第4話 臨死体験か、異世界か・・・。
石造りの、結構大きな家。例えるなら、映画などで見る中世ヨーロッパ風石造りの屋敷という感じ。立派なつくりなので結構いい家柄なのだろうか。
『家の大きさの割に、このお婆さんは一人暮らしなのだろうか?』『実はヘンゼルとグレーテルみたいに、悪い魔法使いなのだろうか』などと脳内推理を巡らせるが、どちらにしても、現時点では自分の考えの及ぶ範囲を優に超えているので、諦め九割九分くらいの気持ちで状況に身を任せてる。
家の応接室であろう場所に通され、何やらメイドさん風の方がお茶を入れてくれた。お婆さん、一人暮らしではないようだ。このお茶、見た感じ普通の紅茶だけど、口に含んでみると、渋みがほとんどなくてとても美味しい。
お茶のお礼を社交辞令的にした以外は、特に話題も浮かばないし、話題づくりもできずに部屋の中に目を泳がせる。『あ、そういえば、今何時だろう?』と思い時間を聞いてみる。考えはいつも突発的だよね。
お婆さんは壁の時計を指さし、午前10時過ぎということを教えてくれた。
ふむ、時間的には僕が揺れと光を感じた時間とほぼ合致する。ポケットに入れておいたスマホの時計を見てみると、壁の時計と同じ時刻を示していた。というか壁の時計に目を移すと、普通に12時間時計なのだな、と感心してみたりする。やはり1日は24時間なのだろうか?
お婆さんは、僕が取り出したスマートフォンを珍しそうに見ながら。質問してくる。何かの魔道具だと思ったらしいので、『あ、僕の国にある、時間を示す魔道具です』と、答えておく。ついでに、マッハでサイレントモードに設定する。
わけのわからないままの僕に、後ほど昼くらいにお婆さんが村長さんに紹介してくれるという事で、それまでの間この村について、いろいろと話してくれるのだけれども、未だ話の半分程度しか、頭に入ってこない。
まずは、これからどうしていいのかわからないし、もし臨死体験ならば、なんとなく生き返るか、そのまま死ぬのだろうし。そうでなければ、もうこれはファンタジー小説でおなじみの、異世界転移であろう。
と、いろいろ考えを巡らせてみるものの、良策がないので、もうここは再び開き直る。
今はとにかく、このまま状況に流されてみよう。もしかしたら、時間経過でこの状況から脱するかもしれない。今はいろいろ話を合わせて、状況を楽しんでみることにする。
雰囲気的には、僕の、いや我社の運営サイト『エルフ村』に出てくる異世界っぽいし。もしこの状況を脱したら、話題作りにもなるだろう。
そうと決まれば、と、状況を楽しむ方向に進める。まずは、この国の事を聞き出すことから。そして、少しは落ち着いてきたので、先ほどから話に出てくる、魔法についてなどなど。
僕が巻きこまれたであろう転移魔法は、
お爺さんが使っていた研究室というか、書斎にそのあたりの資料があるそうで、後で見せてもらえることになった。
で、この国は王国で、国の建国は、先ほど話した結界設置から100年ほど前、建国から今は600年程。建国以来、大きな争いは特にないと言われているそうだ。かといって、国同士の争いが全くないわけではなく、国境線の領地争いは頻繁に小競り合いという形で続いているという。
しかし、この領地が面している北側の国境については、魔物の山という魔物が住む険しい山々が国境線となっていて、北側の開拓とともに、古代魔道具で結界を張り巡らせており、ここ数百年はほとん魔物の被害も、他国からの大規模な侵略もなく平和だという。
はい、出ました『魔物』。そして、獣人やエルフなどの亜人、魔族の国などが話に出て来た。すでに魔法は話に出てきているし、ここは、いわゆるファンタジー世界と同じような世界であるらしい。
他にも、この国の名前が『ファガ王国』であり、ここは『ジニム辺境伯領』であることなどを聞かせてくれた。これらは、固有名詞だから、おそらく発音そのままの名称であろう。
この村には固有の名前はなく、『結界守の村』と呼ばれているという。しかし、王様がいて、伯位があるということは、専制君主制か立憲君主制の国なのだろう。
「あ、そういえば、僕は、アタール・タカムーラと申します。いろいろなお話本当にありがとうございます。」
間抜けなことに自己紹介をしていなかったことに気づき、お婆さんの話を途中でぶった切り、一応自己紹介のご挨拶をする。既にこの状況について開き直ったがため、僕は冷静なのだ。
「あら、苗字持ちということは、貴族様なのでしょうか?」
お婆さんからの返しはこれ。苗字は貴族しか持っていないらしい。とっさに、僕の住んでいる『ジャーパン皇国』という、皇帝が治める国では、平民でも苗字を持っていると、さも本当のことのように、話を作る。
庭仕事中だったせいでコットンスエットの上下を着た貴族というのも変なので、そこはサクッと話を作るのである。というか、このお婆さんはなぜこんなに冷静?
