第93話 フライト前。
エレナと一緒に朝食を摂ったあと、僕の寝室からスベトーラ地区の家に空間接続扉から行き来してみる。特に問題ないようだ。あとはスベトーラ地区の家の結界はこの扉が接続されている僕の部屋のみに限定した。庭で住民の方々とエレナが遊ぶかもしれないし、スベトラのパーティーメンバーが泊まりに来るかもしれないからね。
僕が居ない間の買い物費用を渡そうと思ったら、エレナに断られた。まあ、彼女も大金貨1000枚持ちの大金持ちだもんな。家に必要な備品とかを買うようにお願いして、予定通り僕だけ日本に転移する。
本日の日本はあいにくの雨だけど、僕の気分はお上りさんだ。初の海外旅行が会社の銀行口座開設という変わった目的なのは変な感じだけど、地球で転移できる場所が増えるのも嬉しい。
時間が早いので、服を買えるようなお店は開いていない。しょうがないので、雨宿りついでに駅前のカフェで時間を潰す。雨が止まなければコンビニで傘買わないとな。今下手に茜さんに連絡すると、引っ越し荷物運びを手伝わされるかもしれないので、ここはまだ隠密行動。
カフェでコーヒーを注文して、席で待つ。ここはカウンターでコーヒーを貰うタイプの店ではなく、普通に注文を聞きに来て持ってきてくれるのだけど、個人的にはセルフサービスのほうが好きかな。ちなみに以前茜さんと打ち合わせしたお店ではない。たまたま通りがかったら開いていたお店だ。
暇な時間は『エルフ村』のサイトを閲覧するに限る。アタールの投稿以降、全体の登録数と投稿数がかなり増えたため、相対的に女性のユーザーも増えている。そうなると女性のコスプレ姿の写真も増えているというわけで、時間つぶしには持ってこい。
ついでに、アタールの投稿に対するコメントも閲覧してみると、またかなり増えている。異世界の女の子たちはそもそもコスプレではなくリアルだからクオリティが高くて注目されるのは当たり前なんだよね。街並みも然り。
コメントは勿論日本語が多いけど、眺めていると世界各国から書きこまれている。だいたいはモデルが可愛いとか、どの国のモデルかとか、被写体に関しての質問だけど、たまに盗撮を指摘してくる人もいるな。残念ながらファガ王国には盗撮という言葉自体がないのだよ。だから異世界では犯罪ではないからね。それに風呂とか覗いて撮るわけではない。たまに挨拶してくる女の子しか撮ってないし。
コスプレのプロ?風な方々は流石に目の解けどころが違う。猫耳、犬耳のクオリティ、そして衣装のクオリティに言及している。街並みに関してはものすごく似た風景を地図検索サービスで検索して貼り付けたりしているから、地球にも同じような風景あるんだなぁ。いつか行ってみたい。
さてそろそろ店も開く時間だから、服を買いに行こう。雨は止まないようなのでカフェの近くのコンビニまで走り、ビニール傘を購入。そのままチェーン店の服屋に赴く。
飛行機に乗るので、そんなにキッチリした服装でなくても問題はないけど、向こうについてから舐められない程度の服装にはしておきたい。襟付ききらいだけど、襟くらいは我慢するし、ベルトさえ身に着ける覚悟をしているよ。
女性連中と違って、僕はこういう買い物は早い。結局服は今のままというか先日購入したコットンパンツとカットソーのままで、ジャケットだけ購入した。いわゆるサマージャケットというやつ。あとは小さめの革鞄。ショルダーバッグというやつ。異世界の革鞄はさすがに持ち歩けないからね。パスポートとかとりあえずのお金とか財布はこの中に突っ込んでおこうと思う。襟付きもベルトも買ってない・・・。そして着替えも買ってない。いらないし。
まだまだ午後までには時間があるので人目のない場所に移動、透明化して、田舎の家に転移する。透明化を解除しないまま、ちょっと様子見だ。もう10時過ぎなので既に親戚のガキどもは起きているようで、庭で普段僕が手入れしている植物を毟っている。酷い奴らだとは思うけど、僕もこどもの頃やってたから何も言わない。まあ今の状況では言えないし。
子供たちの顔を見たところでは、今ふた家族来ているようだ。いちばん上の叔母さんの孫たちだな。このままお盆までいるのかな。そういや祖父の初盆どうするんだろうか。こういう面倒事・・・いやさすがに面倒事というのは故人に失礼かな。実家に関する用事ごとについては父が担当していたと思うから、裏山に登ってから電話で聞いてみるか。
「もしもし、お父さん?」
「おお、中(あたる)か。どうした。」
「このお盆、お爺ちゃんの初盆どうするのかなぁと思って。」
「ああ、それならこっちでするぞ。祖母ちゃんもいるし、墓もこっちに作るし。」
