第48話 専属秘書誕生?

「さてエレナさん、ここまで僕の秘密を知ったからには、わかっていますね。」


 完全に悪役のセリフだけれども、朝食にいつものクッキータイプの完全栄養食品とオレンジジュースを二人で食した後、今後の行動方針などについて話し合った。お互いの事は表層的なことしか知らないわけで、秘密保持のためにも、今後のお互いのためにも、さらにお互いのことや明日以降の行動のことを話し合ったのだ。


「すべて、アタールさんにお任せします。」


 悪役セリフはほぼ無視された。まあ、そういう冗談が言い合えるくらいに、お互い打ち解けたということだよね。今後の方針に関しては、全面委任を勝ち取った。ただ、移動その他、行動については一緒に行動するというエレナさんの頑なな主張について渋々ながら僕は受け入れることになったけども。


 ちなみに、彼女は18歳。これは「冒険者登録のときに、生年月日が必要です。」ということで、聞き出した。ファガ歴で言うと、614年11月11日、実際には11月しかわかってないみたいだったので、エレナさんも覚えやすいからいいかな?と11日になった。


 ここまでの会話で彼女はかなり頭がいいと感じた。言葉遣いは勿論だけど、物事の理解度が僕より全然高い。しかし猫人族というか、集落の中では運動能力が致命的に悪かったそうだ。それでも素の僕に比べれば全然高いけど。というか、彼女の順応力も高すぎ。たった二人しかいいない島ですよ?初めて来た場所ですよ?昨日初めてお会いしたばかりですよ?もしかしてコミュニケーション能力も高い?


 ということで、しばらくの間は異世界常識を知らない僕の常識用の秘書的なポジションをお願いして、快諾していただいた。文字の読み書きはまだ微妙なところがあるけど、すぐ身につけるだろう。魔法については彼女も詳しくないので、そこのアドバイスは頂けなかったけども。あ、彼女も生活魔法使えてた。ただし、水は数滴だし送風も微妙で、「この程度で魔法が使えると言いません。」って言われたけどね。


 昼食後は彼女のご要望で、ログハウスを設置することになった。トレーラーハウスは景観に合わないだとか、部屋数がどうのとか、キッチンがどうのとか、あれこれとおっしゃることに、今度は僕がコクコクと頷くばかりであった。なんかいきなり主導権握られてないですか?


 電気配線の都合上、一部は人力工事で四苦八苦しながらも何とか設置が済み、トレーラーハウスは必要なものだけ別にしてインベントリで収納。ログハウスのトイレは洗浄機能付きだったのがうれしい誤算。ただ下水施設がないので、今のところはログハウスの下水管の末端を空間接続で海に直結しておいた。魔石の総数はトレーラーハウスでは個別に水回りとかで使っていたものを集約できたので何とか足りたのは僥倖だったよ。足りなかったらインベントリの魔物のから取り出す所だった。でももう、魔石の在庫無いから、また買うか魔物から取り出さなければ。そういえば、外側の結界も内側の結界も、そして設備用も、チャージした魔石の魔力はまだ減った形跡がないな・・・。早く消費量を把握したいものだ。あ、あとログハウスには風呂があるのだよ。


 設置終了後は、各部屋をふたりで見て回って、不必要なログハウス販売営業ツールなどは撤去していった。パンフレットとか1000部単位であったからね。大型液晶テレビも要らないのだけれど、のんびりブルーレイとかで映画観たりできるから、そのままにしておいた。電気が通ったので、冷蔵庫をはじめとして、食洗器、ドライヤーなどなどの使い方をレクチャーしていく。


「これが神々の住まい・・・。」


 エレナさんまたなんか小声で呟いているけど、聞こえてるからね。黒歴史を抉られるようでつらいんです。今度ペナルティ決めよう。魔法とエンジニアリングのコラボだけど、まあ殆どは太陽光発電のおかげです。あ、一応太陽光パネルもリチウムイオン電池も複製して増設しておいた。


 さて、明日はいよいよジャジルの街に行かなければならない。エレナさんは当然のごとく一緒に行くことを主張し、これも渋々飲むことになった。だって、ダメだって言うと猫耳がしゅんとなるんだよ。それに僕より背は低いから、うるうるした瞳で見上げながら手を前に祈るように組んで「お願い。」と言われれば、1億人いれば1億人が、ハイって言うしかないよね。何度も言うけど猫耳だし。


 まずは手を繋いで、フライで空を飛ぶ。自己障壁は彼女も含めているから、スピードは問題ない。手を繋が無くてもおそらく彼女も飛ばすことはできるだろうけど、このあと透明化して飛ぶ必要があるので上空で離ればなれにならないための対策。何事もまずは基本練習から。エレナさんが怖がると思ったけれど、ぜんぜん怖がらないどころか、喜んでいる。透明化での飛行も問題なかった。練習が終わってからはっ、と気づいた。


