第2話 魔法少女-Magic Girl-
この10年、世界は北極圏より現れる「メデューサ」と呼ばれるクラゲの様な怪物という脅威に晒され続けていた。
当時まだプラズマ砲やレールガンが実用レベルに達していなかった各国軍はメデューサ相手に膨大な数のミサイル、艦艇、戦車、航空機が使用されたが、次々と現れる敵に段々と疲弊、戦力は減るばかり、更に敵は「同化」により段々と数を増やし、支配領域を広げた。
おまけに敵は補給を断つ事や基地、工場を狙った攻撃や市街地への侵入などでこちらの無闇な砲撃を牽制しつつ、同士討ちを狙ったり人質を取るなどという狡猾さも持ち合わせていた。
悪い話はまだ続く、そこそこの頑丈さと巨体に加え、生物・無生物関係なく同化する能力を持った触手だけではなく、触れた物質を瞬時に腐食させ蒸発させる特性を持った光線でこちらの防御手段を尽く無に還すのだ。
結果、莫大な出血と浪費を強いられ、苦肉の策として核兵器が何度も使われ、住める土地まで減らしてしまった。
当然、人類もただやられている訳ではない。
魔術師や古代の遺物から作られた特殊兵器群、更には未完成だったプラズマ砲やレールガンを完成させ、敵に有効な攻撃や戦術を編み出し、技術革新を幾度も起こした。
だがそれでも、敵に奪われた生存域を取り戻すには到らず、段々と後退していくばかりだった。
だがある時、軍事連合E.L.F「地球解放軍」にある武装が提供された。
それが「魔法少女規格システム」だ。
10歳以上21歳未満の「適性」を持つ少女にのみ使用できる「魔術デバイス」をコアとする共通規格技術群。
動力炉であり制御装置であるコアからは燃料も無しに莫大なエネルギーが生成され、電力やジェネレーターの都合上巨大化せざるを得ないプラズマ砲やレールガンを人間が携行できるほどに小型化させて運用したり、腐食性光線や同化攻撃に対して耐性を持つ「バリアコーティング」や、素手で戦車を鉄クズにするぐらいの「パワーアシスト」、単独で長距離移動が可能な浮遊・飛行能力まである。
至れり尽くせりとでも言わんばかりの性能は、押し寄せてくる敵の侵攻をついに止める事に成功した。
製造・開発の為の設備も小規模で済み、使用する資材もそう貴重なものでもない、そして何より「一人」運用する為に必要な人的な資源の量も圧倒的に少ない。
とはいえ、欠点もある。
戦闘が激しくなればその分、多くの動きが求められる。
圧倒的な機動性やパワーに振り回される筋肉、神経や臓器といった肉体にも少なくないダメージが入り、更に過度の緊張状態が長く続く事は脳へのダメージにもなる。
過酷な訓練、命の危険に晒され続けるストレスやいつまでも続く戦いに耐えられるだけの心身の強度、負荷耐性を使用者である「少女」に求めるのだ。
当然だが、そうそう耐えられるものではない。
テスト運用の時点ですら大勢の脱落者を出し、そのデータからリミッターの増設と改良によってようやく30人の魔法少女が戦場に出た。
その戦果は知っての通り、人類がまだ北緯45度まで生存域を守護できている今日に繋がる。
当然、戦死者や脱落者も出るが、その数は1年間で4人程度、これまで年間数万単位で犠牲を出していたのに比べれば圧倒的に少ない、それだけで魔法少女の有用性はあきらかだった。
その後もシステムの改良・調整は続けられ、魔法少女の数は少しずつだが増える。
適性を緩くしたり、精神的なサポートを行ったり、部隊の連携を図るなど、兵士・兵器としての魔法少女は定着を始めた。
その中で、やはり問題となったのはシステムの性能に資格者がついていけない事。
第一世代魔法少女システム「E.L.F-01 エンジェルモデル」高い適性を必要とする上位機種「E.L.F-02 エンジェルモデル・ドミニオン」の二種が運用されているが、通常は大きく機能を制限した状態で運用されており、性能の伸び幅そのものはまだまだある、運用する基地や部隊によってはリミッターの解除や独自装備の開発まで行われている。
