第68話 結界魔道具。
「どうも、アタールと申します。よろしくお願いします。」
「皆さん、わたしはエレナと申します。アタールさんの助手です。」
簡潔な挨拶をするが、助手とかそういう設定、昨日の打ち合わせにもなかったよね。どうにか家族設定はしたけど。まあ、家族とはいっても親せきまで入れれば幅広いからな。そういう細かい設定の話し合いはしてなかったからいいか・・・な?
「「「「「「よろしくお願いします。」」」」」」
って、研究員?さん側は自己紹介ないのか。まあ聞いても名前をすぐには覚えられないけども。
「自己紹介は、あとで各々お願いいね。これから長いお付き合いになると思いますから。アタールさんとエレナさんは、毎日いらっしゃるわけではありません。今日はアタールさんたちを私がご案内して、結界の魔道具や魔力チャージの魔法石などを見てもらい、後からミーティングします。それでは皆さん、作業に戻ってね。あ、例の魔法石もってきてもらえるかしら。」
うん、いちいち6人自己紹介したり握手したりしていたら、非効率だよね。サシャさんのお願いという命令で、昨日僕が魔力チャージをした銀色に輝く魔法石とおそらくほとんど魔力がチャージされていないであろう、薄くごく薄青色の魔法石が用意された。ものすごく恐る恐る運んできていたけど、壊れやすいのだろうか。
「アタールさん、エレナさん、あちらに私の部屋がありますから、これを持ってそちらに移動しますね。」
そう言ってサシャさんは僕たちを案内して別の部屋に向かう。部屋に入ると、おば・・・女性の部屋とは思えないくらいに、書類だけがやたらと多い殺風景な部屋で、テーブルや椅子も簡素。向こうで書類が山になっているのがサシャさんの机だろうな。部屋の入り口側にあるそのテーブルを囲んで、まずは魔法石についての話が始まった。
「まずはこちらの銀色の魔法石。昨日村に戻ってから一度結界の魔道具にセットして今朝まで、おおよそ12時間置いてから再度外したものよ。おそらくだけど、過去の研究や物語での伝承のように、チャージした魔力は減っていないみたい。だけど、残念ながら劣化具合については変わってないのよ。だから、すぐに問題解決とは行かなかったわ。」
そりゃそれで問題解決したら、魔法は要らないよな。いや、要るか。まだ研究資料は見せてもらってはいないけど、過去にアーティファクトではない、魔力チャージした魔法石をセットしてみたり、他の場所で出土した小さ目の魔力チャージ魔法石をセットしてみたりしたけれど、上手くいかなかったようだ。
以前僕がダフネさんに作った魔道具と魔力チャージ魔石がセットになるよう付与したみたいに、アーティファクトも魔道具と魔法石を連動させるのが基本なんだろうな。これならば、結界の魔道具を見せてもらって、仕組みをイメージできれば、新しい魔力チャージ魔石を作れるかもしれない。ただ、範囲が大きすぎて、イメージしにくいんだよな。
やってみないと分からないけれど、僕に北の国境をすべて防ぐような障壁を作れるのだろうか。だいたい、魔道具だって僕とダフネさんたちが離れてしまったら、その効力は魔力チャージ魔石を作るまでは、ダフネさん一家の魔力に頼っていたわけだから、この結界守の村にある魔道具だけで、結界を維持できているとは思えないんだよね。まあ、今はまだ疑問は置いといて、サシャさんの話を聞こう。
「そしてこちらの、魔法石は、結界守の村で普段使用しているもので、この状態で魔道具にセットして使っているの。」
え?チャージ切れ寸前じゃないの?そういえば、先日サシャさんに突然渡されて僕がチャージしたやつは、最初殆ど無色透明だったような・・・。
「今、村には5つのアーティファクトの魔力チャージ魔法石があって、魔力をチャージする担当として5つのグループに分かれているわ。子供や他の仕事を任せている方々もいるから、1グループがだいたい30人で、それぞれが1日回生活に支障のない範囲で魔法石をグループで回してチャージします。」
ふむ、30人が1日かけてチャージしたのが、この魔法石ってことか。
「それを繰り返して、だいたい1週間でこの薄青色の魔法石になるの。チャージしたあとは、1か月程度ではチャージした魔力はほんの少ししか減らないから、結界の魔道具がある遺跡に持って行って交換用として保管するのよ。それをローテーションしているの。」