「僕が先に飛んで行って、あとで転移して迎えに来るというのはどうですか?」


 という提案は、速攻で却下された。あなた昨日は身投げしようとしてたよね、絶望の眼だったよね・・・。この積極性は何なんだか・・・。それに決定権・・・。まあ確かに僕は母や姉、叔母はおろか、従妹にも逆らったことないけど。いろいろ個人的な苦悶のあと、部屋決めに移る。


 彼女は2階の小さな部屋を所望したが、そこはクローゼットであることを告げて、例のバルコニーの部屋を彼女の部屋とした。ちなみに、クローゼットは、その部屋のクローゼット。さすがにログハウスであるとはいえ、日本設計だけあって、各ベッドルームにシャワーとかトイレは無い。2階にはトイレのみ。僕は1階の昨日彼女が寝ていた部屋を寝室とした。一応この家の主寝室で、小さいながらも続き部屋の書斎もある。風呂は広いのが1階に1か所。日本の僕の家の風呂と同じくらい広い。窓も大きくて、島の緑を眺めながらのんびり入れそうだ。将来は露天風呂も欲しいな・・・。


「アタールさん、聞いてますか?」


 はい、まったく聞いていませんでした。なので謝罪の後に再度聞いてみると、服装に関してだった。そうか、領主様に会い行くのに、旅人の服と村人の服のふたりではまずいか。早速の秘書エレナさんの活躍に頭の下がる思いだ。それにエレナさんも年頃の女の子だし、もうちょっとお洒落した方がいいしな。僕もエレナさんに恥をかかせないよう、もうちょっときちんとした身だしなみも考えないとね。服はジャジルに着いたらすぐに購入することで合意を得た。


 あとはエレナさんの設定について。ジャジルの門番に何か聞かれたときどうするか、出身はどうするかなどなどについても言及された。僕なら街に近づいて初めて気付いていただろうな。エレナさん有能すぎ。そこは、サルハの街のスラム地区の孤児出身ということで誤魔化せるだろう。あとは結界守の村のご威光に頼る。結局ちょっと遅い夕食を挟んで深夜になって、やっと打ち合わせが終わるのだった。


 せっかくお風呂があるので寝る前に、使い方をレクチャーしておく。今日はシャンプーとかリンスは無いので、石鹸だけだったけど、それでも彼女は好奇心いっぱいな感じで僕の説明を聞いていた。洗浄機能付きトイレについては、部屋チェックのときに既にレクチャーしている。使った感想はまだ聞いていない。下着はさすがにないけど、着替え用に複製してリペアで新品にしたスエットを渡しておいた。尻尾のところはご自分でお願いします。


 さて、僕は今夜はクリーンだけでいいや。あとはスマホで日課のサーバのシステムと【エルフ村】の状況確認だけして寝よう。うんエラーは無し。うわぁ、また登録ユーザー数まためっちゃ増えてる・・・。


 コンコンと部屋の扉がノックされたので、焦って飛び起きる。そういえば、エレナさん居るんだった。ハ~イと返事する。


「アタールさん、おはようございます。」


 扉の外から挨拶されたので、部屋を出て朝のご挨拶。エレナさんなんでこんなに礼儀正しいのだろう。従妹とか、普通に部屋に入って来ようとするのに・・・。ん?飛び込んできた情景に自分の目を疑い何度か目をこする。え?何この萌えシチュエーション・・・。スエットの上だけだと・・・まあ比較的ゆったりとした Lサイズですけど・・・。いや、萌えとかじゃなくて、それ目に毒なんですけど。


「あ・・・あの・・・ズボンは?」


「その・・・尻尾が収まり悪くて・・・穴をあけるもの勿体なくて・・・。着方間違ってますか?変ですか?」


 いや、変じゃないし、着方はある意味王道だと思う。そしてむしろ似合っている。ただ僕の免疫力が足りないだけで。しかも、今の彼女はまだまだ栄養不足で痩せ細っているので庇護欲までそそってしまっている。あ、変にガリガリではなくて、めっちゃほっそーいモデルさんな感じね。そしてゆらゆらと揺れてる尻尾も可愛い・・・。


「いや、ぜんぜん似合ってますよ。着心地どうですか?」


「はい!とっても着心地いいです。今までの服はゴワゴワで肌触り悪くて、なのにこの服はとっても肌触りが良くて、着ているだけで気持ちいいです。」


 可愛いけど、こいつ、きっと「これが神の衣服・・・。」とか昨晩呟いてたんだろうな・・・。まあいいか。直接耳に入らなければ恥ずかしくないからね。とにかく顔洗って朝食だな。菓子パンと牛乳で良いかな。猫人族だから、肉とかがいいのかな。尋ねてみたら、食事は普通だった。というか僕の認識の普通よりもかなり食生活は貧しかったようだ。棄民扱いだからしょうがなかったんだろうな。


「今日は起きるのも遅かったし、食事が済んだらちょっと休んで、早速ジャジルに飛びますからね。」


 朝食後、特に準備がないけれど、「スエットの上だけ着て出かけたい。」という彼女を今度着心地のいい外出着を通販で買う約束で説得して着替えさせ、ジャジルへ空路で向かう。

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