第98話 異世界周遊宣言。

 朝、起き出して洗顔や歯磨き着替えを済ませ自分の部屋から出ると、いつの間にかスベトラまで一緒に事務所スペースの大テーブルの椅子に座ってお茶を飲んでいる。ここは親せきが来た時にもダイニングデーブルになるところだからまあいい。でもスベトラが飲んでいるのはペットボトルのお茶ではない。エレナが淹れた紅茶だ。茜さんももちろん一緒。


 エレナはもうこの家のキッチンを使いこなしているようだな。パンケーキはログハウスに用意していたものを持ってきたのだろう、人数分並んでいる。そしてなぜか新鮮な野菜サラダがボウルで置いてある。茜さんが朝のジョギングのときにご近所の農家から頂いたそうだ。いや、ご近所ってめっちゃ離れてるからね。どれだけの距離朝から走ってるんだよ。


 僕のプライベートスペースでなければ、もう自由にしてもいい宣言を発しておく。自分の仕事部屋については、空間接続扉があるので微妙だ。僕は転移で行けるから、茜さんの部屋に移動させる案を出して茜さんに快諾された。エレナもスベトラも喜んでいるが、君たち男性は家族仲間に入れないつもりだね・・・。


 朝食を済ませて僕は食後のインスタントコーヒーを淹れる。いよいよ異世界周遊の話を切り出すタイミングであろう。主にエレナやスベトラのファガ王国での教育を担保にしてみよう。彼女たちは頭はかなりいいと思うから、正直僕と旅に出るよりも正式に教育を受けた方がいいと思う。これなら茜さんも同意してくれるだろうし。


「さて、僕から皆さんに話があります。」


 注目されるのは苦手なので、そういいながらも自らの視線はインスタントコーヒーの入ったコーヒーカップに向けておく。


「「何かしら。(何でしょうか。)」」


 うむ、スベトラ以外は注目している。そういやスベトラに<トランスレート>かけてないわ。スベトラにも<トランスレート>をかけて説明に入る。


「僕は異世界周遊の旅に出ようと思います。」


「「「……。」」」」


 皆無言で次の発言を待っているようなので続ける。


「数日中、えっと、国王様やアート様、サシャさんやサルハの街の代官様とか、あとはスベトーラ地区のみんなに挨拶した後、まずはサムワ王国に行ってみたいと思います。そこからさらに大陸を周り、同じ大陸にある国を周った後・・・」


「あのアタールさん、国の名前を言われても、わたし全く分かりません・・・。」


 うむ、早速エレナ突っ込まれた。スベトラも茜さんも頷いているから、エレナと同意見のようだ。


「とにかく異世界をくまなく周ってみたいということなんです。」


 まあ、端的に言えばそういうことだ。みんなポカンとしているけど、別に僕は変なこと言ってない。むしろ初志貫徹だ。


「それで、あたるくん、そのたびに出た場合、会社とかあとエレナちゃんやスベトラちゃんはどうするわけ?」


 その悦明を今からするのですよ。


「まずは、茜さんもにも、このブラックボックス。えっと、異世界と地球でスマホで連絡が取れるようになる魔道具のようなものなんですけど、それをお渡しします。Wi-Fiで接続するだけなので、すぐ使えます。もちろん地球のネットにも繋がっています。あと、茜さんのスマホにVoIPの電話ソフトをインストールさせていただき、連絡は今まで通りできるようになります。むしろこれからは、異世界側、地球側どちらに居ても連絡が取れます。ですので、会社の事は問題ないと思います。この後すぐ渡しますね。」


「ものすごいドヤ顔ね・・・。会社の件はわかったわ。で、エレナちゃんやスベトラちゃんは?」


「えっと、エレナは18歳、スベトラは16歳で日本でならばまだまだ教育を受けている年齢だと思います。彼女たちがとても賢いので、僕と旅に出たり、普通に冒険者活動をしているだけじゃなくて、王都で学校に通ってもらえればと思っています。移動については、国王様にお願いして、ログハウスから王都のどこかに空間接続扉を設置させてもらおうと思っています。なんなら王宮でも許可が出ると思いますし・・・。」


「私はそのあたり詳しいことは知らないから何とも言えないけれど、教育を受けることができるなら、それは賛成だけど・・・。エレナちゃん、スベトラちゃん、どう?」


 なんか茜さんが仕切ってくれている。僕が問うよりもその方がいいか。


「わたしは・・・アタールさんはどれくらいの期間旅に出るのですか?私に何か手伝えることは無いのですか?ずっと会えなくなるのですか・・・?」


 エレナは半泣きになりながら僕に問いかける。彼女を拾ったときは、ずっと一緒だって言ってたもんなぁ。でも、あのときはまだエレナはスベトラとも茜さんとも知り合っていなかったんだよ。男性の僕より同性で気の合う人たちに囲まれた方がいいと思うんだよ。決して旅するのに邪魔というわけではないよ。