「そういえば、自己紹介がまだだったですね。私は、サシャと申します。先ほどの話のように私の一族は魔法使いで、この領、いえ、この国の北の結界の守り人を代々続けているのですよ。」
うむ、サシャさんとかサーシャさんは意外と普通に聞く名前である。注目すべきは、何度聞いてもファンタジー色あふれる『結界』である。いろいろ思うことはあるけれども、そのほか、サシャさんが教えてくれるこの国のことを興味深く聞くとともに、そういえば、お金とかどうなっているんだろう? 物々交換が主流なのだろうか? という純粋な疑問をぶつけてみる。
答えは、小銅貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨があり、小銅貨5枚が銅貨1枚。銅貨5枚が大銅貨1枚。銀貨1枚は、大銅貨10枚。大銀貨1枚は銀貨4枚。金貨1枚は大銀貨5枚。大金貨は金貨10枚。ということだ。10枚単位で繰り上がらないところは面倒だけど、まあ、それも置いておく。物価については要調査だ。
硬貨の構成を見る限り、どうやら金本位制の社会だろうか。希少金属は地球と同じ感じだろうか。純度や重量、産出量、埋蔵量がわからないので、まだ何とも言えないけれども、各種硬貨もあとで、見せて頂けるものなら、見せてもらうことにしようと思う。
1時間ほど話しをしていると、サシャさんから、お昼の準備をすると告げられ、先ほどお話で聞いた、お爺さんの元書斎兼、研究室に案内された。文字はさすがに読めないけれども、<リーディング>という魔法があって、それで異国の文字が読めるという話を教えてもらった。
ちなみに、書く呪文で、<ライティング>というのもあるらしい。というか、これも何気に英語だけど、まあそこは置いておく。サシャさんは<リーディング>は使えないそうだ。種類によって向き不向きがあるそうだが、そもそも生活には必要ないのだろう。この大陸ではほぼ共通言語が使われているが、方言的に○○国語という感じで表現されているようだ。
サシャさんは一冊の本を手にとって、説明を続ける。かなり古い本。古代魔法のものだろうと聞かされている本だそうだ。
実際のところ現代で<リーディング>魔法が使えるのは、おそらく各国の上級宮廷魔法使いくらいで、読めるのは、現在存在し使われている異国の文字程度だそうで古代文字は読めないという。なんとなく<トランスレート>より高度そうだ。
<リーディング>の難度としては、言葉は話すとき口が動くし空気も振動するしいろいろな情報とか意思表示もあるので、すべての情報が複合的に魔法的処理がされるものだけど、見知らぬ文字で書かれた文章さけでは情報が少なすぎて、総合的に普通程度の魔力では処理しきれないということだそうだ。うむ、まったくわからん。
だから古代魔法が書かかれているらしい本は、今まで誰も解読できていないらしい。<リーディング>にも何か条件があるのだろうか。既に古代魔法が書かれた文字は失われた言語・文字で、魔法の本以外にも存在しているとお爺さんが言っていたそうで、今でも王都では研究されているらしいけど、解読できたという話は聞いていないという。
なぜこのようなことを知っているかと聞くと、お爺さんは一応、筆頭ではなかったけれど、この村に移転してきた頃は、王国の上級宮廷魔法使いで、古代魔法の研究者だったと説明してくれた。
「この本が、お爺さんでも読めなかった古代魔法の本よ。挿絵もあるのから見てごらんなさい。もちろん、私にはさっぱりだけどね。他の本なんかも自由に見てくださいね。」
と優しい言葉をかけ先ほど手に取った一冊の古めかしい本を手渡してくれたあと、昼食の準備に取り掛かるために、彼女は書斎を後にした。お言葉に甘えて早速閲覧することにする僕であった。
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