1週間だった。自分では銀色のしか見たことないというか、作ったことがないので、どの程度の魔力量が必要なのかもわからないけども。ただ分かるのは、その30人の一週間分よりは、おそらくはるかに大きいということだね。横でポカンと口を開けているエレナも、なんとなく分かっているんだろう。
「過去の研究文献を見ると、まだたくさん魔力チャージの魔法石があった頃、実験で魔法使いを集めて何日か魔力切れするまでチャージさせたことがあったらしいの。それも100人、200人、300人と人を増やしながら。それでもどの実験も、微妙な差はあれ、今あるこの薄青色と変わらないほどしかならなかったのね。」
いろいろやっているんだなぁ。でも、そこそこ魔力の多い魔法使いってけっこう希少なのでは・・・昔は多かったのだろうか。
「だから、今迄は30人が1週間でチャージする魔力量が、この魔法石の容量だと考えられていたの。普通にアーティファクトでなければ、そんなことしたら、木っ端みじんなんだけど。」
そういえば、普通の魔法石でも銀色になる前に、過充電・・・チャージしすぎると壊れるって言ってたな。僕と他の魔法使いのチャージ能力に何か違いがあるんだろうか。それともこなにあいだ考えていた、チャージに要する時間なのかな。疑問は多々あれ、ここで考え込んでも理由はわからないよな。なにせ魔法だし。
「あの、サシャさん、先日僕がチャージした魔法石は、ほとんど空だったのですか?」
「そうよ、私も魔力チャージの担当グループに入っていて、結界魔道具の管理も担当しているひとりでもあるので、交換のときにはほとんどの場合、私が持ち帰って最初にチャージするのよ。あなた方がいらしたのは、ちょうど交換から戻った後だったので、思い付きで頼んでみたの。」
貴重なアーティファクトの魔法石に思い付きでチャージさせるとか、サシャさん、どんだけ強心臓なんだよ。まあ、公爵だし、国王様と仲良しのようだから、もし壊れても問題にならない・・・?のだろうけど。
「サシャさん、いろいろ説明ありがとうございます。アーティファクトの魔法石の代替えの研究もおい手伝いさせていただきますが、思うところがあって、僕はまず、結界魔道具、コントローラーでしたか。まずそれを拝見したいのですが良いですか?」
「あら、もう何か考えてるのね。いいわよ、早速行ってみましょう。」
結界魔道具にある場所は、転移初日にサシャさんからお聞きしていたのとは違って、サシャさんの家よりもだいぶ魔物の山側にあった。でも方向はほぼサシャさんの家から北側だったので、初見の僕に話したというのは、思ったより少し抜けているのだろうか・・・。・・・うん、この考えは読まれていないようだ。エレナは少し暇そうだけど、まだお腹に手は当ててないから、お腹は減って無さそう。
発掘された後に遺跡を包み込むように建てられたという建物は、荘厳な石造りのものだ。かといって巨大建築物でもない。大きさは僕が通っていた小学校の体育館の半分くらいかな。案内されるままに付いて行くと、扉があり、その奥が結界魔道具のある部屋だそうで、サシャさんが手のひらを扉の中央に押し当てると扉が開いた。あれは魔力を送ったんだろう。
入った部屋は、少し薄暗いけれど、周りが見えないわけではないくらいの明かりが灯されていて、正面に結界魔道具、右手にふたつの魔法石が置かれた台があった。この魔法石が、交換用のストックのようだ。
「これが結界コントロールの魔道具。ちょうど正面の凹みに、魔力チャージの魔法石をセットのが分かるでしょう。」
結界魔道具のサシャさんの説明を聞きながら、許可を得たうえで、魔道具の周囲を周って全体像を確かめる。でも見ただけじゃわからないし、触るだけでもわからない気がする。こういうときは魔力を流してみると何かわかるかも知れないけれど、そういう実験さえしたことがないから、壊してしまうかもしれない・・・。ん?逆に魔力の流れを感じることができないだろうか。
僕はいつもの数倍集中するつもりで、魔力を感じれるように気合を入れた。僕の場合、だいたい気合の入れ加減で、魔法とか魔力チャージとかの威力や出力が変わるから、これでいいはず。
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