第67話 黒い板の配布。
「コンコン」
ドアのノックで目が覚めて起き上がる。さすがに昨日エレナは早く寝たのに僕は通信関連の設定で夜更かししたから、朝がつらい。眠い目をこすりながら扉を開けて、『おはよう』と挨拶しあう。いつものエレナのスエットの上だけの姿にどぎまぎしながらも、顔を洗って歯を磨いて、朝食の準備を始める。ちなみに、歯ブラシセットは日本製。ことエレナに関しては、開き直りも通り越して、日本製品の使用ももう自然になっている。
「エレナ今日は朝食何にします?」
「昨日の朝食べた甘いパンケーキが良いです。」
ん?何モジモジしてるんだ・・・と思ったら『アタールさんがエレナって言った・・・』とか言ってるけど、そう言えって強要したのはエレナだから。昨日と全く同じメニューに念のためクッキータイプの完全栄養食品も追加しておいた。あのガリガリエレナと出会ってまだ5日目だと思うのだけど、だいぶお肉も付いてきた感じだ。個人的に肝心なところはそうでもないけど。
とにかく今日は結界守の村へ赴いて、昨日お願いされた魔力チャージの魔法石についての実地検分を行う予定だ。・・・実際には魔法石が劣化問題についての研究のお手伝い。しかし国を挙げての国家プロジェクトに、どこの馬の骨ともわからない僕やエレナを信用して手伝わせてくれるとか、すごい決断力だ。これは国王様のというより、まだ正確に内容は知らないけれど、最初に手紙を書いたサシャさんのものだろうな。
そろそろ出かけようと考えて思い出した。夜間労働の成果、IP電話機。急ぎ書斎に戻って、インベントリで収納しておく。もちろんひとつはエレナ用に手に持っている。
「エレナ、これ、エレナに使ってもらう通信機なんですけど、ちょっと試してもらえないかな。」
ブラックボックスと対になった内線番号02の電話機を渡す。エレナはスマホを見慣れているので、電話に違和感はないようだ。
「どうすればいいんです?」
そうか、番号はファガ王国というかこの異世界で使われているものと違うのか。さすがに常時<リーディング>は、僕の書斎とかでオーバーテクノロジーに触れて、変な知識を付けてもらっても困るので、ここは、実際に使って見せながら教えるしかないな。
「まずここにあるボタン、3つずつ3列に並んでいるところの、このボタン。そのボタンを押した後に、左上のこのボタン、そう、それ押してみて。」
内線01でも、押す番号は1だけでも問題ない。あ、そういえば僕のスマホはサイレントにしたままだった。でも着信のLEDが光っているから、電話に出る。
「もしもし~、エレナ~。」
「あ、なんかこの黒い板からもアタールさんの声が聞こえます。」
顔の前で電話機を見ながら・・・あ、そうか、耳の位置・・・。
「エレナ、ちょっと僕に持たせてくれます?」
「はい。」
渡してもらった電話機を代わりに僕が持ち、普通のポジションに持って行く。
「もしもし~。黒い板から聞こえますかー。」
「あ~、聞こえます~聞こえます~。」
何で語尾が伸びてしまうのだろう・・・。まあそれは置いといて、こちらのスマホにもちゃんとエレナの声は届いている。問題ないね。でも電話じゃなくて、黒い板が定着しそうな気がする。
「この黒い板はね。遠くに離れていても話ができる道具なんです。僕の部屋とエレナの部屋でも話ができるし、王都とこの家でも大丈夫。」
「お部屋から?」
「はい。」
電話のかけ方や、切り方などを教えたり、着信音に驚いたりと、おおむね使い方もマスターした後、『この地球数字というのは、こっちのわたしの箱に書いてる02と同じ種類の文字ならば、相手のものも、たとえば横にアタールって書いて1って書いておけば、同じ字のポタン押せばいいですから数字読めなくても大丈夫ですね。』と、普段スマホに番号を登録している僕ではなかなか気づかないエレナのアナログ発想を出していただいた。おかげで今後の電話機配布のときの説明が一気に楽になる。
01アタール
02エレナ
03王
04サシャ
