第46話 自己紹介。

「お母さんが迎えに来て、優しく・・・抱かれて包まれる夢でした。・・・」


 普通に夢だった。なので僕の解説も必要ないから、話が続かないというか、きっかけがない。頑張れ僕のコミュニケーション能力。お婆さんとかオッサン相手ならあんなに出まかせとか作り話が口をついて出てくるのに・・・。でも、お母さん亡くなってるんだろうな。


「すごく気持ちよくて・・・でも男の人の声が聞こえて、目が覚めて・・・・。」


 それで?と返すのは失礼にあたると聞いたことがあるので自重する。


「さっきはありがとう。・・・アタールさんは治療師さん?」


 ここは肯定しておくところだよね。


「はい、治療師です。でも、冒険者もしていますよ。」


「服はなぜ新しく・・・なっているの?」


 う~ん、清潔にしたほうがいいと思ってリペアもかけたんだけど、ここはクリーンだけにしておいたほうが良かったか。いやいや、どうせど田舎もど田舎だし、都会ではそういう魔法があるって信じてもらって・・・・でも後で他の人に話して、なにそれ?そんなの聞いたことない。のパターンになる可能性も大だし・・・でも僕自身が着替えさせたと思われるのも、相手が女性だとアカン感じだし・・・どういう理由が一番問題なく今の状況を・・・。


「聞いてます?」


「はい、聞いてますよ。えっと、それは僕の魔法です。」


 とっさに開き直ったのでかなり簡略したが、魔法は魔法だ。最初見た時の絶望したときの目ではなく、きらきらと輝いている。これはあれだ、僕もよく知っている。親戚の子供が、僕のコレクションを見た時の目だ。好奇心に支配されたヤバいやつだ。回答しなくても、次々に質問が飛んでくるヤツ。


 さっきの食べ物は?この部屋は?あの見たことがない四角い板は?この建物は?という感じで、予想通り次々と質問が飛んできたがすべて「魔法です。」で乗り切った。おそらくまだ疑われてはいないと思う。インベントリしか使ってないけどね。それらは単に運んできただけだよ。後で彼女が冷静になったときに、疑念が生まれるかもしれないので、それまでにはある程度の信頼感を獲得しておいて、思考が向かないようにしておかなければ。


「まだお腹空いているでしょう?何か食べましょう。僕もお腹空いているので。」


 会話ではなく一方的だけど、お昼時でもある。さっきのプリンはおやつ。信頼は餌付けから始まるよね。キッチンに向かい、インベントリから消化が良くカロリーも高めな、スパゲッティを取り出し、木皿に盛り木のフォークを添える。飲みものはお馴染みのオレンジジュースと水、バナナとかコンビニで買える果物も添えてある。彼女も精神的には落ち着いてきているけど、一大決心したであろう身投げ事件からまだ数時間、ゆっくりしてもらって、その上で彼女が自主的に自己紹介とか身の上話してくれたらいいかな。


 キッチンとはいっても、ダイニングキッチンなので、彼女を食卓に呼び、一緒に昼食。弱った体に食べ過ぎはよくないので、お代わりなしを告げる。あ、でもハイヒールで回復しているのでは・・・。そういや、足取りもしっかりしいてたような。まあ、痩せ細っているのは変わりないから、何でもすぐに胃が受け付けるとは限らないしな。スラム地区でも炊き出しのときに、あとで体調崩している人が居たし。まあ、あれはおそらく食べ過ぎだけど。


「さて、一緒に食べましょうか。」


 コクコクと頷く彼女。6人掛けのテーブルだけど、手で席を示して「どうぞ」という感じで促す。長辺のほうに向かい合って座る。先に食事置いてあるから、席はすでに決まってる。女性には椅子を引いて先に座らせるとか映画で見たことあるけど、まあそんなのは無理。だいたい相席なんて、大学の学食でくらいしかしたことないし。


 彼女が食べ始めるのを待っているので、さっそく手を合わせて心の中でいただきますする。僕が食べたるのを彼女が食べ方を真似して食べる。スパゲッティはミートソース。ペペロンチーノもあったけど、まあ、ニンニク好きなんだけど臭いがね。はっ、それこそ魔法で何とかなったんじゃないの・・・。


 スパゲッティもオレンジジュースもバナナもいちいちひと口目で大きく目を見開いている。これは後で質問くるよな。お互い完食し、僕は手を合わせて心の中で、ごちそうさまでしたする。


「じゃぁ、食器片づけますけど、何か飲み物飲みます?紅茶とか。お茶菓子も出しますけど。」


 お茶菓子のところで、コクコク頷いた。食器類をキッチンに持っていって、クリーンをかけて収納、紅茶のティーポットや磁器のカップ、お菓子用の磁器の皿なんかはモデルハウスであるログハウスだから完備されていたので、そのままクリーンをかけて流用。もちろん紅茶とお茶菓子も。淹れ方は詳しくないけど、まあティーバッグだし。


