第47話 神界ではないです。

 この異世界には、目の粗い手ぬぐいのようなものしかないらしい。柔らかさはその粗さが粗ければ柔らかくいけど、長持ちしない。目が細かいと長持ちはするけど肌触りが悪いという。それで、僕のタオルについて、再び問い詰められることになった。が、この辺りは問い詰めるというより、仲良くなるうえでの通過儀礼なのだと思う。


 話している中での言葉遣いや話す知識を鑑みるに、おそらくイワン達より年上なのだろう。あとは、この後どうするかだよなぁ。彼女は天涯孤独だし、一緒についてくるなら付いてきてもいいけど、誰かと一緒に行動するのは面倒くさいし・・・というより、僕が慣れてない。まあ、ダフネさん一家のときのように、ちょっとの間だけ道連れというのはあるかな。


「あの、この家のなか、見てもいいですか?」


 お茶のあと、すくっと立ち上がったと思うと、エレナさんの言葉のあとログハウス見学会が始まった。モデルハウスとしては本望であろう・・・。あ、モデルハウスってトイレ使っちゃダメらしいから、注意しておこう。すべて日本の家具や家電だから、再びの質問攻め。しかし、モデルハウスの設備とかそもそも知らないものの方が多いんだよね。なので魔法でいろいろ作ったと言っておく。どれだけオールマイティーなんだよ。僕の魔法。エレナさんのジト目は可愛いからいいけど。ちなみにこのログハウスはでかい。2階建てプラス屋根裏がある。


 2階に上がって部屋を案内していると、バルコニーに出て外を眺めたエレナさんは愕然として固まっていた。だよね。だってあの断崖絶壁のすぐ傍だもんね。でも馬車も持ってない僕が人を連れてそんなに行けるわけはないよね。本当は行けるけど。


「わたしもう、帰るところ無いんです。」


 固まっていると思ったら、物思いに耽っていたようだ。


「アタールさん、本当は冒険者でも商人でも治療師でもないのでしょ?そんな恰好をしているけど、神様?お父さんやお母さんやお兄ちゃんや弟に会わせてください。」


 うわぁ、その設定ここで来るか・・・。しかも他人に言われるとかないわ。何もなかったところに家がある現実、見たこともない家電や家具や調度品、そして印刷されたパンフレットやあちこちにある日本語の説明書き。そりゃ疑惑は深まるか・・・。結局2階の部屋のテーブルを挟んでの説明が始まる。目の前であらゆる魔法を駆使したら、さらに疑惑が深まってしまったので、意を決して再びジャーパン皇国の話と巻き込まれ転移の話をしどろもどろで説明した。冒険者をしながら、ジャーパン皇国に帰る方法を探していることなどを含めて何とか納得していただいたけれども、


「わたしも、ジャーパン皇国に連れて行ってください。」


 とのご発言。いや、そもそもジャーパン皇国は想像上の国だから無理だし・・・一緒に居るといろいろボロが出て、秘密が・・・。


「う~ん、ジャーパン皇国までいっしょに行けるか分からないですけど、僕が住んでいるサルハの街までなら一緒に行けると思いますよ。それまで、いろいろ考えればいいし。」


「はい、よろしくお願いします。それで、サルハの街って何処にあるんですか?」


 はっ、僕これからジャジルに行く予定だったよねだから依頼が終わるまではサルハの街に行くのはまずい。しかもまだこの場所というかエレナさんが居た集落がどの国に属しているのか聞いてない・・・。うわぁ、いろいろやらかしてるかもしれない・・・・。


「エレナさん、先ほども言いましたが、僕はジャーパン皇国から転移させられて、まだ1か月も経っていないので、いろいろこの国について知らないのです。まずですね・・・ここは何処なんです?」


「ここは、ペルミル王国の北のはずれ・・・だと思います。ウラズの村ではない方に歩いてきましたから。私たちが住んでた集落が海沿いではペルミル王国の一番北ですから多分ですが。」


 昼前というか午前中にエレナさんが寝ている間に上空から眺めた限り、集落っぽいものも村っぽいものも見えなかったんだよね。あの体でどんだけ不眠不休で歩いてきたんだ、エレナさん。でも、ペルミル王国の国民であったことは、間違いないな。


「ものすごく言いにくいんですけど、僕はファガ王国って所の先ほど言ったサルハの街に普段住んでいます。」


 住んでないけどね。それから、無断越境のことが問題にならないか?とか、若干自己保身の内容も含めて聞いてみたけれど、彼女もよくわからないようだ。しかし、彼女の居た集落自体、棄民のようで国の管理下にはなかったというので、少し安心した。ジニム辺境伯領内ならば、例の結界守の村のご威光で何とかなりそうな気がする。


