第59話 結界守の村再び。
転移は一瞬。目の前にはほぼひと月ぶりとなる、サシャさんの家が見える。周りには誰もいないようなので、光学迷彩風障壁を解除。ドアロックの解除音で、みんなビクッってしていたけどもちろんスルー。あ、もし車の重量で道が凹んでしまったら、後で補修しないといけないな。
僕は先に降り、エレナ、アート様の順にドアを外側から開けておろした後、車をインベントリで収納しておく。どうせ直ぐに王都に出発するのだろうけども、エレナはキラキラ目で周りを見回し、アート様は愕然として周りを見回している。そりゃ、エレナは距離を知らないからな。道の凹みは問題ないようなので、早速久しぶりのドアノッカーで、呼び出してみる。
「コンコン」
すぐにサシャさんが扉から顔をのぞかせた。
「あらあら、やっぱりアタールさんですね。」
やっぱりって何だ。そして気安い。前はもっと敬語に近い丁寧語で話されていたのに。まあ、今はそこは置いておく。
「お久しぶりです。あおのときはありがとうございました。王都の方向には結局向かいませんでしたが、おかげで無事にサルハの街に到達することができました。今日はアート様と僕の友人のセレナを連れてきました。詳しくはアート様からお聞きください。」
そう言って、まだ愕然と固まっていたアート様の背に回り、サシャさんの前に押し出した。サシャさんは『あら、アート君。』とか、オッサンを君付けで呼んでる。エレナも丁寧に挨拶している。ここでも亜人に対する忌避感は無さそうで安心した。そのまま家に招かれ、リビングのテーブルを囲んで一同が席に着く。あ、あの使用人さんがお茶を運んできてくれた。
「アート君、それで今日は何えらく動揺しているようだけど?」
「叔母様、アート君は無いでしょう。これでも辺境伯ですよ。」
叔母のところで、サシャさんの眼光がアート様を突き刺していた。あれは言ってはいけないワードのようだ。以前お婆さんって思っていた僕は口に出さなかったおかげで生き延びれたようだ。
「サシャでしょ、そう呼びなさい。」
辺境伯様に命令している。どういう関係なのか気になるけど、今日はそういう話をしに来たのではない。僕から話すかな。サシャさんに人払いをお願いして、使用人さんをお使いで家から出した後に切り出した。
「サシャさん、本日は僕の魔法とあと魔物についてご相談に参りました。」
サシャさんが、『やっぱりね。』みたいな顔してる。サシャさんが書かれた手紙の内容にも関わるんだろうな。
「まず、今日僕たちは僕の移転魔法でやってきました。ほんの先ほどまでは、アート様の城に居りました。」
サシャさんまでもが、あんぐりと口を開いている。移転魔法はかなりのチートなのだろう。僕もそう思う。時間がもったいないので、そのまま続ける。
「アート様、領地の地図と魔力をチャージした魔石をお願いします。」
一番上座に座っているアート様に声をかて、執務室で見ていた地図と、僕が充填魔力チャージした魔石を取り出してもらう。僕は地図を前に、再度執務室でした説明を行い、魔石についても、同じ質問を投げかけた。まだ、3500体の魔物の話はしていない。
「そうね、銀色まで魔力をチャージした魔法石は、めったに見ることはないわね。普通は魔力が尽きてしまうし、もしなんとかチャージしたとしても、魔法石は壊れてしまうでしょうね。それくらい扱いは難しいの。」
僕の場合は、魔法石でなくて、魔石なんですけど。
「以前少しからかってごめんね、アタールさん。この魔力チャージの後、その・・・移転の魔法を使ってここまで来たの?その、かなり・・・疲れてはいないの?」
「はい。魔力チャージについてですけど、この魔石より二回りほど大きな魔石3つ、同じように銀色になるまで魔力をチャージした後でも、転移は出来ます。」
あ、サシャさんが固まった・・・。と思ったら再起動しておもむろに立ち上がって部屋を出ていった。残された皆はきょとんとするばかり。ドタバタとらしくない慌てようで部屋に帰ってきたサシャさんの手には、大きめの直径10cmほどの魔石があった。魔法石かな。