 ダイニングテーブルでのお茶会が始まるが、お互い無言が続く。何種類かのクッキーやせんべい、モナカとかをお茶菓子に用意していたけど、僕が食べようとしたものを彼女も食べるという感じだったので、ひとつおきに味がが微妙そうなのを選んでみた。彼女のコロコロと表情が変わるのを楽しんでいる。


 容姿から推測すると、だいたい12歳~20歳の間くらいかな。イワンの例もあるから、幅を持たせてみた。親戚の子供も中学生くらいでもう、身長170センチくらいがの居る。


「何も聞かないのです?」


「はい、もしあなたが聞いてほしいことがあれば、聞きますよ。」


 僕が彼女に聞いてみたいことって、まず名前でしょ、年齢は女性に聞くのは失礼だろうから、そのほかは、何故身投げしようとしたか、くらい。家族構成や彼氏の有無とかも気にはなるけどまあ、そこは今どうでもいい。あ、国境を越えているかどうかという意味では、ここの国の名前とかも知りたいかな。でも、なるべく彼女から話してくれる方が好ましい。


「ちゃんとした自己紹介がまだでしたね。僕はアタール。名前は先ほど言いましたね。冒険者ですが商人ギルドにも入っています。」


「治療師さんは?」


「治療師はできるというだけで、普段治療師を名乗ったことは無いですよ。」


 あ、なんか疑りの目をしてる・・・。なんでだろうか。


「あ、あの、いろいろ治してくれてありがとう。瘢痕も傷跡もなくなっていて・・・息苦しくもないし、熱もないです。そして・・・」


 彼女は、顔、胸、額にそれぞれ順に手を当て、説明した後、じっと自分の足元を見ている。なんだろう?


「あの・・・子供の頃にケガで壊死しかけて・・・その・・・治療で・・・切ったはずの・・・足の指が・・・あるみたいなんです。動くんです。」


 魔法、いい仕事している・・・けど、図らずとも人体実験第二幕になっていたか・・・。何とも言えず返事をしそびれていると、


「あ、私はエレナといいます。」


「はじめまして、エレナさん。」


「は、はじめまして、アタールさん。」


 追及は躱せたか?と思ったけど、治療魔法について、あれこれ質問されたうえ、集落の呪術師や、大きな村の治療師でもできなかった治療が、何故できるのかなどをあれこれ問い詰められた。でも僕にもわからないよ。「魔法で」としか、言いようがないんだよなぁ。


「領都とか首都とか、大きな街の治療師さんなら、できるのかもしれないですよ。教会の治療師さんとか。宮廷魔法使いとか。」


 推測として、これくらいしか言えない。


「私の住んでいた集落、みんな病気にかかったんです。お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、弟も、村長さんも、ダリヤのおばさんも、みんなみんな・・・・。」


 やっとエレナさんから話が聞けそうだ、彼女の事情が分からなければ、何もしてあげられない。


「私だけ・・・まだ動けたから、近くの村や街に、治療師さんを呼びに行ったんです・・・何日もかけて。でも、誰も来てくれなくて・・・一緒に来てくれる治療師さんを探しているうちに、何日か経って。そのまま帰れなくて・・・集落でみんなから預かったお金で薬を色々買って・・・村に帰ったら・・・おじいさんやおばあさん、弟や小さな子供たちはすでに亡くなっていて・・・。」


 僕は頷きながら話を聞くだけだ。致死率の高い伝染病だろうか。南方だからマラリアみたいなものかもしれない。デング熱とかもありえる。


「お父さんとお母さんが、私だけでも生き残るために、集落を離れなさいって・・・。お兄ちゃんも一緒に行ってくれるならって思ったけど、お兄ちゃんももう起き上がれないって・・・。だから私・・・言う通りに・・・集落を出たの。そして、何日か前、集落に様子を見に行ったの・・・。そしたら・・・もう誰も居なかった・・・。生きている人は。だから病気を殺そうと、集落に火を放って・・・私は集落を離れたの。村や街と反対側に。」


 短期間で、ハードな展開だったんだな・・・。


「でもね、魔物を避けながら、もう日付も時間もわからないくらいに歩いていて・・・何も食べずに・・・、そうしたら私もどうやら病気にかかっていたみたいで・・・もう、どうせなら早くいきたくて、集落のみんなのところに、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、弟のところに早く行きたくて・・・・・。」


「もういいよ、わかったから。もうエレナさんの病気は心配ない。その時僕がいてあげられなくてごめん。」


「アタールさんは・・・・悪くない・・・・・です・・・・。」


 彼女の目からは大粒の涙が流れていた。ちょっと僕の話し方が馴れ馴れしくなってしまったが、ここは、抱き寄せて抱擁するべきか、そっと頭に手を置くくらいにしておくべきか、いやいやそんな演出じみたことを考えたところで、どうせできないんだから紅茶のおかわりを淹れよう。あ、顔をふくのにタオルだけ渡しておこう。


「・・・・」


 彼女は涙を拭いた後、タオルをじっと見つめていた。

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