第60話 王都到着。

 王都の街壁からかなり手前の街道脇で地上に降りることになった。ちなみにちょっと気合が入ってしまったのか、結界守の村を出てまだ30分ほどしか経っていない。想定の半分の時間で到着してしまうため、もう少し乗りたいとアート様がごねたのだ。話しているうちに、この車がもともと地上を走るための道具であることがバレてしまい、結果として30分のドライブを強要されることになった。


「道行く方々に、見られてしまいますから、不味いのではないですか?」


 という僕の正当な意見に対しても、


「当たり前に走れるようにしておかないと、いつまでたっても隠れていなければならないではないか。」


 という、まあ、正論といえば正論を振りかざし、勘のいいサシャさんに至っては、


「村に来る商人の多くが、街道で高速で走り去る“何か”を見たと大騒ぎしていましたよ。」


 ホホホ、と笑うのだ。おかげで僕はまたエレナからジト目で責められる。エレナは笑顔が可愛いんだからね。それにあれは車ではなくバイクです。とにかく車に乗ったままで、領都しかも街門に乗りつけるとまで言うのだ。どんだけ我儘なんだアート様。


「我に任せよ。行けばわかる。」


 というので、地上に降り、光学迷彩風障壁を解除し、のんびり走る。舗装されていない道なので、僕一人ならばいいけど、女性やお年寄りたちを乗せては、無茶はできないからね。なんだか“お年寄り”って考えただけなのに、後部座席から視線が突き刺さるのは何故だろう。気のせい?


 のんびりとはいっても、馬車よりは当然早い。普通に走っている馬よりも早い。となれば自然と注目を浴びる。エレナは耳をシュンとしているのだが、アート様だけはノリノリで窓を開けて手を振ったりしている。領都を出る前は、あんなに緊迫して悩んでいたし、結界守の村でも緊迫感あったよね。なぜこうなった?


 約15km。結局その距離を走り、街壁に到着する。門はもちろん貴族用だ。


「アタール君、例のメダル出して。我のじゃない方。」


 国王様からもらった方ね・・・。すぐに革鞄経由のインベントリから取り出し、用意して、門番に提示すると、膝をついて挨拶されたんですが・・・。


「アート様?」


 アート様の方を振り返って見ても、ニヤニヤ笑っている。あ、窓を開けた。


「我はアート・フォン・ジニム辺境伯である。陛下に先ぶれを出したい。同行者は、サシャ・フォン・レンティエ公爵様とアタール・タカムーラそれと、」


 ちらっと、アート様がこちらを見てめっちゃいい顔でニカッと笑った後


「エレナ・タカムーラだ。」


 と告げる。えええええ、誰ですかそれ、まず、サシャさんは公爵様?この国は女性でも公爵継げるの?それで、エレナ・タカムーラって、誰だよ!エレナさんそこは顔真っ赤にせずに、アート様にジト目するところだから。衛兵も『畏まりました。』じゃないよ。あ、それは合ってるのか。ものすごいスピードで走り去っていくのが、先ぶれの乗った馬だろうな。


「アタール君、それじゃこのまま行くぞ。」


 アートのオッサン『行くぞ』とか、いろいろ何言ってんの?城の場所とかわかんないし。後で髪の毛がなくなる魔法作ってかけてやる。というか、門番さんや衛兵さん達、公爵様や辺境伯様にはいいけど、僕に最敬礼とかいらないからね。メダル受け取ったとき、出せばわかるってこれか。何が『我にまかせろ』だ。僕が任されてるでしょ。


「ここを真っすぐ、あ、そこ右。」


 アート様、僕はタクシー運転手ではないよ。せっかくの王都なのに、景色を見る余裕もない。綺麗なお姉さんたちも沢山居るはずなのに。・・・僕はだいぶ落ち着いてきたようだ。


 言われるがまま運転手をすると、ちゃんと城門に着いた。城門もそのまま車で通れるようだ。衛兵?騎士?わかんないけどめっちゃ並んでる。左膝をたてて片膝付けてるって・・・もういいや、開き直ろう。


