第3話 希望 -idol-

 魔法少女システムはブラックボックスとなっている基幹部分を除き、自由にカスタマイズできる。

 各機能へのエネルギー配分の調整から、使用する魔術、装備、外装なんかも自由だが。

 ただ一つ、魔法少女は交戦規定上「衣装」を着る必要がある。

 一般人や非戦闘員、そして一般的な女性兵士との区別をつける為でもあるが、最大な理由は「アイドル性」だ。


 魔法少女は、脅威に怯える人々にとっての「希望」だ。

 これまで人類を苦しめてきた敵を圧倒的な力で薙ぎ倒し、世界を取り戻す為に戦う人類の味方。

 それは戦う力を持たない人々だけではない、現場で戦う兵士達の士気にも関わる。


 魔法少女がいるから、まだ世界は終わらないという希望を持って戦える。



 そんな訳で、スバルもまた衣装を着ている訳だが、その衣装を選んでいるのは僕だ。

 現在のスバルの衣装はライトブルーのスタンダードタイプと呼ばれる、インナーにシャツとスカートだけという簡単なもの。

 洗練されている、というよりはシンプルで余計な装飾のないタイプだ。


 基本的に魔法少女の衣装は地味でなければ自由だ、使用者自身の意志が尊重される、時には服飾系の会社やデザイナーに依頼してオーダーメイド、というのもある。


 僕らはそう着飾るタイプではない。

 僕も制服か、魔術歩兵の戦闘服のどちらかだし、スバルも同じ制服とスタンダード衣装だけで特に気にする様子を見せていない。

 だがカレン司令にスバルの事を頼まれている以上、そのままともいかない。


 食事を済ませ、タブレットで広報誌を確認しながら考えるていると、隣にスバルがやってきて、僕の手元のタブレットを覗き込んだ。


「何を見ているのですか?」

「魔法少女衣装だ」


 僕らは二人で一人、意識も思考も感情も共有できる……が、それは「互いにリンクを許している」状態の時だけだ。

 他の「プレアデス」達はどうかはしらないが、僕は戦闘時や必要な時以外はリンクしていない。

 だからこうして、スバル自身の意志で僕に働きかけてこなければ、僕は基本的に彼女の自由にさせている。

 それが僕と彼女の今の付き合い方だ。


 特に表情も変えず、沈黙しているスバル、おそらく自分の衣装について考えているのだろうか。


「ハフリは着てみたいのですか」


 ちがうわい。


「僕が知りたいのはスバル自身が何か着てみたいものがあるかないかだ」

「私としては特に、現在の衣装で不自由を感じていません。それよりもハフリに魔法少女衣装を着せたいと思いました」

「なんでその方向性になる」

「ハフリは私の感性からみれば美少年に区分されます、女性の衣服を着ても違和感のないと私は思いますよ?」


 思わず僕のほうが頭を抱えた、スバルも馬鹿ではない、少しばかり精神の幼さはあるが、して良い事と悪い事の分別はつく。

 だが時たまに変な事を言い出したりする事もある。


「僕にその趣味はない」

 たしかに「僕ら」は魔法少女だが、僕の方に衣装を着せる必要性を感じないので否定しておく。


「何っ!?女装美少年!?」

 だが興奮した様子で日本人の少女が近づいてきた。

 どうやら制服からE.L.F(地球解放軍)ではなく、日本政府所属だ。


「あの、どちらさまですか」

「アタシは日本政府所属!久遠レイカ、そこの美少年くん!貴方、女装に興味は!」

「僕は夜火祝(ヨルビ・ハフリ)、階級は准尉……残念ですが女装には興味はありません。スバル、自己紹介を」

「私はスバル、E.L.F所属の魔法少女、ハフリと共に特殊指揮下にあります。私的にはあくまで女装少年に興味があるわけでなく、性別に関わらず綺麗な人には綺麗な服を着せたいと思います」


 確かに性別に縛られず、好きなモノを着る文化はそれなりにある、スバルがそういうものに興味を持つのは別に僕としては構わないが、僕に着せる方向性には持ってこないで欲しい。


「それは……残念……無念……しかしショタとロリの並びも良いものよ……」


 ああ、「この方も」どうやら自分の欲求に素直すぎる少し残念な方だと僕は感じた。

 この基地には他にも何人かE.L.Fと日本政府の魔法少女がいる、今日はまだ見てないが知り合い……というか、なんというかあんまり関わりたくない「先輩」魔法少女など僕と交流のある人もいる。

 この基地という狭い範囲でしか知らないが人類の希望たる魔法少女は、どういう訳か少しクセの強い人間が多い気がする。

 多少クセが強くないと魔法少女の適性が得られないのか、それとも自分の欲求をストレートにぶつけるぐらいタフな人間が残るのか。


「ああ、神よ、上司よ……夜火君とスバルちゃんとの出会いに感謝……アーメン……」

 彼女が祈る神が何かは知らないが、とりあえずロリコンでショタコンで変態なのはよくわかった。


「そんなに私とハフリに出会えた事がうれしいのですか?」

「もちのろんですよ!ちっちゃい男の子とちっちゃい女の子っていう組み合わせなんて現実じゃ滅多に見られない!超レアなのです!」

 この人、どさくさに紛れてずっと僕らを小さいと認定しているが、スバルはともかく、僕はこうみえて15歳だぞ。


「よくわかりません、解説を」

「いいですか、ロリが貴重だというのは世間の知る所ですが、大体のロリはおじさんやらお兄さんとカップリングされる事が多いのです!ロリとショタの「王道」は以外と貴重なんです!!更にこの夜火くんみたいな落ち着いたショタというのはかなりレア!これを奇跡の様な出会いと呼ばずして!」

 滅茶苦茶早口だなこの人、それに僕とスバルはそういう関係ではない。


「なるほど、つまり私とハフリは運命の赤い糸でつながれていると」

「そういうことです!!!!」

「まあ運命の出会いというのは否定はしないが、僕らはあくまで共に戦う仲間という関係だ」

「でも二人で一人ですよ?」

「んんんん!!相思相愛ッ!!!!!」


 顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと、久遠氏は駆け出し、どこかへと去っていった……。

 嵐の様な人だった……、ドッと疲れが押し寄せてきた。


「なんだったんだあの人は」

「よくわからないけど面白い人でしたね」

「あまり積極的に関わりたくはないがな」


 魔法少女として選ばれるだけの人間だ、そう無能であったり、悪人であったりはないだろうが、少し難有りだな、と僕は思う。


「スバル、人前でああいう興奮するような魔法少女にはならないでくれ。アレは多分よくない」

「了解しました」


 時間も時間だ、そろそろ仕事に戻るべきだ。

 タブレットの画面をスリープにし、僕は片付けを始める。


「でも、私は嬉しいですよ。ハフリが私の事を運命の相手と呼んでくれた事」


 気恥ずかしいが、僕自身……スバルに思うことは色々ある。


「そうか」


 悪く思う事はない、だが簡単にこの気持ちを僕自身が理解するにはまだ時間が掛かるだろうと、そう思った。


 ウワーっというさっきの久遠氏の叫びが遠くから聞こえた気がした。

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