよねそれって。大丈夫なんだろうかこの領・・・。


「あたるくん、いえ、アタールくん、これからも領主様にはあなただけではなく、家族であるエレナちゃんやスベトラちゃんもお世話になるのだから、アート様だけではなくご家族の方々にもあまり秘密は良くないわよ。」


 うぅ、茜さんも向こうの味方か・・・。確かに二人が学校に通ったりする場合、かなりお世話にはなるな。そしてエレナとエベリーナちゃんはものすごく仲いいし・・・。ユリアさんもこの間まで棄民だったエレナをものすごく尊重してくれるし・・・まあいいか。どうせ僕は旅に出るから、あまり深く考えないでおこう。


 ここで時間を取られるのもなんだから、もうサシャさん迎えに行こう。とにかく話は後でいいや。


「それじゃぁ頼むぞ。我の家族も一緒にな。アンドレイ、あとは任せた。」


「はい、行ってらっしゃいませ。」


 うわぁ・・・御一行様だよ。もうその旨はサシャさんにも国王様にも伝わっているそうで、王宮では国王様が待ち構えているらしい・・・。ほんと守秘義務とはなんなのだ。最悪は盗賊の人体実験で培った記憶の巻き戻しを使用するか・・・。


「あたるくん、そんな悪い顔してないで、そろそろお願いするわ。」


 僕の悪い顔ってどんな顔なんだ・・・ろう。そして茜さん、また仕切っている・・・。彼女に任せていれば間違いないとは思うけど、僕の思い通りに行かないのは何故なんだろうか。そのうち精神魔法を開発してやるからね。


 サシャさんの家経由、王宮の会議室への転移はサシャさんと茜さんとの儀礼的挨拶にかかったほんの数分を挟んですぐだった。そして僕はまだエレナとスベトラの今日の冒険者活動の件についてまだ聞けていない。

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