「アタールさん、この魔法石に、魔力を、チャージしてみてくださる?」
丁寧な話し方だけど、息が切れています。サシャさん大丈夫?もちろん僕は快諾して、魔法石を預かり、目の前のテーブルの上に置いて手を当て、魔力をチャージする。魔法石にチャージするのは初めてなので、少し慎重にゆっくりと行ったが、15秒ほどで魔法石が銀色に輝いた。
「・・・・・・」
サシャさんが再び固まっていたけど、もうこういうのにも慣れてきたので、とりあえず復帰を待ち、質問を投げる。
「サシャさん、どうでしょうか?これどれ位持つでしょうかね。」
「アタールさん、あなた少し、いえ、だいぶおかしいわよ。この魔法石はね、結界守の村の要ともいえる、結界維持のための魔力チャージの魔法石なのよ・・・いえ、確かに初めてお会いしたときに期待して・・・でも・・・こんな・・・。これは叔父様に・・・。」
サシャさんが叔父様って言うんだから、大叔父だろう。ようするに国王様だよね。予定には入っているけど、結局そうなるんだ。アート様の方を見ると、アート様も僕の方を見て頷いた。
「サシャさん、今から王都に行きませんか?もし何かを説明したりお聞きするにしても、同じ話を何度もするのは時間が勿体ないですし、私たちはもともとサシャさんを連れて王都に行くつもりでしたから。」
唖然としたままのサシャさんであったが、そのままコクコクと頷いたので、使用人さんの帰宅を待ち、出発の準備を始める。一応、サシャさんでも国王様にお会いする場合は、礼服というか貴族のような装いになっていて、いかにも貴族のお婆さ・・・女性という感じだ。
使用人さんに、夜までにはおそらく帰るが、まだどうなるかわからないので、数日留守にするかもしれないから、と告げ、次に村長に家に向かい、先ほどの銀色の魔法石を渡して、『ちょっと村を出るけど、これ私の代わりね。』と、訳の分からないことを言っている。まあそれも気にせず、徒歩で僕、エレナ、アート様、サシャさんの4人は、村を出た。
5分ほど歩いた場所で、車を出し、みんなを乗せて再び光学迷彩風障壁を張ったが、
「アタールさん、もう今は何も言わないけど、詠唱や呪文は?」
と、サシャさんに突っ込まれた。それも国王様とお会いするときに、ということで誤魔化したが、助手席ではエレナさんがいつもの2倍増しのジト目で僕を睨んでいた。その後の飛行魔法の説明も、「後でまとめて。」「僕の魔法です。」で乗り切り、一応今更だが、<フライ>を唱えた。
「もっと早く着くことはできますが、およそ1時間ほどで王都付近に到着する感じで飛びます。それとこれ、飲み物なので、飲んでください。開け方はこう。そしてこの席の横の穴に置いておけます。なにか食べたければ、えっと、あ、クッキーがありますので、これを食べてください。」
もう開き直っているので、複製したペットボトルのミルクティやクッキーなどをインベントリから取り出し、皆さんにお配りした。ドリンクホルダーの使い方や、席のリクライニングのやり方なども懇切丁寧にお教えしました。もうエレナさんジト目止めてください。
目視飛行なので、配り終えると同時に、王都のおおよその方向を聞き高度を上げて高速飛行にする。時速はおよそ500kmだけど、速度を測るすべは今は無いから実際の速度は不明。みんな、空からの景色に夢中のようだ。エレナは・・・すぐにサシャさんと打ち解け、後ろを向いて景色について話している。僕だけ王都方面を向いて、会話に参加しているんだよね。
車のなかで、サシャさんやはり意識すれば魔力を感知できるようで、僕がトイレや書斎、そしてお金を見せていただいたときに、ものすごい魔力を感じたと言っていた。ちなみに、サシャさんは普段来客があれば使用人さんを玄関に向かわせるのだけれど、最初のときそして今日は、意識しないのに魔力を感じたので、自ら扉を開けに来たそうだ。その話もまたあとで、となった。
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