第79話 もうスラムじゃないけどスラム地区の周遊。
大きさは隣町のコンビニを2階建てにしたくらいか。う~ん、何て表現すればいいだろうか。過美ではないし、荘厳でもないから良いとは思う。この違和感はなんだろう・・・。石造りだから?おそらくそれも要素のひとつだと思う。外から見た感じは、まあこの世界に来て、何度か見ている風な石造りの家なんだけども・・・。
内装か!外は少しゴツゴツした感じで、石を組みましたという主張をしていたのに、内側はフラットだからか。フラットもフラット、コンクリート打ちっぱなし並み。床も壁も天井も・・・。
「エフゲニーさん、なんでこんなに真っ平にできるんですか?」
「あ、石工は土魔法使う人が多いからです。」
そうかぁ、って説明それだけ?石の加工は魔法を使うのか。まあ、石ノミとかで手で削るとなるとこんなに短期間で出来上がるはずもない。けれどならばなぜ外側は、ゴツゴツなんだろうか。
石づくりの家の組み立て手順を聞いてみると、大雑把に切り出されてきた石で家をくみ上げるときに、まずはくみ上げる方面ようするに石の上下を綿密にサイズを合わせながら組んでいき、家の形、壁などができた時点で、内側の面をまとめてフラットにするそうだ。聞いてみれば僕にもできそうな気はする。
サルハの街は比較的腕のいい石工が多いらしい。街づくりのときに、大勢招聘された名残だそうで、あの画一的な街の建物を建てた方々やその末裔ということだろう。領都や王都と違って、この街の建物は本当に画一的で、この違和感はオフィス的なシンプルさなんだと気づいた。
まあ、部屋の内側がフラットならば家具などを置くときも、壁のデコボコをきにしないでいいし、床も水平が出ているからいいか・・・。せめて床はフローリングがよかったな。あとでリフォームできるか相談してみよう。
「アタールさん、2階建てなので部屋は1階に2つと2階に5つで、7つ。それと1階のキッチンと広間になります。トイレは各階に1か所です。」
そういえば、スラム地区のトイレってどうなっているのだろうか。僕はこの世界に来てからも、こっちのトイレを使ったことがないのに今更ながら気づいた。
エフゲニーさんに聞くと、なんとサルハの街はスラム地区であっても、下水道があるそうだ。以前は1軒1軒を下水道と接続するわけにもいかずに、共同で使うものが何か所かあったらしい。でも上水は人力で運ぶんだろうな。下水道なんて先進的な設備がある割に、そのあたりは前時代的なんだよな。
そもそも下水だって垂れ流しなのでは?と思ったらこれは浄化用にモンスターアメーバという魔物を利用するという。これ、あれじゃないの・・・スライムじゃないの?魔物図鑑デジタル版を後で確認してみよう。
とにかく各部屋も覗いてみたけれども、既にある程度の家具なども配置されていた。なんだかオフィスビルに住むような感じ。あとでいろいろ手を加えないと、あまりにも寒々しい。ほんとうにこっちをクランの事務所にすればいいのに。
もう引き渡していただいて住んでも良いということなので、鍵ももらった。鍵とはいってもこれも前時代的な簡単に開きそうなやつ。これも後で魔道具化しようかな。とにかく夕方みんなに会う時までに考えることにしよう。
「エフゲニーさん、わざわざこんな立派な家をありがとうございます。」
「いえいえ、お礼など滅相も有りません。そもそも建築資金はアタールさんのお金ですよ。そういえば夕方にそのお金の事もみんなと相談したいのですがよいですか?」
まったく問題ない。ほかにも例のスラム地区出身奴隷の件や、あと地区のネーミングの件などなど、みんなと話し合う案件がたくさんある旨もお伝えしておく。
一旦ここでエフゲニーさんとは別れて、スラム地区をエレナと散歩しよう。2ヘクタール程度だからくまなく歩いても30分から1時間で回れるだろうし。
「それじゃエフゲニーさん、また夕方に。クランの建物でいいですかね?イワン小屋の方がいいですか?」