「ああ、そうなんだ。わかったありがとう。」
「お前もお盆には顔出せよ。」
「うんわかったけど、お盆の法事の日に行けるかは分かんない。でも必ず行くよ。それじゃ体に気を付けて。お母さんやお祖母ちゃんにもよろしくね。」
法事の日を聞いてないけど、まあいいや。お盆は1日だけ顔出そう。お墓とかどこに作るんだろう。そもそもいつ作るかも知らなかったし。なにかそういう宗教とか宗派で時期とかあるのかな。またネットで調べてみよう。
でもお盆に僕の実家に親戚が集まるということは、その前には僕の家からはみんな撤退するということだから、ひと安心だ。準備もあるだろうから、僕が会社の口座開設から帰って来たころには、もう帰った後か、すぐ帰る頃だろう。一応時期を確定させるために、撤退を促すメールだけ親戚に一斉に飛ばしておこう。会社優先ということで。
>一週間後に帰ってきます。仕事の打ち合わせなどでお客様が来るかもしれないので、その日には家を空けてください。よろしくお願いします。 中。
これでいいだろう。
口座の開設の旅は5泊6日くらいかな。場合によっては6泊。フライト時間片道10時間くらい、そこからさらに会社所在地の地域まで4時間かかるみたいだから、移動と休息、時差ぼけで最初の2日はつぶれると思う。航空券やホテルの予約とかは、茜さんと合流した後にスマホですればいいな。さて、茜さんとそろそろ合流しようか。
「もしもし、中です。」
「あ、あたるくん。もうこっちは終わったわよ。」
「茜さん、僕はさきほどこっちに着きました。どこで合流しますか?」
「う~ん、旅行バッグがあるから、こっちまでタクシー呼ぼうと思ってるんだけど、こっち来られるかな?」
「はい、いいですよ。マンションの前で良いですか?」
というか、まだ透明化解いてないからね、一瞬で茜さんのマンション・・・もう住んでないけども、その建物の死角で透明化を解除して話を続ける・
「今着きました。」
「え・・・あ、そうか。」
お互い笑いながら電話切をる。
「それじゃアプリでタクシー呼ぶわね。んーと空港まで・・・と・・・あ、すぐ来るわよ。」
その予測通り、2分としないうちにタクシーが到着し、運転手さんにトランクに茜さんの荷物を積み込んでもらった後、僕たちもタクシーに乗り込んだ。
「あかねさん、家の方なんですけど、口座作って帰って来た時はもう住み始めてもらって構いません。改装は業者に頼むので、ドミトリー風の部屋のどちらか選んでくれれば、改装します。寝泊りはもう一つの部屋で充分問題ないと思いますし。」
「あら、親戚の方が来ているのではないの?追い出したりしていない?」
「はい。祖父のお盆の法要を僕の実家でするらしくて、その前に親戚たちは一度帰る感じですかね。」
「それならいいけど、私のために周りの方には迷惑がかかるのはちょっとね。」
「問題ないですよ。ほんと今日とかだと流石に問題ですけど、けっきょく来週ですからね。」
「え?あたるくん何泊の予定組んでいるの?」
「えっと、5泊か6泊かな。」
「そうなのね。私は手続きだけしてトンボ帰りだと思ってたから2泊か3泊分しか着替え持ってきてないわ・・・。」
「そ、それは向うで買えばいいです・・・。」
タクシーの中では魔法の話はさすがにできないので、とりあえずはこの話は後でしよう。
「茜さん、フライトの予約、今しちゃいませんか?どうせ出発は夕方とかでしょうけど、先に席だけ抑えましょうよ。」
「そうね。ちょっと待って。」
そう言って取り出したのは、航空会社の金色のカードだった。
「ふふ、これで予約すると、提携会社なら席をアップグレードできるのよ。便を検索してみるわね。」
僕にすれば初めての海外だし、こういうとこは茜さんに任せちゃおう。というか今回の旅で僕が担当するところは、銀行口座開設のときのサインくらいだと思う。
「あ、あたるくんのパスポート見せてくれるかしら予約に必要だから。」
「はい。」
パスポートを茜さんに手渡すと、いろいろ入力したあと、『はい完了』といった後にすぐ返してくれた。もう手続きは終わったようだ手際よすぎない?
「17時にチェックインして19時発で10時間後に到着してから、むこうで最終目的地への乗り継ぎがあるから・・・乗り継ぎ時間は4時間ね。ビジネスクラスだから、ゆっくり眠りながら行きましょう。暇だったらWi-Fiも使えるわよ。」
うん、至れり尽くせりだ。程なくタクシーは空港に到着し、僕たちは空港でちょっと遅い昼食を摂るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます