第91話 たいして中身はないけれど長考。

 リビングのソファーに腰かけてペットボトルのお茶を飲む。こっちに来てから久しぶりにひとりの時間な気がする。これですよ、この時間が大切なんですよ。もともと田舎暮らしを始めたのも、周りに他人がいない場所の確保だったはず。


 あとは寒村をリアル『エルフ村』に見立てて楽しむ感じ。もちろん周りに爺さん婆さんたちは住んでいるけども、最低限家から見渡す限り人は居ないし他の家も見えないからね。


 周りと距離を置きながらも、なぜか周りに流される人生なのでここ最近の流れには問題なく対処できているけど、この異世界では短期間に知り合いが増えすぎたよね。特に国家レベルの権力者・・・まあ国王様なんだけど、そんな方々とお知り合いになるとか、本当は避けたかったことではある。


 知人が多いと自由な行動にも制限がかかる可能性が高い。自分が選択した事柄に対してついてきた結果であれ、ちょっとやりすぎで出来すぎな感は否めない。だいたいいろいろな方と知り合っても、名前もろくに覚えられないよ。まあ、もともと人の名前覚えるのは苦手だから今更か。


 さて、エレナについてはやはりサルハの街に残ってもらいたい。彼女のこれからのためでもあるし、僕自身のためでもある。この世界でファガ王国現地秘書という感じだな。決して現地妻ではない。国王様やサシャさん、アート様との繋ぎ役も彼女なら不足ないと思うし。


 もちろん身内というか家族扱いだから、放っておくだけではなく、気にかけはする。成人とはいえまだ18歳。頭もいいから、きちんと教育すればほんとに有能な秘書になると思う。それにまあ、僕を彼女以上に慕ってくれる人が現れるかも不明だし・・・。いや、まだエルフのお姉さんと出会っていない以上、まだまだ希望はある・・・はず。


 茜さんは、日本側の秘書・・・というか従業員?という感じで動いてくれると嬉しいかな。旧知の間柄だから、何でも相談できる相手ではあるし、僕はものすごく信用している。いつも苦言を呈してくれるのも彼女だし。まあ、その分遠慮はないけどね。今まではたまにしか顔を合わせていなかったけど、従業員ともなればしょっちゅう顔合わせすることになる。僕がその状況に慣れることができるかが鍵かなぁ。


 とにかく、異世界側にも日本側にも僕の希望通り・・・とまではいかないまでも、従業員ができそうなわけだから、異世界周遊の素地はできたと思う。抜かりなし?


 海外の会社の登記が終わり、銀行口座も無事開設となれば、あらゆる名義をそちらに移せば一般の方々に僕の存在はわからなくなるだろう。そうすれば、アタールはもっと写真をサイトにアップできる。そして今はまだやっていない動画の投稿。広告収入が見込める動画投稿サイトにこの異世界の動画を投稿してみようと思っている。


 自サイトの広告だけであそこまで収入が伸びたわけだから、もしかしたらもっと稼げるかもしれない。もちろん、稼ぎはそんなに重要ではない。人ひとり生きていける収入があればと思っていたし、いまでもその思いはある。贅沢とか別にしたいわけではないから。


 ただ、自由に生きるという意味で、大きな資産を持っていることはプラスになるというのをネットでお金持ちの生活を見ていて思った。芸能人とか注目の企業のトップ・・・いわゆるセレブは別にして、世界中のお金持ちはプライバシーが守られた上でけっこう自由に生きている方が多い。僕が人間的にその方々と同等とは思わないけれど、ああいう生き方にはちょっと憧れる。


 まあ、それに伴う責任とかものすごい重圧なのだろうけど、そのあたりは従業員となる茜さんに身代わりになっていただければと考えております・・・。下衆いですかね・・・。


 とにかく日本ではなるべく面倒なので人と接する機会を減らして、異世界側に生活基盤を移し、かつあまり1か所にとどまらないで、異世界を周遊するという計画の下にこれから動こうと思う。


