第69話 魔力の流れを感知してみる。

 あ、なんかわからないけど、わかった気がする。これが魔力感知というやつか。右側にある交換用の魔法石が最も強い魔力を感じる。前の魔道具はそれより少し小さ目で、背後に感じるのは、強い方がサシャさんで、それよりほんの少し弱い方がエレナかな。


 振り返って見ると、感じた通りにふたりが立っていたので、魔力感知は問題ないだろう。考えてみれば、探索魔法が使えるわけだから、その対象を魔力にしてる感じかな。でもあまり弱いとわからないかもしれない。後は自分の魔力もわからないな。空中にも魔素があるはずだけど、それもわからない。このあたりは、今後場数を踏んで慣れるか、訓練が必要かもしれない。


 周りはまあいいとして、魔道具に集中すると、魔力の流れというか、魔道具から地下に向かって魔力が流れている。空間の魔力というか魔素が感知できないということは、地下に何か繋がっているということか。この魔道具は魔力補給と結界コントロールだけのもので、結界自体は別の物があるのかな。それこそそっちが結界の魔道具かもしれない。ここは聞いてみよう。


「サシャさん、この魔道具ですが、地下と何かで繋がっていますか?魔法石から供給されている魔力が、地下の方に流れているようなんですが。」


「さすがね、アタールさん。その流れは過去の研究文献にもありました。私もその流れを感じることができるわ。でもね、アタールさんもそうだと思うけど、その先の流れがわからないでしょう?さすがに下を掘って万が一壊すわけにもいかないので、研究においても推測だけど、結界のための魔力の補給線だと思うの。」


 うむ、どちらにしても・・・あれ?それって線だから物理接続と認識出来れば、僕は一体の魔道具として認識出来るんじゃないの?触ってみようかな・・・。そして、一体としたなら、リペアで新品状態にできるのでは・・・。でもリペアをサシャさんの前で使うのはどうだろうか・・・。ここはサシャさんに話すかエレナと相談するか・・・。でもな、リペアが成功するという保証は無いから、同時期に作られた魔道具でもあれば、それでテストできるんだけど・・・。あ、魔法石・・・アーティファクトの魔力チャージの魔法石はとりあえず5つはあるから、万が一失敗しても・・・。いや、そうなると先に国王様とかにも相談・・・、でもそうすると、リペアについて、あれこれ聞かれて・・・


「あの、アタールさん?」


 おぉサシャさんか、びっくりしたよ。『聞いてませんでした。』って答えるところだった・・・。


「あ、ちょっと考え事をしていまして。少し扉の外で、エレナと相談したいのですが、いいですか?決して変な相談じゃないですから。」


「気にしないで、信頼してるって言ったでしょう。」


「ありがとうございます。エレナ、ちょっと相談したいことがあるから、来てください。」


 エレナを伴って、扉を出て相談を始める。あ、この扉どうやって開けるか聞いてなかった・・・。まあ、ノックすればいいか。


「エレナ、なんか上手くいけば今回の問題は、すぐ解決できそうなんです。でも・・・ね。僕の<リペア>の魔法をサシャさんに知られると不味いかなと思って。あと、あまりにこの問題が早く片付くと・・・それも悪目立ちしないだろうかと考えてい・・・」


「アタールさん。相談してくれるのは嬉しいです。でも、サシャさんも国王様も辺境伯様も、お互いに信用するって言ってましたよね。何年後かはわかりませんけど、多くの方々の命もかかっているかもしれないんですよね。何故こんなことで、いちいち悩んだりするんですか。私を助けてくれた時はにそんなこと考えてなかったですよね。」


 うっ、エレナがけっこう怒っている。そういえば、僕と一緒に居れば、自分と同じような境遇に人を助けることができるかもしれないとか言ってたか。国王様、サシャさん、アート様も、気軽に接して軽口もたたいてくれてたけど、この案件って、本当に国家の存亡がかかっているんだよな。


「ありがとう、エレナ。この件でうじうじ考えるにはやめたよ。」


 だけどゴメン。あくまで、この件だけだね。今後の展開ではまた悩むと思うよ。話を終えた僕とエレナは扉をサシャさんに開けてもらって、中に戻った。


「サシャさん、ひとつ試させてほしいことがあります。僕の魔法で、<リペア>というのがあります。これは、物をほぼ新品の状態に修復する魔法で、たとえば・・・・」


 僕はサシャさん、が着ている服に、<リペア>をかける。


「今着ていらっしゃる服を確認していただけますか?」


 サシャさんは、ペタペタと服を触って確認し、どういう魔法か納得してくれたようだ。というか、唖然としながらも『わ、わかったわ。』と言っただけなんだけども。


「この魔法で、ます保管している魔力チャージの魔法石を修復させてほしいのです。もしうまくいけば、これで魔法石の劣化問題は解決するはずです。」


 言葉にならないのかコクコクと頷いておそらくは肯定の返事をしてくれたので、保管用の台に乗っていた魔法石のひとつに手をかざして<リペア>をかけた。うん、よかった壊れはしなかった。劣化具合についてはよくわからないけど、なんだか少し濁った感じがなくなった気もするので、サシャさんに確かめてもらう。


