第6話 村を出る。

 さて、こうなると、僕は異世界散策をするべきであろう。カメラ小僧と化し、本当にいらっしゃるのならば獣人さんやエルフさんの写真を撮りまくったり、異世界のお店を訪ねたり、やってみたい事が沢山ありすぎるくらいある。言葉やお金の件は既に魔法で解決済であるし。ついでというか、魔法もさらにいろいろ試してみたい。というか、試すべきであろう。


 おそらく僕のインベントリで収納されている本には、魔法大全だけでも、たくさんの古の魔法が載っているだろうし、先ほどのサシャさんの話では、他にも何冊か古代魔法の本があるという事だし、もしかしたら都会の図書館に行けば、もっとあるかもしれない。


 こうなると、ここでじっとしているわけにも行かなくなる。それに、自分の家に帰るのに、毎度サシャさん家のお手洗いとかで、コソコソというのもまずいよね。


 この異世界のことを知るにも、実際にいろいろ体験して旅なんかを楽しみながらも、日本での田舎生活も楽しむというのが本望である。なので、まずはこの村を出ることを優先することにする。


「サシャさん、領主さんの住む街や、王都に行きたいのですけど、どのような方法がありますか?」


「そうね、ひとつは、村に来る商隊に便乗させてもらうことかしら。ほぼ毎日誰かしら来ているので、交渉次第では商隊の馬車に乗れると思うわ。でもこの場合は、途中の村々でご商売されるから、移動には時間はかかるし、お金を払った上に商売の手伝いをさせられ、その上、あまりいい顔はされないかもね。もう一つは、定期的に運行している駅馬車。少し高いけれど、まず盗賊にも襲われないし、速いし、一番安全な交通手段ね。もしくは自分で馬を買うか。これは一番速いけれど、さすがに馬一頭今買うには無理があると思うわ。そして最後は、普通の旅人が移動する方法、徒歩ね。」


 徒歩が普通らしい。盗賊っていうのはかなり恐ろしいけど、この辺りは安全だそうだ。村々を経て行けば、徒歩でも野宿は2日に1回程度のよう。馬の場合、馬の世話をしながら旅とか無理っぽいし、そもそも馬に乗れないし、村を出てしまえば、家に転移してから色々考えられるし、ここは徒歩でいいだろうと、心はほぼ決まる。


「ならば、いつまでもご厄介になっているのも何ですので、大きな街に移動しようと思うんです。一応ポケットには、路銀になりそうなものも入っていましたので、この国の服とあとはマントと水袋があれば、ひとり旅は自分の国でも慣れていますから。」


 と、ネットでの中世の旅知識を思い出しながら、徒歩脱出の方向性で話を進めると、何とサシャさんがおじいさんの使っていたマントや服を譲ってくれるという。そして水袋や、ショルダーバッグのようなカバン、少しの干し肉までも頂けることになった。


 ありがたいが、お礼にここで、先ほど複製したこの国のお金を取り出すのもまずいので、今のところは満面の笑みでお礼だけ言うことにした。


「ついでに、領主様の街までの簡単な地図と書いておくわ。王都はちょっと方向が違うけれど、同じくらいの日数がかかるから、まずは領主様の街で、いろいろ聞けばいいわ。大きな街の入り口の詰め所の衛兵は先ほど言った、<トランスレート>の魔法石を持っているはずだから、問題ないはずよ。他の村や、道すがら話しかけてきた人には、身振り手振りで凌ぐしかないわね。一応、他の国の旅人だってことだけ書付を村長さんに書いてもらいましょう。読み書きができる人も、他の村でも数人は居るから。」


 至れり尽くせりだ。服を着替えるために、客間を借りるついでに、自分の家に一旦戻り、仕事部屋から、銀のアンティークの懐中時計を持ってきた。まずはこれをお礼に渡そう。


 他にもポケットに入っていてもおかしくない程度の中世風の銀のアクセサリーも持って来た。普段身につける訳ではないが、こういうのも異世界風グッズとして保持しているのだ。僕はけっこう意外性のある男でもあるのだ。


 換金できるものを持っているアピールのための銀時計の受け取りを拒もうとするサシャさんに、無理やり押し付る。なんとか受け取っていただいた。でもまだ借りの方が多いと思う。お爺さんの書庫丸々と、お金コピったから。


 そしてメイドさんであろう方には、銀のペンダントを差し上げる。だって、言ってなかったけど、異世界の少女メイドだもの。ここは僕の印象を残すべきでしょう。なんだか赤い顔して受け取ってくれた。


 すごく簡素な旅支度を終え、サシャさんとともに家を出て、村長さんの家で、紹介状のようなものを書いてもらう。村長はサシャさんの言うがままのようだ。なんと、彼はサシャさんの旦那である亡くなったお爺さんの弟子だったそうで、未だにサシャさんには頭が上がらないそうだ。


 さらに驚いたのは、この村の住人は全て、魔法使いだという。サシャさんに聞いた魔法使いの割合とはかけ離れているけど、まあ、あれは一般論だからと、笑って済まされた。


 それこそが、結界守の村である所以で、結界の魔道具に注ぐ魔力は結界の守り人、サシャさん一人ではとても足りない訳で、この村ができてからずっと、サシャさん一族を始め、魔法使いの一族ばかりがこの地に住み、それぞれ魔法石に魔力をチャージすることが仕事になっているのだそうだ。魔力って遺伝するんだな。


 お陰でこの村は領主に租税を納める必要はなく、領主の街に入るための通行税は不要で、いろいろと国や領主様からの恩恵を受けているおかげで、村人全てが豊かな暮らしをしているという。


 しかも辺境伯領のなかでも最北の辺境でもあるから、変な人も全く来ることがなく、平和でもあるという。うん。平和はいいものだ。


「いろいろお世話になり、本当にありがとうございました。また必ず訪問させて頂きます。」


 とにかくサシャさんのいろいろな説明話をぶった切り、簡単だが、心を込めた挨拶を贈り、僕は村を後にする。サシャさんと村長さんは、姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。


 二人の姿が見えなくなって、さらに15分ほど歩き、まずはサシャさんからいただいた服や靴、カバン、マントに<リペア>の魔法をかけ、新品にする。そして<テレポート>で自宅に戻り、農倉庫のバイクに跨り、再び<テレポート>を唱えて、異世界に舞い戻る。

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