「それじゃ、ファガ王国側に行って、平民の登録をしましょう。一緒に移動したり街で生活するにはそれが一番いいですから。僕の都合で申し訳ないですけど。」


 エレナさんは、わたしが平民に?お金ないし、税金払えないし・・・と言って、アワアワしていたけれど、サルハの街のスラム地区の話をしてあげたら、なんとなく納得したようだ。しかしどうしよう、こんなところに人は来ないから建物はまあいいけど、移動手段・・・。もうここもぶっちゃけたほうがいいかな。僕の近々の事情もあるし。


「エレナさん・・・これから言うことは僕にとってとても重要なことです。もしその秘密が守れないならば、残念ですけど一緒に行くことができません。サルハの街のともだ・・いや知り合いにも話していない事です。ジャーパン皇国の家族にも。」


 一時は神様扱いまでした僕に対してだからか、エレナは真剣な目で頷いた。本当の本当に秘密で内緒ですらね、と何度も念を押し、その都度彼女はコクコクと大きく上下に頭を振ったので、


「じゃぁまずは、外に出ます。一緒に来てください。」


 エレナさんは素直に僕の後に続いてログハウスを出る。そしてログハウスをインベントリで収納する。エレナさんは今までで一番の驚愕した表情を浮かべている。再び、本当の本当に秘密で内緒ですらねと念を押す。それに伴い、コクコクの振り幅が大きくなっている。お口も大きく開いているし。女の子なんだからそれはちょっと・・・。


「やっぱり神様・・・」


 猫耳をピクピクと動かしながらのエレナさんの小さな呟きは聞かなかったことにする。確かにチート具合は半端ないのは分かっているけど、本番はここからなんだよなぁ。


「あの・・・ごめん・・・ちょっと・・・悪いけど・・・手を・・・・手をつないでくれますか?」


 ハードルの高い発言である。いろいろな魔法の秘密を明かすより、このセリフが一番緊張してる。おそらく怪しさ満開で上ずっていると思う。が、何の躊躇もなくエレナさんは僕の手をぎゅっと握ってくれた。本当は肩に手を添えても良かったんだけど、そこは彼女の自主性を優先すべきだよね。とても痩せ細った手だけど、ハイヒールのせいもあるのか、少しひんやりとして、女性らしい手だった。まあ、姉の手くらいしか知らないけども。


 一瞬で周りの景色が変わる。転移先は実験施設のトレーラーハウスの前。この強硬策の理由の一つは、トイレである。驚く彼女を置き去りに、トレーラーハウスに駆け込み、なんとか決壊は免れた。あとの時間はのんびりしながら、ジャジルに行くことなどの説明かなぁ、サルハの街のことも詳しく説明しないと。ジャジルの依頼が済むまでは、エレナさんはここに滞在してもらうかな。外に出るとエレナさんはまだ固まっていた。今回はコクコクとともに固まり率が高い。


「アタールさん。やっぱり神様?」


 いやいや、全然違う。どっちかというとそれは、最も直近の黒歴史だ。おそらく女性アイドルと同じように神様はトイレ行かないし。


「ここがどこかは分かりませんが・・・でも、今の魔法で、ジャーパン皇国に帰れますよね。」


「・・・・・・・・・」


 そ、そうかもしれない・・・。というか、日本にはしょっちゅう帰ってる。ジャーパン皇国設定は僕の近々の事情・・・尿意のせいで、一気に崩れ去った。


 それからは、もう開き直る。口止めをしながらも、包み隠さず正直に全てはなすことに相成った。でも日本というか、異世界の説明もめちゃくちゃ難しいので、透明化、フライ、転移で上空から日本の家の周辺を案内した。


「異世界も、こちらの村とあまり変わらないのですね。」


 エレナさん、突っ込みありがとう。まあ、寒村だし・・・。でも、車とか走ってたし電柱あったよね。街や都会は刺激が強すぎると思って、家の上空にしたんだけどな・・・。その後、3時のおやつを挟んで、結局夕食近くまで、各種説明に時間を費やした。タブレットで都会の写真を見せたときは、


「これが神界・・・」


 とかまた小声で呟いていたけれど、そっちの人達は魔法とか全く使えないから。今のところ確認できてるのは僕だけだから。結局夕食後も説明を続け、何とか納得していただいた頃には深夜になっていたので、クイーンサイズのベッドはエレナさんに譲って、僕はエクストラベッドで寝るのだった。今日は風呂なし。クリーンのみ。まあ、トレーラーハウスにはシャワーしかないし。今日は最後に図らずも人も一緒に転移させるという人体実験第三幕になっていた。おやすみなさい。

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