「どうでしょう?修復されているのかどうか、僕には判断できないのですけど、いかがでしょうか?」


 サシャさんは保管用の台に近づき<ライト>の呪文を唱えて、魔法石を透かしたり、撫でたりして確かめている。時々こっちを振り返って、睨むのは止めてください・・・。何か失敗しましたかね。


「おそらく・・・これは修復されているわね。」


 成功らしい。あくまでサシャさんだけの判断だけど、問題なさそうだ。


「わかりました。あともうひとつ。これが本題になります。とても重要なことなのですが、魔道具、結界の魔道具の方なのですが、あちらもおそらくですが、補修できます。」


 サシャさんだけで判断できるかわからないが、とりあえずは言うだけ言ってみよう。


「そしてこれは予想なのですが、魔道具から地下に続いている魔力の流れは、物理的な接続を示していると考えられます。あくまで僕の予想なのですが・・・そこの魔道具はコントローラーとして結界魔道具への魔力の供給と、使い方が分かればですが、結界の強度や透過させる対象などを変化させるための物だと思います。そして、地下に伸びている魔力の流れが、実際の結界魔道具に接続されていると考えられます。」


 サシャさんは唖然としてはいるが、聞き入ってくれてはいる。でもなぜエレナも唖然としている・・・さっき簡単に説明しただろうに・・・。


「えっと、僕の<リペア>は、その対象物が一体であると認識すれば、その全体を修復させることができます。なので、そこにある結界コントロールの魔道具とともに、接続する魔力を流す供給線とその先にある結界魔道具も同時に修復可能です。どうでしょうか、僕に<リペア>をかけさせていただけませんか?」


『ちょっとすぐには判断が・・・。』というサシャさんに説明を追加する。


「僕が先にアーティファクトである魔力チャージの魔法石を修復させていただいたのは、同時代のアーティファクトに対して、僕の<リペア>が問題なく使えるか試すためでした。そしてその実験は成功したと思います。」


 しばらくの間、無言の時間が続く。サシャさんは腕を組んで考え込んでいる。エレナは・・・だいぶ飽きてきた感じだ。自分の考えが及ばない範疇になるとそうなるのは僕もわかるよ。エレナさん。


「ちょっと待ってて・・・。」


 そう言って、サシャさんは部屋を出ていった。いや、こんな所で待つの嫌なんだけど・・・。と、愚痴ってもしょうがないので、インベントリから椅子と小さなテーブルを出して、エレナとティータイムを始めることにする。


 5分ほど経ってから、サシャさんが戻ってきて、


「お願い、やってみて、修復してみてちょうだい。」


 と、作業継続の判断が下された。決断理由を聞いてみると、国王様に電話をかけて、大雑把に説明した上で、了承を得たということだ。さすがサシャさん、もう電話使いこなしてる。


 結界魔道具はさすがに、国家全体に絡む事象だから公爵といえども国王様の判断を仰いで・・・最終責任を国王様に持って行ということかな・・・。ちょっと穿った考え方過ぎるか。ちなみにサシャさんはもう、椅子に座ってエレナと先ほど出したお茶を飲んでいる。椅子三つ出しておいて良かった。


「はい、それでは早速。」


 僕は魔道具の前に立ち、先ほどのように魔道具と魔力その流れ、そして見えないがその先をイメージして先ほどの魔力感知っぽいときよりさらに気合を入れて唱える。


「<リペア>。」


 呪文要らないんだけど、そこはまあ気分で。先ほどの魔法石とは違い、こちらは外見がいかにも古代遺物という感じだったので<リペア>の効果は目に見えてわかった。奇麗になってるから。地下に向いている魔力の流れも、幾分強くなったように感じる。


 後はもう流れで、残りもうひとつの保管していた魔法石と魔道具にセットされている魔法石に<リペア>をかけた上で、さらに銀色になるまで魔力チャージを行った。これで結界守の村のみんなはしばらく・・・もしかしたら数百年は魔力チャージの仕事から解放されるだろう。


「サシャさん、終わりました、おそらく成功です。確認してみてください。」


 声をかけて振り返ると、そこにはポカンと開けた口からせっかく口に含んだ紅茶を・・・いや、言わずに置こう。一応女性だし。こうして、ファガ王国の問題は、朝飯前ではないが、昼飯前には解決した・・・のかな?一応経過は見ないと分からないので、研究のお手伝いとして、足を運ぶことになるかな。研究室にある残りふたつの魔力チャージの魔法石にも<リペア>して、まだ薄青色のほうには魔力チャージしないとね。

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