 あと、魔法が使えなくなった時のために、周遊しながらも今のうちに魔道具一体型魔石の製作もおこなう。転移をはじめとして、現在頻繁に使っている魔法、新規の魔法に関しても、この異世界側、日本側双方で実験しながら製作していく。


 今の僕は日本も異世界もどちらもまだまだ体験したことがたくさんある。主に夜の繁華街に行きたいとういうわけではない・・・人と接する機会は減らしたけど、お姉さんと接触はしたいんですよ。魔法使いがさらにこのまま歳を重ねて魔法使いになるとか、ないわ・・・。


 そして今気になっているのが、インベントリに収納した魔物たち。一気に殺処分もできないこともないけれど、ほんとうにどうしようか・・・。このまま入れておいても特に今は問題ないというか、時々そのことを忘れるくらいなのだけれど、魔法が使えなくなった瞬間に、僕からスタンビート発生とか洒落にならない。魔物の山に放すかな。


 もしもドラゴンとか、よく物語で読むように知的生命体だとしたら、これは恩返しとかあるかもしれない。いや、仕返しされる確率の方が高いかな・・・。いまのところ時間が停止しているからインベントリの中で認知はできていないだろうけど。


 とにかく魔物の件は早めに解決したい事項だから。周遊をはじめたらすぐにでも魔物の山の魔物領域側に行ってみて、魔物の生息密度とか調べてみて問題なさそうなら放すのも選択肢に加えよう。でもドランゴンの魔石には興味あるんだよな・・・。


 なんとなく方向性は決まった気がする。まだエレナ、茜さん両人の意思は確認してはいないけれど、自分のことだし、これくらいは自分で決めないとな。今ならそれぞれに言い訳も10パターン程度はすぐ浮かんで言える気がする。


 周辺環境への対応は、知人への挨拶、エレナ、茜さん両人への言い訳・・いや説得、あとは・・・旅の準備だけど、これは特に要らないか。いつもの革鞄だけあれば、サシャさんから頂い旅人の服で充分。あまりに軽装だと逆に疑われるかな。


 簡単な護身用の武器くらいは必要か。そもそも魔法使いの標準装備って、どんな感じなんだろうか。冒険者会館で魔法使い系のお姉さんに聞いてみたいな。でも僕が行ったときにはいつも誰も居ないんだよなぁ。いや、居たかもしれないけど、セルゲイさんに邪魔されるんだよな。夕方にでもスベトラの仲間に魔法使いがいないか、聞いてみよう。


 これでだいたい異世界側はいいかな。先の事はまあ適当でいい。思ったように事が運ぶわけではないからね。方向性だけでも決めておけば問題ない。


 日本の方は、もう茜さんにあれこれ任せたい。めちゃくちゃ田舎だけども、茜さんもそのうち慣れるだろう。もしある程度都心部に拠点が必要ならそこも茜さんから提案があるだろうし。ついでに海外からの女性コスプレ写真投稿者のピックアップもしておいて欲しいくらいだけど、まあ僕の楽しみでもあるから、そこは僕がやろう。


 この1週間、やることは増えたけど、その分その後の楽しみも増えたということでいいよね。


 懸念すべきは夏休みで僕の家に遊びに来ている親戚たちか。なるべく放置の方向で行きたいが、1回くらいは顔出さないとな。茜さんを連れて行かないといけないし・・・。まあ、ここはいつもの成り行きに任せる方向でいいかな。まだ時間はある。そのうちまた何か思いつくだろう。


 昼飯に久々のカップ麺を食し、午後もあれこれ今後の計画について思考を巡らせた。特に障害は無いと思う。あとは実行だけかな。


 夕方になり、スベトーラ地区の家に戻ってきたけれど、まだエレナは帰ってきていないようだ。挨拶とかはまだ先で良いから今はすることがないので、地区を一周散歩しよう。コンデジの透明化は勿論既に施しているし、動画機能のテストでもしてやろう。

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