第80話 クランの建物に集う。

 エフゲニーさんからの伝言で、まずマキシムさんがイワン小屋に着いたらしいので、僕たちも早速小屋に向かう。クランの建物で結局新たなコミュニケーションは、社交辞令程度のものばかりでしたよ。獣人系の子供たちはめちゃくちゃ可愛かったけど、腹パンするのやめて。障壁展開してない素なら、おそらくもだえ苦しんでいたから。


 イワン小屋にはエフゲニーさん、マキシムさん、イワンをはじめ、最初に強盗傷害誘拐事件のときにお会いしたメンバーが全員揃っていた。僕っ娘スベトラもなぜか居る。この子はどういう役割を担っているのだろうか。今度聞いてみないと。ちなみに他のメンバーの名前はうろ覚え・・・。


「お久しぶりです、アタールさん。」


 イワンだ。もう適当に挨拶だけでいいよね。メンバーを見回すとエフゲニーさん以外は、みんな一端の冒険者装備で固めている。表情出会った頃とは大違いで、少年少女軍団の目は年齢相応の輝きを取り戻していると思う。同年代時の僕よりは。


 ますみんなに、簡単にエレナを紹介したけれど反応は普通だ。もっと盛り上がると思ったのに。僕っ娘だけは食いついていたけど、そういえばこいつも食いしん坊キャラ目指している感じだったもんな。クッキータイプの完全栄養食品をやたらお代わ要求してたし。キャラ被りの危機感?


「早速ですが、お金の件からなのですが・・・。」


 最初に出したお金は枚数数えていたけど、後半はもう適当にお金の箱に入れていたから、正直お金のこと聞いても分からないんだけど、エフゲニーさんが何か言いたそうなので続きを聞く。


「建物の建築のための費用や地区の整備、スラム地区出身奴隷の開放、衣服や冒険者装備など自由に使っていいとおっしゃったよう、頂いた分にほとんどは使わせて頂きました。地区のみんなにもなり替わり、まずはお礼させていただきます。」


 みんなも口々にお礼言ってくれるけど、お礼とか言われてもなぁ、もともとコピったお金だから・・・。なんかお礼言われることで罪悪感が芽生えてきたよ。


「まあ、ここに居るメンバーにはお世話になっていますので、お礼とかは本当にいいです。」


「それでですね、こちらの箱のお金は、冒険者稼業をしているメンバーが稼ぎの中から上納している分で、こちらの箱はですね家賃といいますか、少ないですが余裕のできた者が家の代金にと持ってきたお金を入れています。」


 は?上納とかお願いしたことないよね。


「全部で金貨86枚と大銀貨52枚、銀貨121枚となっています。」


「ちょっと待ってください、やたら多くありませんか?それだけあれば平民が数年遊んで暮らせるでしょう・・・?」


「思ったよりも冒険者稼業出稼ぎが出ている者が多いようでして、クランメンバーでうまく連携することで、森の獲物が狩れるようになったのですよ。未成年の者も暇なときには採取の手伝いで小遣い稼ぎしています。最近は職人区で手伝う者はほとんどいなくなりまして、職人区の親方たちからは、私が文句を言われています。」


 変なトラブルは嫌だな・・・。


「何かトラブルが起こっているんですか?」


「いいえ文句は言われますが、こちらが短期間にお金を使っているし、この地区の開発のために忙しくなっているようなものですから、文句というより愚痴ですか。嬉しい悲鳴という言い方も有りますね。」


 おおむね平和なようだ。でもこういう特需がある場合って、だいたいアンダーグランドな連中が跋扈するパターンなんだけどな。闇ギルドとかマフィマみたいなのとか居ないのだろうか。


「話は戻ります。クラン運営が思ったよりも順調なのです。獲物の情報交換にしても、一緒に狩りや採取をするパーティー編成にしても、臨機応変に相性の良いパーティーを組むことで成果がほかの冒険者たちより上がっているようです。それでギルドからも注目されているということですが、ギルドの事は置いて、お金なのですがどうしましょうか。」


 どうするといっても、どうでもいいんだけど。


「お金はクランでストックしておいてください。メンバーが怪我をして働けない場合の補償とかもそこからすればいいですし。そいうか、奴隷解放の件も何か進展があったのですか?」


