Hevens Heart-Stella 魔法少女規格-MAGIC_GIRL_STANDARD
青川
第1話 戦闘領域 -Battle Field-
既に戦闘は始まっている、一体どこを抜けてきたのか敵は防衛ラインを突破して市街地に突然現れた。
「生存域守護線」からそう遠く離れていない故に防衛戦力は配備されているとはいえ、状況は最悪だ、先制攻撃を許したせいか部隊は壊滅、おまけに避難誘導は絶望的。
「ハフリ、敵を視認した」
「ああ、僕にも見える。スバル、速やかに敵を排除する、多少の無茶な機動も許可する」
本隊を待っている時間はない、待っている間にも人は死ぬ。
青空に浮かぶ巨大な幽霊の様な「クラゲ」の群、あれが僕らの敵だ。
最大飛行速度のまま僕達はプラズマライフルを構え、標的に向けて照準を合わせる。
引き金を引くのは――僕だ。
青白い光弾がクラゲの傘の様な外殻に衝突して爆発する、内部に見える結晶体「コア」に照準を合わせもう一度引き金を引く。
燃え上がるクラゲに二発目のプラズマが吸い込まれて爆ぜる、これで標的はダウン。
「おみごと」
「世辞はいい、それよりも機動を緩めるな、急げスバル」
チーズの様に穴の開いたビルの間を縫い、敵に感知されない様に素早く飛ぶ。
二体目の標的は地上の砲撃部隊の生き残りを触手で襲っている奴だ、対空砲火が少ないと思えば戦車部隊はこの触手で「同化」されて分解されてしまってたのが理由か。
「ハフリ」
「……もう彼らは助からない」
体の半分がクラゲと同じ半透明なゼリー状となってしまった人々を助ける事はできない、もう何度も見た光景だ。
ライフルの照準を傘の部分へ合わせ、引き金を二度引く。
放たれた二発の弾が標的のコアを破壊して沈黙させた。
燃える残骸を後に次の標的を探す、が仲間が続けて二体もやられれば何を考えているかわからないクラゲどもも異変には気付く。
浮かび上がって傘の部分についた目玉を開きクラゲ達は一斉にこちらを見る、僕達が左手を前にかざしシールドを展開するのと同時にクラゲの目から黒い光線がこちらに向けて放たれる。
腐食性光線(コラプサー)と呼んでいるこれに対して物理的な防御はあまり得策ではない、金属だろうと容赦なく腐食させ、蒸発させる攻撃に対してはエネルギーシールド、あるいはバリアコーティングがなければ防御する事すら出来ない。
「ハフリ、いまの内に」
だが、この攻撃は一度放たれると次に放たれるまでにインターバルがある、だからその間に距離を詰める。
僕らは急加速し、一番近いクラゲの真下に触手を回避しながら潜り込み、直接コアを狙い撃ち、そのまま離脱、「感覚」でそれが沈黙した事を確認しつつ、次の獲物を選択する。
ビルを挟んでこちら側に腐食性光線が飛んでくるのを回避し、飛んできた方角を向くと地に根を張る個体を見つける。
続けて地中やビルの中から触手が次々と伸びてくるが僕達の目にはそれが全て地に根を張っている個体から伸びている事がわかった。
「あれが群の中心だ、一気に叩く」
「接近します」
基本的にこいつらは個体ごとに自由に人を襲うが、ときおり、群を作るクラゲがいる。
そういう場合は厄介だ、人間や動物の様に「指揮」をして、「戦術」を使って狩りをする。
クラゲどもは基本的に頭がいい、それこそ部隊を孤立させ、確固撃破したり、補給経路を狙ったり、迂回したり、そして仲間を盾にする事だってする。
二体のクラゲが壁となるように割り込んでくる、リーダーを守るつもりだ。
「スバル、突っ込め」
「了解」
ライフルを腰にマウントして、代わりにブレードを手にする。
「エネルギーライン接続、剣を委ねます」
ブレードの芯となる発信機から光刃が伸びる、バリアフィールドを武装に転換したエネルギーブレードだ。
まず二体のクラゲの間を通り抜ける瞬間、速度を維持したまま角度調整、全身を回転させて刃をくいこませる。
クラゲの体を覆う薄いバリアと干渉し、まるで肉を斬っている様な感覚が腕に伝わってくる、そのまま推進力を全開にし、勢いのままコア諸共に二体のクラゲをぶった斬る。
だがそれだけの勢いで回転と姿勢制御をすれば体にも相応の負荷がかかる、僕の視界が一瞬揺れる、がスバルの動きには影響がない、故に戦闘継続に問題ない筈。
「ハフリ、次の行動を」
盾となる手下を失ったボスクラゲは触手をひっこめ、地下へと逃げ込もうとする。
だがそうはさせない。
ブレードを振りかぶり、そのままの勢いでコアのあるであろう位置めがけて投げる。
傘を貫通し、クラゲは地面に縫いとめられた後に肉体を維持できずドロドロと溶け始める。
どうやら今の一撃できちんとコアは壊せた様だ。
頭を失ったクラゲ達が次々とこの場を離脱しようと空へと上がっていく。
だがどうやらその判断も遅かったようだ、次々と飛来するレールガン、プラズマの光弾、そして魔法少女。
本隊の到着によって残敵掃討が始まる。
それを尻目に僕らは地にぽっかりと空いた穴を見る。
「なるほど、クラゲ達は地下から……だから防衛網から抜けたわけか」
「その可能性は高いでしょう、彼らもまた……進化しているのでしょうか」
「……対策を考えるのは僕らの仕事ではない、必要な事は僕から報告しておく、スバルはこちらへ帰還しろ」
「了解、ハフリ」
彼女、スバルとの意識リンクを解除する。
拡張された感覚が消え、視界と、肉体の感覚が「こちら」側へと戻ってくる。
今まで空を舞っていた力強い少女の体ではなく、歳相応の少年の体、この違和感にはまだ慣れない。
「ご苦労だった、夜火准尉」
聞きなれた静かで重い女性の声を聞くと、きちんと自分がこちらに戻ってこれている事がはっきり分かった。
「労わるなら彼女を労わってやってください、感覚や意識、思考こそ共有していますが実際に肉体を使っているのは彼女なのですから」
引き金を引いたり、剣を振るったのは僕の意志だが、僕の体そのものは戦場には行っていない、基地で座っていただけだ。
「そうはいうが、彼女と君は文字通り二人で一人だ。彼女の功績は君の功績でもある。それにこれは君にしかできない仕事だ」
シンクロユニゾンシステム、異なる人間同士の意識と心を繋ぐ、画期的な戦闘システム。
当然、使用者同士の相性もあるだろうが何よりも。
「僕にしか、できない事か」
守春(スバル)、彼女の「主人/マスター」として、僕は……夜火祝(ヨルビ・ハフリ)は本当に相応しく在れているのだろうか。
脳に焼き付くのはクラゲによって同化された人間、腐食によって穴だらけとなった街、瓦礫に潰された死体、見慣れた戦場の景色。
あの中をこの足で駆けずり回っていた頃よりは、確かに役に立てているのかもしれない。
感覚を調整する為に、僕は瞑想を始めた。
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