「まずイワン小屋で集まって移動しましょう。お金の件も有りますから。」
エフゲニーさんに了承旨を返した後、家を出て散歩を開始する。
「どうだった?エレナ。この街ではあの家に住むことになるんだけど。」
「立派な家でしたね。でもわたしはログハウスの方が好きです。」
「まあ、あの家もログハウスのように住みやすくはするつもりだよ。さっきの家はログハウスに転移する基地にもなるからね。」
「それならば、眠るときやお風呂はログハウスに行けますね。よかった。」
あ、どれか一つ部屋を潰して、空間接続でログハウスと扉で繋ぐとかできるかも知れない。実験は必要だけど。魔力切れでスパッと真二つになるのは怖いけど、できればかなり便利そうなんだよな。もしできても、国王様やアート様には内緒にしとかないとな。変に遊びに来そうだから。アート様の奥様とかご家族はエレナと仲良くしてくれそうだから良いんだけども。
王都や領都も、王城や領主館ではなくて小さくてもいいから、家があれば・・・いややたら色々な所に出没するのはまずいな。何か変身でもできればいいのだけど、変装とか恥ずかしくて嫌だしな。よく仮面被ったり顔隠すマント身に着けるとかの物語見るけど、怪しさ満開だと思うんだよな。まあ、今は僕もそのままでかなり怪しいけど。
さて、スラム地区を見て周ろう。透明化したコンデジは用意出来たし、訝しげにこちらを見ているエレナはスルー。
「アタールさん、せっかく周っているのだから、わたしのこと紹介してくださいよ。」
「エレナ、僕は先ほどのエフゲニーさんと冒険者ギルドでお会いしたマキシムさん、それとまだ今日はまだ会ってないけど、イワンっていう成人したばかりのヤツとか、僕がスラム地区に来るようになって知り合いは12人しかいないんだよ・・・。他の方々とはまだ話したこともない・・・。無いんです。」
何度もコンデジ持ってこの地区を歩いて隠しど・・・撮影したことはあるのだけど、本当に人と話してはいない。こんなにも猫耳や犬耳を含めお姉さんがいっぱい居るのに・・・。火急の用事があるかトラブルが無いと、知り合いができない体質なんだろうな。だって用事もなしに面識のない方々に話しかけるとか、普通は無理でしょう。
「でも、地区の皆さん、みんなアタールさんに会釈されてますよ。挨拶返さなくていいんですか?」
「そうかな、気づかなかったよ。気づいたら挨拶くらいは・・・するよ。」
ジト目で見られてるから、ろくに撮影できないじゃないですか・・・。
それにしても、ひと月足らずでスラム地区は見違えったな。以前のスラム然とした名残はもう一切ない。みんな質素だけれど綺麗な服を着ているし、湯浴み効果なのかとても小奇麗だ。
「エレナ、挨拶と紹介は初めに言った通り、夕方ね。それまでは二人で散歩でいいでしょ。」
「ふたり、ですか。いい・・・ですよ。」
なんだかエレナがニマニマし始めたけど、別に今までもいつも二人でいるほうが多いと思う。
かれこれ40分ほどエレナとおしゃべりをしながら散歩を続けただけで、スラム地区のほとんどを周り切った。まあ、あまり人の家をじろじろ見ながら歩くのもなんだから、路地なんかはちらっと見ただけだったけども。そろそろクランの建物で午後の勉強会とか始まるかも知れないから、見に行ってみよう。
「エレナ、クランの建物にもう一度行くけどいい?たぶん2階で勉強会とか始まってると思うから。」
「いいですね。わたしも見てみたいです。」
結局クランの建物に行き、2階の勉強会だけではなくて、小部屋で行われていたお茶会なんかにも誘われて、夕方までの時間はあっという間だった。うんうん、あちらから話しかけてくれれば、僕だってコミュニケーションが取れるんですよ。そこのところちゃんと考えて欲しいね。特にお姉さんたち。あ、エレナのジト目が突き刺さってる・・・。
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