第7話 地図が欲しいと思う。

 バイクでそのまま3時間ほど爆走。おそらく既にいくつかの村を通り過ぎている。ちなみに、サシャさんから頂いた簡単な地図は無視して、ひたすら東に向かっている。


 一応コンパスは有効のようなので、コンパス頼りだ。どこに向かっているかと言うと、とりあえず東側にあると言う海である。その後海岸線沿いに南下しようというプランだ。それと魔法の、実験と検証を優先することにした。


 自宅では、お爺さんの蔵書を紐解き、異世界側では、まず地図を作る。転移魔法が使えるのだから、ひたすらいろいろな場所に行くことを最優先にすることにしたのだ。そして、人の目につかない場所で、魔法の実験と検証。これだ。


 バイクでのんびり異世界ツーリングしながら、そんな予定を立て、そろそろガソリンが切れそうなので自宅に帰ることにする。本日の走行距離は120キロ。うん。のんびり走っても、おそらく馬より速い。


 途中ですれ違ったり追い抜いた旅人や商隊の方々は目を剥いて驚いていたようだが、無視。次は車載ビデオをセットしよう。あと、携帯燃料タンクも用意したい。ともあれ、今日は家に帰るとする。


「〈テレポート〉」


 午後5時半。まだ梅雨だけど外は明るい。転移して来た元農倉庫のガレージ兼作業場から、自室に戻り、服を着替え、財布を持って、再びバイクにまたがり、ガソリンスタンドに向かい、ガソリンを入れ、ついでに20リットルのガソリン携行缶を買い、それも満タンにして荷台に積み、人通りの少ない場所で、自宅に転移してみる。うむ。成功。


  どんなカラクリかはわからないけれども、日本というか、この世界でも普通に転移魔法は使えるようだ。おそらく転移魔法以外も使えるだろうと、ガソリン入りの携行缶を荷台から降ろして、デュプリケートしてみる。


 うむ、これも成功。調子に乗って、絶対今なら人がいないであろう通っていた大学の図書室にも転移してみるが、これも成功した。しかし、転移した場所に物があったり、人がいたら、融合してしまうのだろうか?などと思ったりしたので、自重はしなければならないとは思う。現代日本には、監視カメラもたくさんあるから、それも気にしなければならない。


  ともあれ、自室に戻り、これからの計画を大雑把に立てることにする。


  まず、運営サイト用には、異世界の写真投下。これは、シャッター音の消せるコンデジを用意して、異世界で隠し撮りする。リアル異世界なのだから、高クオリティまちがいなしだろう。猫耳や美形エルフに期待しよう。


  それに、異世界地図の作成。向こうにはGPSがないので、オーソドックスな方法しかないだろう。精密なものは無理だろうが、コンパスとトリップメーター、あとは何か測量のための機器でもネットショップで探してみることにする。そういえば、バイクだけでなく、車も欲しい。雨天や積雪の場合、バイクではしんどいから。


  忘れてはいけないのが、魔法使いのおじいさんの蔵書の整理と読破。それに伴う魔法実験。実験は自宅でできるものとできないものがあると思っている。もしも高出力の攻撃魔法なんかある場合、さすがに自宅では無理だ。


  まずはこれくらいかな。思いついたら、リストに都度追加していくことにする。


 車のことは明日に回して、まずはお爺さんの蔵書の整理を始める。一旦全て書庫のまま仕事部屋に取り出し、試しに書庫全体に向かって、リーディングの魔法をかけてみると、全ての本の背表紙が、日本語として認識できるようになった。


 ためしにこの状態でデジカメで写真を1枚撮ってみる。しかし写真で見る背表紙の文字は、再びカメラにリーディングの魔法をかけるまで、読めなかった。やはり、文字そのものは変わらず、術者の認識が変化するだけのようだ。


 とにかく、ざっと本を整理する。魔法の他に、歴史や数学などの学術書、その他には、物語もあるが、ほとんどは魔法に関する本のようだ。


 魔法の本をひとまとめにして、読み始める。最初は既に少し目を通している魔法大全から。最初のページは、前書き。代表的な魔法が記されているそうで、後世に残すためということわりとともに、まずリペアとセービングが説明されている。


 しかしこの元の本には、セービングはかかっていなかった。有効期限があるのか、誰かが読めないながらも写本したものかもしれない。


 特に目次のようなものはないので、読み進める。最初の項目は、生活魔法。ファイアやクリエイトウオーター、クリーン、フリーズ、セービング、ブレンド。それぞれ、詳細を読まなくてもなんとなくわかるので、さらにページをめくっていく。


 転移魔法や、火や土、治療の魔法と、まあ、それこそ日本でもゲームやファンタジー小説なんかで目にしたことのある物はほとんど並んでいるのだ。


 そして本も残り数ページ、無詠唱、魔法創作と、かなりチートな内容にもぶったまげたが、最後の2ページの内容はあまりにも衝撃的だった。


 そもそも無詠唱や創作魔法が可能であるのはなぜか、魔法というのは思ったことを具現化できるからだ。先に詠唱や魔法名があったわけではなく、始祖が思いのままに魔法を操っていたものを、この世界の民に教え伝えるため、わざわざ、体系立てただけ。系統魔法や魔力量というのは、単にわかりやすく整理しただけであって、本来は魔力などというものは個人に宿っているわけではなく、どの世界空間にも存在し、魔法というのはその豊富なエネルギーである魔力というものを操り、全ての想像した事象を具現化する手段である。


 そしてできることはできるし、できないことはできない。それだけ…。


 いや、マジでそれだったら、チートすぎるんですけど…。そして始祖って誰だよ。できないことというのは気になるけれど。できることはできちゃうって…。


 これは試すしかない。まずは、目の前の本を複製。そして複製した本の内容が日本語に置き換わるように念じてみる。もちろんこの状態ではリーディングとの違いはまだわからないので、先ほどのように、デジカメで撮影して確認する。


「日本語だ…。」


 ひたすら唖然とする僕。これ、場合によっては神レベル、いや、神だ。もちろん出来ないことの検証は必要だけれど、もう、魔法というより万能な超能力の範疇だ。ちょっと揺れて光って、魔法のある異世界に行っただけで、凄すぎる。この1日、いや半日で世界が変わりすぎ。


 そもそも異世界転移自体が、話がおかしいのだけれど、もうその辺りは全力スルーして、朝と同様に、再びパニくるのであった。ちなみに、直後、タイムトラベルしてみようとしたんだが、無理だった。他にも完全犯罪っぽいことも考えたが、それは流石に考えることもすぐにやめた。こうは見えても、人格者なのである。

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