「はい。冒険者稼業のついでですが、メンバーが他の街や村に行った時にも確認させています。今全部で3人解放しました。またその者に関してはクランの建物で説明します。」


 いかんいかん。お金の話してたんだった。結局お金は帳簿を付けながらクランで管理することで落ち着いた。使途は私的なものでなければ何に使ってもいいし、とくに福利厚生を充実させてあげて欲しい。僕がお金の所有権も放棄するというのは却下された。1か月も経たない間に400万・・・500万くらい?のお金を稼ぎだすとかすごいな。100人が冒険者になったとして一人当たり5万円だよね。


 でもこのペースで儲かるということは、付近の魔物が乱獲されてしまって今後稼げなくなるのでは?という疑問は、弱い魔物は魔物は多産ですぐ増えるのと、強い魔物は10人以上のパーティーでないと狩ることも難しいので、まだまだ放置されているそうだ。


 そういえば、モンスターボアは強いうえに、イノシシだから多産かもしれないな。空から見る限り、この領地というかファガ王国自体がまだまだ森や山、谷などの人の入らない地域が多いわけで、あまり深く考えなくてもいいのかもしれない。最悪は魔物の山の結界越えればいいし・・・。


 話し合いというより説明を聞いただけだったし、他のメンバーもお金については詳しくはないようなので、エフゲニーさんの独り舞台だけど、マキシムさんが稼ぐ方では突出しているそうだ。正確にはマキシムさんパーティーだけど。モンスターラビットっという名前だけでわかる魔物などをはじめとして、小型から中型と言われる魔物を数多く刈っていて、ギルドでも再登録以降は依頼達成も含めて重宝される存在になっているという。


 イワンの自慢話や他のメンバーの他愛ない話は適当に聞き流し、今夜のクランの建物で行う交流会のような打ち合わせのような報告会のようなことに関して打ち合わせる。僕に関していえば、クランに対するスタンスは、アドバイザー・相談役・顧問的な立場として地区の住人に周知させること。あとは適当で。夜に全体の動きが把握できたうえで、クランのことにつては詳しく打ち合わせよう。


 地区の名付けとかもあるし、この小屋の取り扱いなんかも後回しでいいや。人並の能力しかないので、あれこれ聞いても目の前の事しか対応できないからね。思い付きでの行動が僕の持ち味だ。いい感じで言うと臨機応変だ。


 小屋からクランの建物に移動が、なんか大名行列のようになっている。先頭は僕じゃない。イワンが露払いでそのすぐ後ろにスベトラちゃんがふんぞり返りながら歩いている。背が低いから周りからはあまり見えていないと思うけど。その後ろにマキシムさんと僕とエフゲニーさん。残りの少年たちや大人たちはその後を付いて歩いているのだけれど、振り返って見ると、さらにその後ろを冒険者装備の方々が付いてきている。


 ギャラリーもたくさん居るんだけど、何この見世物感・・・。散財の件もあるし、実質この地区の持ち主でもあるからスラム地区だけはしょうがないとは思うけど、ちょっと目立ちすぎだから、あとでみんなに注意しておこう。僕は気軽に撮影会さ出来れば良いんだからね。そのためにこの地区を買ったようなものだから。


 建物内にはもちろんみんなは入りきらないので、パーティーレベルでリーダー役を務めている方々や、この地区でいろいろ用事をしてもらっている女性たち、初期から炊き出しを手伝ってくれているメンバーなど総勢50人程が2階の広間に集まっている。正直ちょっと逃げたい。エレナに代わってもらおうかな。


 子供も数人いて、代表はなぜかスベトラちゃんだ。イワンじゃないんだ。イワンは大人の方に参加している。


「それではクランの立役者であるアタールさんが来てくれたから、みんな静かに話を聞くんじゃ。」


 エフゲニーさんではなくマキシムさんが仕切り始めた。そうか、彼が代表者だもんな。もともと地区のまとめ役だし。


「それではまず、レイ、レイシャ、ニカ前に来てくれんか。」


 あ、こっちが前なんだ。子供が3人やってきた。この子たちが奴隷として売られてた元スラム地区出身者か。こういう場合の挨拶とかぜんぜん思い浮かばないので、とりあえず『初めまして、アタールです。』とひとりひとり握手した・・・。が、握手の習慣がないようで、みんな困惑顔だけど。ジャーパン皇国での挨拶のやり方の一つと説明したらなんとなく納得していた。これでお姉さんたちの手を握っても今後は問題なくなるだろう。

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