05アート
と、すべてのブラックボックスに異世界文字で記入してもらった。自分の名前ろ番号の行にはそれぞれ丸印も付けたので、配るときに簡単になる。これで準備も整ったので、アート様、国王様、サシャさんの順に配っていくことにする。子機にはそれぞれネックストラップが付属していたので、子機を首にぶら下げてもらう。ブラックボックスは、ポケットかな。僕は鞄の中だけど。
「それじゃ着替えたら早速行くから、準備してきてください。」
それぞれの部屋に戻り準備を終えたので、エレナの首にネックストラップをかけてあげて、子機は胸のポケットに、ブラックボックスは腰のポケットに入れてもい、光学迷彩風障壁を二人に張った後、アート様のお城の門付近に転移して、死角になるところで、障壁を解き、そのまま門番さんに取次をお願いした。
数分でアンドレイさんがやってきて、すぐに執務室まで案内してくれたので、待ち時間もなくアート様への面会となり、早速通信の魔道具ということで、電話子機セットを渡し、説明をする。オッサンのくせになかなか理解もも覚えも良くて、10分ほどで使いこなせるようになったので、次は王都に行くことを告げ、城を後にした。もちろん門の外で死角を見つけて、そこから転移。
王都では透明化を解除する場所探しで少し歩き回ったが、城門から徒歩5分ほどのところでそうにか場所が見つかり、けっこう期間を食てしまった。城門では例のメダルを提示して、すぐに国王様に取次をお願いする。ここでもスムーズに面会でき、また人払いをしていただいた後、通信の魔道具の説明を行う。国王様の場合は、物覚えとかそういうのではなく、好奇心があり過ぎて、色々な質問が飛んできたために、30分以上説明が終わるまでかかってしまった。その後も『国に配備してほしい。』という要請も『なら、結界守の村に連れていけ』という我儘も丁寧にお断りしたのですこし拗ねていた。ちなみに、アート様にも国王様にも、電話機の説明時はやはり黒い板だった。
なんだかんだで、サシャさんの家の前に転移できたのは、王都についてから1時間ほど経ってからだった。
「コンコン」
サシャさんの家のドアノッカーを鳴らすと、待ち構えていたように、サシャさんが扉を開けて家に招き入れてくれた。
「いらっしゃ、早速で悪かったわね。」
通された居間で、早速サシャさんにも、通信の魔道具の説明。アート様と同じく、10分ほどで使い方を覚えたので、アート様と国王様にそれぞれ電話をかけたり、折り返して電話を貰ったりと、いろいろなテストで時間を食っていた。お年寄りって、長電話なんだよな。あ・・・思っただけなのに、またサシャさんの目線が・・・。
ここまではまあ、事務連絡のようなものだ。お願いされた事項はこれから。今から研究されている方々と顔合わせし、魔法石の状態も確認させていただく。そういえば昨日僕が魔力チャージした魔法石はどうなったのだろう?
「サシャさん、昨日僕が魔力をチャージした魔法石、どうしたんですか?」
「あれはあれから村長が研究室のある建物に持って行ったって聞いたわ。今から行くからちょうどいいわね。」
そう言って、使用人さんに、家を空けることを言づけてから、すぐに研究室に僕たちを案内してくれた。研究室は村長の家の近くの、まあいわば村役場のような建物の1階にある。結構な広さの部屋で、数人の研究員らしい方々が、作業中だった。
「皆さん、ちょっと作業を止めて話を聞いてちょうだいね。」
サシャさんが声をかけると、皆さん作業を止めて集まってきた。人数は思ったほど多くなくて、男性2人、女性4人の計6人。皆さん見た目の年齢で言うと、ダフネさんやマーシャさんと同じくらいかな。
「皆さん、本日は昨日の魔法石に魔力チャージしてくれた、アタールさんがいらしてくれました。私たちの研究に力を貸していただけることになりましたので、ご紹介します。」
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