だが、性能と引き換えに人間の体ではどうにも耐えられないぐらいの負担が圧し掛かる。
規定された以上の性能にカスタマイズする場合には倫理委員会の承認が必要となる、承認されたものは運用開始から3年間で20件にも満たない。
そういう訳で現場と開発部から上がったのは「人体強化計画」、魔術・生体工学的な改造手術を処置し、使用者そのものをシステムに組み込むプランだった。
当然、倫理委員会は猛反発、上層部の反応も良いものではない、だが当の魔法少女本人や、前線に立つ者達はこぞってそれを望む。
こうして、第二世代魔法少女開発計画はスタートした。
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魔法少女が基地に帰還して最初にするのはメディカルチェックだ。
戦闘によるダメージ、メデューサによる侵食・同化の検査、そしてシステムの負荷による影響を調べ、必要な処置を施す。
衣装を脱ぎ、インナースーツだけになったスバルの体をチェックするのもまだ慣れない。
こう見えて僕も15の男だ、異性の体に興味が無いといえば嘘だ。
だがスバルの150センチもない幼い体にドキドキする事は、まあない。
どちらかというと妹か何かの面倒を見ている様な感じだ。
「異常は無い、スバルは何か感じる事はないのか」
「いえ、ありません」
「そうか、ならいい」
青い瞳に、白い髪、幻想感さえも与える美少女と言えるスバルの姿には少し慣れてきた。
本来なら僕がチェックするのは自身の装備と戦況ぐらいだった、だが今はそうでない。
魔法少女システムの運用や整備、そしてスバルと自分の状態の調査が加わってしまった。
それもこれもスバルが「マスター以外に私の体も心も触らせたくない」と駄々をこねるからだ、子供か、子供だ。
インナーの上から制服を着るスバルを背にし、僕はタブレットで情報を記録、報告し、一先ずの仕事を終える。
だが、まだまだやるべき事は無数にある。
「それで、今日は性能の何%程度出せていた?」
「想定されている仕様の12%程度でした、しかしハフリのデータから見れば驚異的な成長度です」
12%か、ユニゾン適性を考慮したとしても相変わらず低い数字だ。
1ヶ月前、最初など5%にも満たなかった事を考えれば確かに倍以上であるが、あれだけ動いてもこの程度、と考えると僕以外にもっと適任が居たのではないか、と思ってしまう。
「通常の魔法少女が、スバルの仕様の30%程度だったな」
「はい、とはいえ性能だけが全てではありません。戦術・判断もまた重要な要素です、ハフリの判断力と技能は間違いなく評価に値するものです。もっと自信をもってください」
どうだか、な。
僕は少し恥ずかしい気分のまま次の仕事へ取り掛かる。
タブレットの表示を変更し「開発モード」にする。
E.L.Fのデータベースから閲覧可能な魔術・科学技術の一覧と、現在のスバル……「E.L.F-XX01 ヘブンスハート・ステラ-プレアデスⅦ」のステータスが表示される。
スバルは、魔法少女だ。
他の魔法少女と違い、装備を纏い、システムで強化された人間の少女ではなく。
生まれる前からコアとの適合を前提として「設計」された人造人間「ホムンクルス」を素体とした、一体化型の魔法少女システムそのものだ。
倫理委員会と前線、現場の譲歩した妥協案。
人間を改造してはいけないのなら、はじめから魔法少女システムそのものが肉体を持てばいい。
「人造魔法少女計画」のプロトタイプ7番基、それが「ヘブンスハート・ステラ」であり「守春」だ。
二人で一人の魔法少女としての僕の役目、それは守春の代わりに引き金を引く事。
僕は彼女の主人であると同時にシステムの一部であり、外付けの制御装置でもある。
タブレットの中に映るステータス部分の一部に自分の名前が含まれている事がそんな現実を僕に突きつけた。
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