「会えなくなるわけではないよ。しょっちゅうログハウスやスベトーラ地区の家には帰ってくるし、美味しいご当地名物とかあったら持ってくるし、電話で連絡も取れるし、良い場所とか見つけたら転移でみんなを迎えに来て、観光してもいいと思うし・・・。」


「それ、今と変わらない。」


「変わらないですね。」


「そうなの?今もそんな感じなの?」


 ここのところ、エレナはスベトラと行動しているから、実際そうなのか?そんなに変わらないのか?けっこういつもエレナと一緒にいる感じするけどなぁ。まあ、最近はそんなに雑談もしてないというか、今まで僕とエレナが話した時間より、既にエレナとスベトラが話している時間の方が長いかもしれない・・・。茜さんにもすぐに抜かされるかもね。だって、寝室で語り合とかしないもんな。というか普通女の子とそんなこと出来ないよね。


「そ、そんな感じかも知れませんね・・・。」


「じゃぁ、いいのではない?さっきも言ったけど、私はエレナちゃんとスベトラちゃんがきちんとした教育を受けるのに賛成。そしていつでもあたるくんに連絡がとれた上で、何かあったらすぐに駆け付けてくれるなら、あたるくんが周遊の旅に出ても問題ないと思うわ。ようするに散歩に行っているようなものでしょ。でも王都の学校ってどういう教育しているのかが分からないので、姉としてはそこがちょっと心配かな。いじめとかないの?」


 いじめ・・・。僕の子供の頃のような・・・?そういうのがある場合は絶対ダメだ。一応学校の下調べとかが必要かもしれない。どうしようか。そして茜さん、散歩ではないよ。けっこう波乱万丈で過酷な旅を予想していますよ僕は。妄想とも言うけど。


「わかりました。学校についてはアート様や国王様に詳しく聞いてみます。その上で問題がなければ、就学ということでいいのではないでしょうかね。どうかな。」


「どう?エレナちゃん、スベトラちゃん。」


「僕は生活費心配。働かないとパーティーの仲間、生活できない。子供たちも困る。」


 スベトラ、話し方・・・。


「スベトラちゃん、お金の事なら心配しないで。わたし、使い道のないお金を国王様から頂いたの。だから、子供たちのために使ってもいいわ。パーティーの仲間には・・・わたしたちと働いたときは、私の取り分もみんなでわけるとか?・・・王都の学校ってどれくらい冒険者活動に影響するのかな。それがわからないとパーティーの仲間への対応はまだ考えられないかな。でもなるべく迷惑かけないようには考えられるわよ。」


 お、エレナは学校行きには乗り気のようだ。まあ、お祖母さんの影響なのか、学ぶことには貪欲というかものすごく興味ありそうだもんな。将来学校の先生とかになればいいかもしれない。


「僕はアタール様にとてもお世話になった。だからさらにこれからもまたお世話になるわけには・・・。」


「はいはい、子供たちがお金の心配はしないの。それにお姉さんやお兄さんが妹のお世話するのは当たり前なの。スベトラちゃんはもっと私たちに甘えてちょうだい。あと、あたるくんは商人でもあるのでしょ?お店でも作って冒険者の仕事が無いとき、そのパーティーの仲間や子供たちが働けるようにすればいいわ。」


 そうだね。僕商人。だけどお店を開く場合は別途許可を貰わないといけないから、少し旅に出るのが遅くなるかもな・・・。ギルドで聞いてみればいいか。


「わかりました。条件を整えるためにそれぞれ確認してみます。その条件が整ったという前提で、エレナとスベトラは考えてくれるかな。あと茜さん、学校の様子を見に行くのに、すこしだけ付き合ってもらって良いですか?」


「私はいいわよ。どうせ有給消化中はすることないから。」


「それじゃぁよろしくお願いします。」


「わかったわ。あとは私がエレナちゃんとスベトラちゃんといろいろ話してみるわ。あたるくんの旅に危険はないというのが前提だけどね。」


 危険はあるかも知れない・・・。けどもイワン一味に襲われて以降はそんなに異世界に危険は感じていないから大丈夫だとは思う。インベントリに収納してあるドラゴン程度ならもう脅威ではないと思うし・・・。僕の異世界周遊宣言はこうして数日のペンディングとなった。まあ、あとは茜さんに任せてしまおう。それでいいよね?

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