 結局お城の玄関口まで行き、そこで僕たちは車を降りた。サシャさんの指示で、車はインベントリに収納する。見せてもいいのかな・・・。


 玄関からはもちろん徒歩。執事、侍従か知らないけれど、一応案内役が付いてているけど、アート様が勝手に先導してしまうのでサシャさんが苦笑いしている。やはり国王様と会うのだから、謁見の間なのだろうか。でも、公爵様と辺境伯様がいるし、皆さん親せきのようだから、また別の場所なのだろうか。


「控室になります。こちらでお待ちください。」


 案内役の方が、部屋に誘導するのも待たずにアート様その部屋に入っていくので、僕たちも後に続いた。結局一応謁見の間で顔を合わせるそうなんだけど、正式なものでないので、頭を下げたり、片膝をつく必要はないと説明を受けた。けっこう自由なんだな。特に僕は、もともと外国人ということで、膝はついても頭を下げる必要はないそうだ。だから、アート様と謁見室で謁見するとき、アンドレイさんは、頭を下げないように言ったのか。こういうのは言ってくれないと分からないことだからな。


 すぐに謁見の間に続くドアがノックされ、先ほどと違う案内役が謁見の間のおそらく王座であろう場所から、数メートル下がった場所に案内してくれた。イメージでは周りに宰相とか大臣とか、他の貴族とかがいるイメージだったけど、見る限り、数人の近衛兵と思われる方々と使用人さんたちだけのようだ。


「国王陛下のお・・・」


「今日はよい、下がっておれ。」


 あ、国王様のようだ。『国王陛下のおなり~』って、言おうとしたの止めた。あと2文字分だったのに。しかも王座に座らずにこっちに来る、なんてアグレッシブなお爺ちゃんなんだ。


「おい、アート、サシャ、今日は何だ?何だか変な魔道具に乗ってきたらしいな。」


 謁見の間感が台無し・・・。あ、サシャさんが国王様に耳打ちしてる。国王様めっちゃこっち見てる・・・。


「うぬ、わかった・・・。おい、会議室に移る、すぐ用意しろ。あと会議室に魔石持ってこい。加工前のものだ。用意出来たら、会議室は人払いしろ。いいというまで近づくな。わかったか、じゃぁ、行くぞ。」


 近衛兵とか謁見の間に居た方々が走り回っている。アート様はアンドレイさんにだけこういう態度してたけど、国王様ともなると、近くに居る人すべて動くんだ・・・。エレナと顔を見合してお互い苦笑いするが、国王様を先頭に、移動を始めた。


 会議室は30人くらいが会議できる大会議室だ。そこの上座の方に全員集まる。魔石はすでに20個くらい大小様々なの者が平たい箱に入れられて置いてあった。上座というか、いかにも王様の座る感じの椅子に王様が、その左にサシャさん、右にアート様。僕はサシャさんの隣、その隣にエレナが座った。分相応というか、普段は大臣とか貴族が座ってるんだろう、豪華な椅子だ。


「ようこそアタール君、エレナ君、余はオーグ・フォン・ファガという。よろしくな。」


 早速国王様の自己紹介から、始まった。あれ?めっちゃ優しそう・・・さっきのイメージと違う。


「アート、先ほど簡単にサシャから話は聞いたが、お前から説明しろ。最初からな。アタール君は話の中で不足しているところを補ってくれればいいからな。」


 あ、アート様には厳しいんだ。


「それではまず、領の地図からご覧いただきます。こちらになります。この地図で魔物の山から南、結界守の村、領都ジャジルなど、おおよそ分かっていただけるかと。そして今日、朝の10時頃に城を出て、ここ、ここ、そして、王都の地図は無いですが、こう移動してきました。最初が転移魔法、そして次が飛行魔法、最後はアーティファクトです。」


 車の中で話したアーティファクト設定はきちんと守ってくれるんだ。まあ、サシャさんに贈った時計の例があるから、魔道具でなくても、問題なさそうだし。しかしここからの話、今日はだいぶ長くなりそうだ。

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